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24. 陽気でムキムキなお兄サン

 琴音がもういいわと言ったので、翠は無事に職場復帰を果たした。そして、弓の練習も再開した。

「顔色もよさそうだな」

 弓道場に来た紫苑が以前と同じように弓を引いている翠を見て、安堵したように微笑んだ。

「ご心配をおかけしました」

 どうやら紫苑は思っていたよりも心配していたらしいと翠は今更ながら気づいた。たしかに、目の前で毒草を食べられたら紫苑のように真面目な人は気がかりにもなるだろうと翠は考えた。

「紫苑ッ!!!!!」

 いきなり男の大きな声が弓道場を轟かせた。声の方を見てみると袈裟を着たお坊さんがいた。元晴よりは一枚落ちるが、かなり筋肉質な体格だ。

「兄上、どうしたんですか?」

 やはり、紫苑の兄 (出家) かと翠は思った。顔、特に目元がよく似ている。しかし、紫苑と違って異様に陽気な感じがする。弟の分の陽気さも奪ったのだろうか。性格はパッと見の印象では全く異なるようだ。戦争に嫌気がさした儚げ耽美な紫苑似のお坊さんを期待していたんだがと翠はガックシした。この人が佐知子の唯一の人なのだろうかと翠は疑問に感じた。違う気がする。

「陛下に成化宮(せいかぐう)の片付けを頼まれたんだが、鍵が見当たらなくってな……」

「……私にもわかりません。兄上が見つけられないのなら、もうその鍵は無いと思いますよ」

 成化宮、聞いたことがないと翠は首を傾げた。ちなみに、琴音がいる梅ノ宮(うめのみや)、晶がいる(あおい)()(みや)、優華がいる鈴蘭ノ宮(すずらんのみや)、そして、槙子がいる安養宮(あんようぐう)しか翠の頭に残っていない。規模が大きいところだけ覚えておけばいいだろう精神である。成化宮は他の妃や先代の王の妃の宮なのだろうか。それとも、わざわざ紫苑の兄に頼むということは曰く付きなのかもしれないと翠は疑問に思った。

「それで、そのお嬢さんは?」

「琴音様の護衛です」

「へぇ~、何日目?」

 日単位で聞くのはウケると翠は手を叩きそうになった。

「もう五ヶ月くらいか?」

「そのくらいになりますかね」

 四月の中頃に琴音のところで働き始めて、今は九月の中頃。月日の流れは振り返ると早いなと翠は思った。

「長いな!……ああ、すまない。琴音殿のとこでは長続きしないと噂があったからなぁ」

「ありましたね。人材の墓場と言われていましたよ」

「はははっ、そうか。君は……」

「翠と申します」

「翠チャンはなぜそんな劣悪な職場に行こうと思ったんだい?」

 何がチャンだコラ、腹立つ兄貴だと翠は暴れ出したくなった。

「……私は一介の武官です。ただ、琴音様の護衛になれと配属命令が下っただけの話ですよ」

 にっこりと内なる衝動を翠は抑えた。

「……兄上、あまり変なことは言わないでくれ」

 翠がイラっとしたことに気づいたのか、紫苑が二人の間に入った。

「ごめんごめん」

 紫苑の兄はお調子者の権化のように軽々しく謝った。

「紫苑に仲良い子ができたみたいだね。兄上は嬉しいよ!」

 紫苑は兄に頭をくしゃくしゃと撫でられている。されるがままだ。兄弟仲は噂通り良いようだ。

「本当に変なことは言わないでくれ……」

 明るい兄に紫苑はたじたじである。

「私は玉蘭(ぎょくらん)だ。坊主をしている」

「よろしくお願いします」

 いきなりの自己紹介を終えた紫苑の兄、玉蘭はニカっと翠に笑いかけた。

「で、さっきの話どう思う?」

「何の話ですか?」

「聞いてたでしょ、鍵の話だよ」

 拙僧にはお見通しと玉蘭は翠に対してフランクに話しかけてきた。

「……鍵がないなら針金とかで開ければいいと思いますよ」

 翠はため息混じりに言った。

「できるの?」

「できる人はできると思いますよ」

「翠チャンはできる人?」

「ものによります」

 その呼び方は何だろうと翠は不思議に感じた。

「頼んでもいい?」

「他の人の方がいいと思いますよ」

 翠は鍵開けのプロではない。嗜んでいる程度だ。そういうのは達人級の人に頼んだ方が確実である。

「あんまり部外者に頼みたくないんだよなー」

 玉蘭がにっこりと笑いかけてきた。髪型でごまかすことのできない坊主頭であっても、顔の良さが輝いている。見事な美坊主だ。恐らく、玉蘭も紫苑の兄というだけあって顔の良さでゴリ押しした経験が豊富なのだろう。

「はぁ、そうですか」

 だが、翠は私には関係ない事情だと素っ気ない態度を取った。玉蘭の顔の良さを物ともしない。

「……では、開けてくれたら、私が何でも一つだけ言うことを聞こう」

 顔の良さに負けない翠を見た玉蘭は戦法をスッと変えた。

「わかりました。今日はもう暗いので明日でもいいですか?」

 翠は間髪入れずに即答した。出家したとはいえ梅家の長男の何でもは大きいと翠は俄然やる気が出た。よし、指輪のこと聞いちゃおうと心の中で小躍りした。恐らく、玉蘭に聞くことで指輪の持ち主がわかるはずだ。

「もちろん。明日ね~」

 玉蘭はにこにこ陽気に帰って行った。

「私が言うのも申し訳ないが、いいのか」

 紫苑は眉を寄せて翠を見た。

「いいんですよ。何でもしてくれるみたいなんで」

「そうか……」

 紫苑は兄上だからいいが、何でも一つだけ言うことを聞くで手のひら返しをする翠が心配になった。そういえば、ちょっと目を話した隙に鳥兜を口に入れてしまう人なのだ。これからはなるべくちゃんと見てようと紫苑は気を引き締めた。















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