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39. 笑顔は武装

 遂に賭弓(のりゆみ)が始まった。翠が参加するのは後宮女官の部 (葵家関連は除く) 個人戦である。人数はざっと二十人ほどだろうか。妃の中でも代表を出していないところもあるのだろうが、いっぱいいるなぁと翠は思った。梅家代表である翠の順番は最初の方だ。先の方が格が高いらしい。恐らく、梅家代表か、鈴蘭家代表に勝たせるために後ろの人が調()()するためだろう。翠は順番に従って、一手(ひとて)を五回、計十射引いた。集中できたようで、翠は十射十中の成績を収めた。十中は翠と美登のみだった。美登は弓が得意なので、勝つには骨が折れる相手だ。だが、翠が綺麗な矢を持っていたことでやや動揺しているようだ。らしくなく、美登の矢所(やどころ)が乱れていた。

「まさか、皆中(かいちゅう)が二人とはな……」

 国王が手を叩きながら褒め称えた。次からは翠と美登による射詰(いづめ)が行われる。一射ずつ矢を放ち、的中させ続けた者が勝ちとなる形式だ。

「では、あれを用意しろ」

 国王が命令すると先程の的よりも一回りほど小さい的を設置した。あれ、的が小さくなるなんて聞いてないぞと翠は片眉を上げた。国王は面白がっているのだろうか。だが、翠には好都合だった。的が小さくなるため、狙いがわかりにくくなり、外しやすくなる。ただでさえ美登は動揺しているのだ。小さい的であっても変わらず、翠が先に(あた)ればさぞかし焦るだろう。

 翠は深く息を吸って吐き出した。余計な考えは一時中断、的に集中しようと的前に入った。足踏(あしぶ)み、胴造(どうづく)りは身体の中心を意識しながら、左手(ゆんで)にも右手(めて)にも寄らない、中庸だ。物見(ものみ)をグッと入れ、弓構(ゆがま)え、打起(うちおこ)し、引分(ひきわ)け、(かい)。身体の中心を意識しながら離れ。静まり返った弓道場に弦音が響く。パンッと的紙が破れる音がした。翠は中ったなーと思いながら、残心(ざんしん)弓倒(ゆだお)しをした。次いで、美登が弓を引いた。ドスっと安土(あずち)に刺さる音がした。美登は外してしまったようだ。

「勝負ありだな」

 国王がぼそっと呟いた。早く終わってしまってご不満そうである。小さめの的なんか出すからだ。

「後で褒美をやる」

「ありがとうございます」

 翠は無事に終わって何よりだと人気のないところに移動した。疲れたので、一息つこうと思ったのだ。すると、後ろでカサッと気配がした。誰かついてくるなぁ、誰かなぁ、嗚呼、鬱陶しいと翠は片眉を上げた。

「どちらさんかな?」

「わかっているでしょう!」

 美登が荒々しく飛び出した。面倒な人だ。

「翠、その矢は」

「美登さんいい勝負でしたね、ありがとうございました」

 翠は美登の言葉を遮った。そして、いつものようににっこり笑いかけた。

「今回は矢がボロボロでなくて、本当によかった」

 翠はただ美登にに笑いかけた。

「くっ……」

 美登は悔しそうに顔を顰めた。そして、翠の前から逃げるように立ち去った。弓の上手い美登の面子は多少なりとも潰れたことだろう。いい勉強代だと思って、これからは何もしないといいなと翠は座り込んだ。

