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41. 悪いことは立て続けに

 凛の訃報により、後宮ではお正月のどこか浮ついたムードが立ち消えた。翠は手持ち無沙汰になったので、ちゃん、ちゃらちゃらちゃらちゃんと琴を弾いた。凛と一緒の部屋で倒れていた女官も死んだらしいと噂されている。助からなかったのか、紫苑が上手くやったのかはわからないが、生きているといいなと翠は思った。

「翠、ちょっといいかしら」

 利子が翠に声を掛けてきた。 

「何でしょうか、利子さん」

 翠はにっこり笑った。何の用だろう、仕事は押し付けられたくないぞと身構えた。

「あなたは紫苑様と仲が良いじゃない?」

「さあ……、賭弓(のりゆみ)のことで大変お世話になりましたが」

 翠は曖昧な笑みを浮かべた。

「どうしたら、紫苑様と親しくなれるの?」

「え?……知りませんよ」

「いじわるしないでよ!」

「…………はぁ」

 何こいつと翠は今年で一番怪訝な顔をした。

「……今まで悪かったわ」

「何の話ですか?」

 翠はすっとぼけた。

「わかっているでしょう?……妃達の前で恥をかかせようとしたのも、仕事を押し付けていたのも、お、男達にあなたを襲わせようとしたのも……、全て私のせいよ」

「どうしてそんなことしたんですか?」

 へえ、素直に自分のやったことを告白する人がいるんだなと翠は感心した。  

「あなたが憎かったから……、紫苑様と親しいあなたが!」

「嫉妬ですか……、大変ですね」

「馬鹿にしているの?」 

「いいえ……、許しましょう」

「え?」

 利子は本当に?と驚いたような顔をした。

「私はあなたを許しますよ、利子さん」

 そんなにびっくりされるとは心外だなと翠は思った。翠さんは意外と寛大なんだぞと胸を張った。

「……ありがとう、嬉しいわ」

「その代わり、もし今後あなたが私に何かした時は……」

「しないと約束するわ……、天に誓って!」

 利子ははきはきと宣言した。天に誓う、つまり、天におわす神や仏に誓って約束をする、破ったら罰せられてもよいということである。しかし、翠は神や仏は信じていないので、それに誓われてもなぁと微妙な気持ちになった。

「私は天なんて大きいものはよくわかりません。ですから、紫苑様に誓って下さい。あなたの恋しい人に、ね」

 翠は利子に目を細めて微笑みかけた。

「わかったわ、紫苑様に誓うわ!」

「……もし、今後あなたが私に何かした時は、そのどす黒い悪事が紫苑様の知るところになるでしょうね、はははは」

 翠は真顔のまま乾いた笑い声を出した。利子はギュッと唇を噛んで、身体の震えを押さえている。

「で、何でしたっけ?利子さん」

「え?」

「紫苑様とお近づきになる方法ですか?」

「え、ええ、そうよ」

 利子は知りたいというように身を乗り出してきた。

「紫苑様はあなたの名前をご存知のはずです。認知はされているみたいですよ。ですから、(あるじ)や梅家のために誠心誠意仕えている姿を見せれば、心打たれて相談にも乗ってくれて、距離も縮まると思いますよ」

 利子はなるほどというようにうなずいた。翠は心の中で知らないけどねと付け加えた。

「関わる機会が増えれば、押して引いての駆け引きでもやればいいんじゃないんですかね」

 翠はそーゆーことに詳しくない。もし、純粋に恋愛相談をしたいのならば利子は相手を間違えている。

「あなたはこれからどうするの?」

「……どういう意味ですか?まさか紫苑様に近づくなとでも言いたいんですか?」

「うっ……」

 図星のようだ。翠は図々しい人間だと片眉を上げた。

「用件が無ければ私からは近づきませんよ」

 翠はため息まじりに言った。

「翠は、紫苑様のこと好きじゃないの……?」

「あなたには関係ないでしょう」

 距離感がつかめず、人の心に汚い足で踏み荒らす人間は大嫌いだ。利子にそんな質問をしていいなんて許可した覚えは翠にはなかった。

「ちょっと待って!」

 利子はやけに焦ったように翠の腕を掴んだ。

「何ですか?」

 翠は思わず、眉間に皺を寄せたガラの悪い顔になった。

「……紫苑様はあなたのこと、好きじゃないの?」

「……知りませんよ」

 何言ってんだこいつ?と翠は首を傾げた。今年で一番怪訝な顔をした。さっきの怪訝さを更新した。どうしてそんなことを聞くのだろうか。紫苑がどう思っているかは紫苑に聞けばいいのにと疑問に思った。

「利子さん、翠!急いで来てください」

 すると、焦ったように女官が走ってきた。

「何ですか?」

 翠は状況説明を促した。

「琴音様が……」

 彼女が言うには、琴音様は昼寝中に熱湯をかけられて顔に火傷を負った。今、急いで医官を呼びに行っている。そして、犯人はこの宮の女官で、自室で死んでいるのが発見された。傍には鳥兜と見られるものがあったそうだ。

 翠は急いで琴音の元に向かった。かすかにうめき声をあげて苦しんでいる琴音の姿を見て、頭が冷えた。これは現実なんだなと身に染みた。その後、医官がやって来て、治療を行った。医官によると、命には問題ないが、顔には一生物の傷が残るらしい。











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