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小話4. 琴音と佐知子~二人は……~

 琴音が佐知子と出会ったのはほんの幼い頃。琴音がわがままし放題で、お世話係が頻繁に交代していた。その最後のお世話係が佐知子だった。初めて会った時、佐知子は何とも冴えない顔をして、気に入らなかった。しかし、琴音が何を言いつけても言う通りにして、そうじゃないと叱ると意気消沈、悪くないわと伝えると、心底嬉しそうに笑っていた。それが面白かった。どういう流れか、佐知子に琴や三味線を教えることになり、ビシバシ厳しい指導をしても、佐知子は琴音に尽くしていた。

 そんな日々は、新国王の誕生によって終わりを迎えた。梅家から妃を出さなければならないと琴音の父が息巻いていた。父の兄、梅家の当主に娘はおらず、候補は年頃の琴音か、まだ幼い琴音の妹だった。琴音は後宮に行きたくはなかったが、妹よりも下に思われることは我慢ならなかった。琴音が後宮に行くとなれば、梅家から女官を連れて行くことはできるが、身分の低い佐知子は選ぶことはできなさそうだった。

「佐知、わたくしはあなたを連れていけないわ」

 幼い頃からの付き合いだからだろう。琴音は無性に寂しかった。離れたくなかった。佐知子も同じ気持ちだろう。目が赤くなって、鼻をぐすぐすといわせ、みっともない状態になっている。

「琴音様の輿入れを嬉しく思います」

 それでも、佐知子は琴音との別れを受け入れた。

「それだけ?」

 何か他にないか聞きたかった。佐知子との別れ、見知らぬ男との結婚。琴音は気弱になっていた。

「もし、琴音様がお許しであれば一つ約束がしたいです」

「何かしら?」

「琴音様と私は身分が違いますので、もうこの世でお会いすることはできません。ですから、琴音様、私とあの世でお会いする約束をください」

「ふっ、ふふふ……、よくぞ言いました」

 琴音が後宮に行くことを促し、会えない寂しさを埋めてくれるもの。その両方を兼ね備えたこの約束が欲しかったのかもしれないと琴音は感極まった。だから、琴音は佐知子にこれを我が身と思ってと指輪を与えた。その時の気まぐれかもしれないが、後宮に入っても、琴音は佐知子の影を胸に秘めたままだった。


 後宮でも、琴音はわがままし放題で、護衛が頻繁に交代していた。そんなある時、翠という女官がやって来た。何とも覇気のない顔をしていた。琴音は気に入らないと思ったが、翠は紫苑にも靡かず、何より、琴音の命令を受け入れてくれた。琴音は佐知子のようだと感じた。

 事実、翠は佐知子の知人だった。琴の腕を見る限り、かなり目をかけていたのだろうと琴音は悟った。翠は佐知子が大事にしていたらしい指輪を持って来ていた。あの時与えた指輪である。そして、佐知子は死んだと言った。琴音は衝撃を受けた。そして、どうしてこんなにも頭が真っ白になるのか、自分がわからなくなった。困惑した琴音は佐知子の死は置いといて、翠のことを考えるようにした。

 翠は琴音の要望を適切に叶えてくれる人間だった。佐知子のようだと思っていた。けれども、それは違うと気がついたのは、琴音が顔に火傷を負った後のこと。琴音は気弱になっていた。翠に顔を見られたくなかった。

「いつかは……、あなたにこの下を見られるのよね」

 琴音は左手で包帯の上から忌々しい傷を触れた。

「そうですね。お嫌ですか?」

 翠は優しく琴音の手を握った。

「……嫌と言ったら?」

「琴音様が大事なので、見ますよ」

 翠は琴音のわがままを聞き入れないらしい。

「わかるまでお傍にいますから……」

 その上、自分の傍に居座るつもりのようだ。

「ふっ、ふふふ……」

 琴音は心の底から笑いが込み上げた。抑えるのが大変だった。

「何でも……ないわ」

「本当ですか?」

「そうよ。あなたがあまりにも気に入らないこと言うから……、おかしかったの」

 そういえば、翠はこんな人間だった。琴音の命令を翠のできる範囲に改変する。自分の色に染めようと思っても決して染まらない。佐知子とは違って琴音の命令を至高と思い、ただ従う人間ではないのだ。琴音はそんな翠も悪くないと感じている自分に気がついた。己の意のままにならない人間を琴音は受け入れてしまっていた。その事実に、琴音は笑うしかなかった。そして、ふと、佐知子なら何と言うか、しりたくなった。顔の傷は見られたくない、でも、世話はしてほしい。そう命令したら佐知子はどうするだろうか。己の両目を潰してでも琴音の命令を叶えてくれるのではないか?

「それより、もう一回琴を弾いて」

 翠は琴音に言われた通りに琴を弾いた。佐知子に仕込まれたため、たしかに二人の琴の音は似ている。だが、本質的には全く違う。従順さの欠片もない。誰にも縛られない、何色にも染まらない黒。やはり、気に入らない。

 琴音はあの世で会おうという佐知子との約束を思い出した。琴音はあの世があるかどうかしらないが、佐知子ならば待っているような気がした。

 











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