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9. 装飾品が多いと邪魔

 元晴と保名は風和国の南にあるラビアーンで商売をしていたが、いろいろあってこちら、風和国の方に拠点を移した商人という設定で、三後屋を訪れることにした。

「ふふふ、もっさんよ。怪しい商人の鏡だな。愛娘に見られたら大泣き確定だ」

 保名は指を差して元春を嘲笑った。どこにでもいるような商人という風に見られたいため、元晴は髪色を水色から黒に変えた。墨で無理やり染めたため、髪がややぎしぎしである。ラビアーン風の首元や腰回りがゆるっとした服装に、首飾り・指輪・腕輪などなど装飾品をじゃらら、じゃらららと身に付けている。ラビアーン相手に儲けてきましたアピールが見え見えである。

「うるさい。……お、お前も大概だからな!」

 元晴は心底落ち込んだように項垂れた。愛娘にだぁれ……?と言われたり、怖がられて逃げられたりはしたくない、想像でも嫌だとでも思っているのだろう。微笑ましいことだ。だが、たしかに、保名の格好も元晴のことを笑えない怪しげな雰囲気がある。こちらも至る所に装飾品がじゃらじゃらしており、自己の富を誇示している。そして、顔には小さく丸い黒眼鏡を着用している。これが、保名の人を食ったような笑みと相まって、怪し~い雰囲気を醸し出していた。

「似合うだろう?」

 これらの服装を意外に保名は気に入ったようで、得意げに胸を張っている。

「……不思議とな」

 少々呆れたように元晴は言った。保名は昔からこーゆー奴だった。艶然と構えているが、非常にノリがいい。普段のテンションのまま、馬鹿をやっていることもあって少々面を食らう。自分のイメージを考えてほしい。

「もっさんもよう似合っている」

「嬉しくない!!!!!」

 元晴が駄々を捏ね、保名がふふふと笑いながら、二人は出発した。微笑ましいことだ。彼らは三後屋におこんにちは!ラビアーンから風和国に商売の拠点を移しました!の挨拶に向かった。かなり儲けてそうな雰囲気と何でもやる商いをちらつかせて、麻薬の出所の情報を掴みたいところだ。



「ここらで商売を始めようと思いまして、ご挨拶に上がりました」

 元晴扮する商人が三後屋の主人・隆利(たかとし)に挨拶した。元晴と保名の身なりを見ると、取り次いだ者は急いで主人を呼びに行った。偉そうな格好をしていたおかげである。金に糸目をつけなくてよかった、もっさんは糸目だがと保名は心の中でしょうもないことを考えていた。

「たしか、ラビアーンの方で御商売なされてたんですよね」

 隆利は取り次ぎの者からいろいろ聞いていたのだろう。情報が行き渡っていることはよいことだ。

「ええ、ですが、あちらの方は身の危険がありましてね……」

 元晴が神妙そうに言った。ラビアーンは戦争はしていないが、マフィアや海賊がお盛んである。身の安全性はあまり見込めない。

「そうですな。ですが、結構儲けていたようで……」

 元晴と保名がこれ見よがしにじゃらじゃら身に付けている装飾品から、隆利はそのように予想したのだろう。もしくはおだてているだけか。隙がないなと保名は思った。

「まあ、そうですな!!ですが、安全な商いの場があればそちらに移りますよ」

 ガハハハと元晴は鷹揚に笑った。

「ほぅ……、つまりここは安全だと?」

 隆利は自分のシマで安全に儲けられるとでも?と意地悪げな笑みを浮かべた。

「いやいやシャーロの方との話ですよ」

 巨魁感がある笑みだと元晴は焦って、少々早口になった。ここらを拠点として、ゆくゆくはシャーロの方で取引したいという旨をやたらハキハキと伝えた。

「なるほど。戦争が終結したばかりではありますからね」

 戦争終結後、シャーロとの貿易規制が緩和され、まあまあ自由に商売ができるようになった。だが、まだ、多くの商人が様子を窺っている状態である。したがって、山が当たれば一儲けできるというわけだ。

