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5.日常②


 昼休み。

 生徒の少ない特別教室棟、正門側の階段を登りきった先の突き当たりにある、四六時中施錠しっぱなしの屋上へ続く扉の前。


「珍しいよな、詩音が風邪って。もう治ったん?」

「いや、まぁ」


 もちろんあの後、僕は仮病で学校を休んだ。

 一度は成功したはずの告白が、アドバイスに従った二回目で失敗したんだから。単純にただ一回失敗するよりも、成功してからの失敗の方がおそらくダメージは大きい。

 早朝にフラれてからケロッと学校に行けるほど僕のメンタルは強くないのだ。


 告白の顛末をトーマに話すと「脈絡なさ過ぎだろ!」という渾身のツッコミを頂いた。

 早朝ランニング中にたまたま会ったクラスメイトに告白する。

 『あの公園で再会したら告白する』と決めていたとはいえ、確かに脈絡がなさ過ぎた。


「その無謀さで人生一度の初告白をムダに使っちまったわけだな。かわいそーに」


 そう言いながら優しく僕の肩に手を置くトーマ。

 

「ま、放課後は俺ん家で、お前の気が済むまでモンパン付き合ってやるから」

「いつも通りって事だね」

「傷付いた心を癒すならいつも通りの日常って事よ!」


 ガハハ、と中年オヤジのように笑い飛ばすトーマ。僕を元気付けようとしてくれているのか、ただ遊びたいだけなのか。


「あ、それかあれだな、コックリさんで運命の相手を占ってみるか?いや、壮大な宇宙の法則について語り合ってちっぽけな失恋の事は忘れるってのもアリだな」

「遠慮するよ、そういうのは」


 ふう、とため息がもれる。

 いつもならもう少し勝手に動くこの口だが、気力が抜け落ちて言葉が続かない。


「おいおい、なにをいっちょ前にヘコんでんだよ。相手はあの吉田さんだろ?お前じゃなくても付き合えるワケねーんだから気にすんなって!」


 言われてみれば、それもそうだ。

 そもそも吉田さんほどの女性に彼氏が居ないのがおかしいよな。

 う……、吉田さんに彼氏……。想像しただけで辛くなってきた。

 

 逆になぜ最初は成功したんだ?思えば高校に入ってからはほとんどまともに会話もできてなかったし。

 いや、というかそんな状況でなぜ告白したんだ僕は!


「そんなん時空ゆがめたって叶わぬ恋だろーよ」


 何とはなしに放たれたトーマの言葉が、僕の脳に響く。


「「あ」」


 二人の声がユニゾンした。


「てか詩音!俺、昨日UFO見たんだよ!!」

「なんじゃそりゃ!」


 トーマの突拍子もない話にズッコケる。

 じゃなくて、僕が言おうとしたのは。


「それよりおっさんだ!僕、おっさんに騙されたんだよ!」

「そっちがなんじゃそりゃ!」

「ちょっとお二人さーん。盛り上がってるとこ悪いけど」


 僕とトーマが言い合っていると、唐突に割って入る声がした。

 階段の踊り場の方へと目をやると、そこにはトーマのクラスの委員長、神ひとみさんの姿があった。


「あら、いたのひとみ」

「あら、いたの、じゃないわよ!アンタ次移動教室の誘導でしょうが。早く戻りなさい」

「あー完全に忘れてたわ」


 委員長という概念の具現化、おさげにメガネのひとみさんはトーマを叱りつけると、僕の方を見た。


「桐島くんもこんなヤツとつるんでるとバカが伝染るわよ?」

 

 ため息混じりにそんな事を言う彼女。僕が答えるよりも先に、トーマが答える。

 