「さっきはすごかったね。葵家以外に弓ができる人がいるんだね」

 翠が腰を落ち着けると近くの石の上から声がした。誰だろう、身軽な人だ。不覚にも全然気づかなかったと翠は声の方を見上げた。

「ありがとうございます」

 とりあえず、当たり障りのない笑顔を作った。

「今の人とは仲悪いの?」

 やはり、あの会話を聞かれていたようだ。翠としては聞かれても困る会話はこんなところではしないから構わないが。

「……良くも悪くもありませんよ」

 翠にとって美登はどうでもいい人間だ。それにしても、この人はなぜこんなところにいるのだろうか。

「もしや、迷子ですか?」

 翠はテキトーに聞いた。

「うん!姉上はどこか知らない?」

 本当に迷子かよと翠は拍子抜けした。

「姉上?」

「……槙子殿のことだよ」

 槙子に弟なんかいたのか、いや、それはないと頭の中で打ち消した。身寄りがないと噂にあったはずだ。翠は頭の中の引き出しから記憶を引っ張り出した。加えて、あの男は全然槙子に似ていない。髪の色が黒と同じだけで、大きな金色の瞳に、目鼻立ちが整った派手な顔をしている。

「僕のこと知らない感じ?」

 男は石からスッと飛び降りて目線を合わせてきた。背丈は同じか、男の方が翠よりも小さいようだ。

「申し訳ありませんが……」

 結構偉い人なのかなと翠は面倒になってきた。

「僕王弟だよ、覚えていて損はないよ!」

「はあ」

 王様ともあまり似ていないなと翠は首を傾げた。瞳の色は似ているが、それ以外は全く似ていない。王弟の方が華奢であどけない雰囲気がある。

「君、名前は……たしか翠って言われてたっけ?」

「はい、翠と申します」

「なあ、もしよかったら僕のとこ来ない?」

 たしか、この人は戦争にちょくちょく行っているとどこかで聞いたなと翠は頭の中を整理した。

「さっきの弓は凄まじかったぜ。……人でも殺しちゃうのかと思った」

 王弟はにっこり歯を見せて笑った。恐らく、これはお世辞だろう。さっきの翠に人を殺す気なんてさらさらなかった。

「……考える時間をください」

 翠はにっこり笑って煙に巻いた。今のところ、翠に戦争に征く気はない。

「いいよぉ、でも、またすぐ行っちゃうからその時までに決めてねー」

「いつ向かわれるんですか?」

「……桜が咲く頃かな」

 翠の髪を飾っている梅を見て言った。

「そうですか、大変ですね。……王弟殿下は槙子様をお探しでしたか?」

 翠は話を元に戻した。

「うん!」

 王弟は元気よく返事した。

「安養宮に、いらっしゃると思いますよ」

 槙子は自分の宮にもう戻っているはずだ。

「どこそれ?」

「……ご案内しますね」

 翠は仕方なく王弟を案内することになった。そういえばどこかで王弟の名前を聞いたような気がするなとぼんやり記憶を探った。

「つーかー、王弟って言われるの何か嫌だなぁ」

「そーですか」

「だって、僕は確かに兄上の弟だけど、王様の弟って言われるのあんま好きじゃないんだよねぇ……」

 よくわからないが深入りしたくないなと翠は危機感を抱いた。

「……もうすぐ槙子様の宮に着きますよ」

「アハハハ!流すのが下手だねぇ!」

 王弟は口を大きく開けて笑った。翠の眉間にちょっと皺が寄った。そんなこんなで、翠たちは槙子の宮に着いた。

「槙子様、王弟殿下をお連れしました」

「姉上!」

 王弟は槙子に向かって飛び込んだ。

「お久しぶりですね、遮那(しゃな)

 槙子は王弟、遮那を手慣れたように出迎えた。いつもの光景なのだろうか。困った王弟であると翠は片眉を上げた。

「では、失礼いたします」

「翠、ちょっと待って」

「……はい」

 そそくさと帰ろうとしていたところを槙子に呼び止められた。帰る気満々だったので、半身になっている。

「凛さんの様子を見に行ってほしいの」

 正月一連の行事に凛は欠席していた。今日の賭弓では、体調が良かったら見に来るという話があった。しかし、凛の姿はなかった。体調が芳しくないかもしれないと槙子は心配なのだろう。槙子は自分で見舞いに行きたいのかもしれないが、今から王弟を相手にしなければならない。大変そうだ。

「……かしこまりました」

 翠はしゃーねぇなーと凛の宮に向かった。























最初の的・一尺二寸から小さめの的・八寸になった。

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