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38. 素敵な一年になりますように

 年が明け、お空に花火が打ち上がった。いろんな色が夜空を彩っている。あれは、金属の炎色反応とやらを利用してさまざまな色合いを出しているらしい。紫苑が言っていた。滝を表現している花火もあって実に面白い。

「琴音様、あけましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

 翠が空を眺めていると、琴音がスッと横に来たので、礼儀正しく新年のご挨拶をした。

「ええ……、良い年になるといいわね」

 琴音は艶やかに微笑んだ。花火に照らされてとても綺麗だった。

 

 このようにしばらく、美味しいものを食べたり、なんかめでたいらしいみたいなことをやったりと、正月の行事をこなした後、賭弓(のりゆみ)の日がやって来た。

「翠、準備はできた?」

「はい、できました」

 琴音からもらった鶴があしらわれた白い服に袖を通した。

「悪くないわ……」

 変かもしれないが、琴音が満足ならもうそれでいいだろうと翠は不動の心になった。

「しゃがんで」

 翠はなぜ?と思ったが、言われた通りに琴音の前に跪いた。

「頑張りなさいね」

 激励と共に琴音は翠の黒い髪に何かをさした。

「ありがとうございます」

 とりあえず、応援の礼を言ったが、頭に何したのかなと翠は首を傾げた。しかし、そのためだけに鏡を見るのも面倒だし、弓を引く時に邪魔にならないところだからいいかと思ったので、翠はちゃっと賭弓の会場に行った。会場にはいっぱい人がいた。美登の姿もあった。

「紫苑様、保名様、こんにちは」

 そして、紫苑と保名もいた。年の初めにもう会っているため、翠はこんにちはと挨拶した。

「……白いな」

 紫苑が少し驚いたように言った。

「そうでしょうとも」

 翠も琴音にこの服を渡された時、白くてびっくりしたものだ。

「よく似合っているぞ、ふふふ」

 保名は黒しか着ていない人間が白い服を着てきても動じない人のようだ。

「似合っている。……その梅も」

 紫苑が保名に続けて言った。へぇ、琴音が頭にさしたのは梅だったのかと翠は思った。そういえば、琴音の庭に赤い梅が咲いていた。ほんのり甘い香りもしていた。これが梅の匂いかとどこか感慨深く思った。

「ありがとうございます。どれも琴音様にいただいたんですよ」

「……よかったな」

 紫苑は新年のめでたい雰囲気とは似つかわない顔をした。

「ふふふ、矢はどうした?」

 紫苑の様子を面白そうに眺めながら保名が聞いてきた。

「不正がないようにとあっちで預けさせられました」

 そろそろ確認も終わっただろうと翠達は矢立(やた)てを見に行った。

「あらーまぁ……」

 翠は素っ頓狂な声を上げた。たしかに、翠の矢はそこにあった。しかし、見るも無残なビフォーアフター。きれいな矢羽(やばね)だったはずが、何と羽がむしり取られていましたとさ。なんたるデジャヴ!あの矢は紫苑から借りていた、もしくはもらっていたもので、ちょっとお高めの黒鷲の羽だったのに……と翠は残念に感じた。だが、矢が壊されることは翠の想定の範囲内だった。

「そんなこともあろうかと思って、用意しておいた」

 紫苑は担いでいた矢筒からスッと同じ矢を取り出した。紫苑の想定の範囲内でもあったらしい。

「ありがとうございます。……申し訳ありません」

 翠は一応矢が壊されたことを謝った。こちらの不注意とも言えるからだ。

「問題ない。まだある」

 紫苑は大きな矢筒の中を見せた。ざっと数えて同じ矢が三十本あった。用意周到が過ぎると翠は慄いた。

「さて、誰が矢を壊したのかな……?」

 保名が不愉快そうに目を細めた。

「万全の矢がたくさんあるので、私は気にしませんよ」

「そうか……」

 紫苑は口角を上げ、フッと笑った。

「紫苑様、保名様、今まで教えてくださりありがとうございました。頑張りますね」

「健闘を祈る」

 翠は二人に頑張るんだよーと言われる声を背中で聞きながら、賭弓代表者の控え室に向かった。


「大丈夫だろうか……」

 保名は心配そうに翠の後ろ姿を見送った。

「それにしても、矢の予備が無かったらどうしたのかね」

 矢が使い物にならなくなるという想定はあったろうに、予防などはしていなかったのかと保名は首を傾げた。

「私が予備を持ってくることも想定内だったのだろう。……それに、矢を壊したにもかかわらず、翠が新品同様の矢を持ってきた方が相手の動揺を誘える」

 紫苑は当然のことのようにつらつら話した。

「だが、矢を壊す現場を押さえた方が効果的ではないか?」

「……翠はやり返す方が好きなのかもな」

 やられたらやり返すの方がストレス発散にいいなどと言いそうだと紫苑は思った。ちなみに、紫苑の予想通り、翠はそーゆー奴である。

「それは恐ろしい……」

 翠が見た目よりもぼ~っとしていないのだなと保名は扇の下で破顔した。無関心の仮面の下には熟慮があるなんて、面白い。

「当然の報いだろう」

 恐ろしいなんていうなとちょっとムッとしたように紫苑は保名を見た。

「ふふふ、別に俺は悪いとは言っていないぞ。……そうとも、当然の報いだ」

 保名は応報と扇を広げた。


 









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