「ええ、そうなんですよ。もしよかったら何かいい品ありませんかね。言い値で仕入れますよ」

 手持ち無沙汰な保名が隆利ににこっと笑いかけた。

「そういえば、あなた方は何を売られておいでで?」

「ラビアーンからは珍しい宝石を仕入れて風和国で売っていました。……表向きの話ですが」

 ラビアーンで何を売っていたのかは元晴と保名の怪し~い笑みの下に伏せられた。ラビアーンの治安の悪さと二人の怪しさにかかれば、同類、つまりは、麻薬売り捌き仲間と思われただろう。

「では……、これが何かお分かりかな?」

 隆利はかわいらしい白いお花を二人に見せた。花びらが四枚ほどの一重咲きの小さい花である。

「これは……、雛芥子ですね」

 保名は愛らしいと余裕綽々の笑みを浮かべた。

「はっはっはっ、よくお分かりで。……実はこれとよく似た花から精製される粉を持っているのですが、……ご興味はありませんかな?」

 話の流れ的に芥子の話じゃん、阿片の花じゃんと元晴はうっかり考えていた。植物に詳しい保名のおかげで試験を突破できたと元晴はにこやかな笑みを浮かべた。ちなみに、保名は特別植物に詳しいわけではない。ここで素直に芥子の花は出さんだろうという天邪鬼な頭が回っただけである。

「儲けになりますかな?」

 元晴は興味津々です!!というように身を乗り出した。

「もちろん。質の悪い物でも売り捌けますよ。……特に戦争帰りの人間は虜になりやすいようで……」

 隆利は何とも思っていないように、にっこりと笑った。

「はっはっはっ、そうですか。たしかに、ラビアーンでも似たような話がありましたな」

 保名が間髪入れずに、隆利に乗っかった。同じ穴の狢アピールをするためだ。

「ほぅ、そうですか。では、また別日にお渡ししますよ」

「……ありがたい!」

 元晴は何とか鷹揚な笑みを浮かべた。



 三後屋から帰ると、元晴は何やら深刻そうな顔をしていた。大方、麻薬の流通を止めなければと気負っているのだろう。元晴は昔から真っ直ぐ過ぎる奴なのだと保名は微笑ましく思った。

「彼らの動向を探って、早く倉庫を突き止めよう!」

 元晴は急がなければと第五師団の者に指示を出そうとした。

「……第五の団長殿よ、第六師団の方が適任だろう。折角、協力体制を敷いているのだ」

 今まで三後屋について調べていた第六の方が適任だろうと保名は窘めた。

「……ああ、そうだな」

 気が急いていたと元晴は手早く自己反省した。

「しかし、戦争で生きて帰ってきた人間を薬漬けとはな……」

 保名はむぅと歪めた口元を扇で隠した。

「酷い話だ……」

 元晴は言葉を探したが、生憎、酷いとしか言いようがなかった。

「……治療の準備をしておこう」

 麻薬患者に特効薬があるわけではない。完治までは長い歳月を要し、もう手遅れの者もいるかもしれない。それでも、準備はしておくべきだろうと保名は思った。

「ああ、頼む」

 元晴は神妙に頷いた。

「……戦争に行くと大なり小なり心に傷を負うのだな」

 知ってはいたが……と元晴は呟いた。

「……玉蘭さんが出家するほどだ」

 保名は友の兄の丸めた頭を思い浮かべた。図太そうにみえたのだがな、……いや、それとこれとは無関係かと保名は目を閉じた。

「翠達も、だろうか」

 元晴は身近にいる戦争経験者の名を出した。

「そうだろう。もっとも、そうは見えないがな……」

 傍目から見て、森之助は特に問題なさそうに見える。翠も戦争に行く前と変わっていないように感じる。だが、傷は見えないところにもあるものだ。

「弱みにつけ込むのは感心せんな……」

 元晴は額を手で覆った。

「……彼らはそういう人間なのだよ」

 下衆と保名は扇を広げた。


 

 それから、第六師団などの調査により、三後屋が主に使っている阿片の倉庫の場所を突き止めることに成功した。元晴と保名は早く壊滅できるといいなと笑みを見せた。











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