「大丈夫だよ、もうこいつバカだから」

「自分がバカなのは認めるのかよ!」


 そんな事を言い合いながら、僕らは弁当をしまい、教室へ戻る準備をする。

 話の続きは放課後にしよう。


 ◇


 恋人と帰る予定どころか、恋人もいない。

 そんなこんなでいつも通り、僕はトーマと共に帰路へつく。

 これまたいつも通り、自分の家には寄らずにトーマの家へお邪魔する。


「ま、お前が言ってるありえねー現象を説明するなら【時空のおっさん】一択だな」

「じくうのおっさん?」


 学校からの帰り道、僕は自分の身に起こった不可解な現象について一通りトーマに説明した。そして出てきたのが【時空のおっさん】というワードだった。


「僕が知らないだけで、有名人だったの?」

「有名人っつーかアレだ、都市伝説系の話。世界がおかしくなったかと思ったら突然現れて、元の場所へ送り返されるっていうヤツ」


 トーマはゲームだけでなく、オカルトやら都市伝説に詳しい。その情熱を勉学に向ける事はできていないものの、こういう時にはその知識が頼りになる。『こういう時』なんて普通はないのだが。


「でも僕、元の場所じゃなくてタイムスリップさせられたんだけど」

「いくつかパターンがあるみたいだな。一瞬変な世界に行くのは大体共通してて、次に突然現れたおっさんに怒鳴られる。ほんで最後に元の場所か別の時間……、別の世界っていう場合もあるっぽいぞ」

「……」


 勉強机に置かれたデュアルモニターを備えたPC。それに向き合いながらトーマが教えてくれる。

 おっさんは確か、「元の世界へは帰れない」みたいな事を言っていた気がする。ということは……


「もしかしたら僕、時間が戻った別の世界に来たのかも」

「へえ、なんで?」

「吉田さんと付き合えてから時間を戻しただけだったら、今だって付き合えてていいんじゃない!?」

「そこ!そこだよ!そもそもお前が付き合えた世界の方がおかしいだろってハナシだよ!」

「ぐぬぬ」

「と〜っても言いにくいんだが詩音クンよ。それはフラれたショックで見た夢だよ。ハートブロークンな君の脳内が作った幻想」

「僕だってまさか告白がうまくいくとは思わなかったけど、でもあれは絶対に夢じゃないんだよ!」

「……そこまで言うなら信じない事もないけどよ。俺が信じたところでお前がフラれたのは変わんねーんだから、ストーカーとかすんなよ?」

「しないよ!」


 僕の話が都市伝説と一致するという事で、一応は信じてもらえた。とはいえトーマの言う通り、だからといってどうしようもない。

 いや、でもやっぱり。

 一回目の告白が成功したんだから、何かキッカケを掴むことが出来ればどうだろう。完全に脈ナシというわけでもないんじゃないか。


「ちなみにガチで時空のおっさんだとしても、二回会えるパターンは無いっぽいから期待しない方がいいぞ」

「え、そうなの?」


 正直、少し期待していた。

 あんまりじゃないか!人の告白の成功を失敗に書き換えておいて、もうやり直し出来ないなんて!


「それはそーと俺、昨日UFO見たんだよ!」


 トーマが唐突に変な事を言い出す。いや、確か昼休みの時にも言っていたか。


「ホント?宇宙人も見た?」

「お前信じてねーな!マジでヤバかったぞアレは!」

「ふうん。じゃ、なんですぐ言わなかったの?」

「それがな……。忘れてた」


 急にバツが悪そうに小声になるトーマ。そんな一大イベントがあって、忘れる?


「そんな事ある?」

「俺だってビビったよ!今日学校で急に思い出したんだからよ」

「え〜……。それこそ言いにくいけど、白昼夢かなんかを見ただけでは……」

「いやいや、未知の光線浴びたとかそっち系だよマジで!」

「そっち系もあっち系も知らんけど」

「マジでマジなんだって!」


 このトーマの必死っぷり。

 事実かどうかは置いておいて、少なくとも彼自身はそれを信じているようだ。なら仕方あるまい。


「非科学的なのはお互い様だしね。信じるよ」

「おお!そういう事だよ詩音クン!わかってくれるか!」

「なんか僕が部下っぽくなるから、そのクン付けやめてくれる?」


 上機嫌なトーマのオカルト話は、その後もいつも以上に熱が入っていく。

 

 しかしこれからどうしたものか。

 吉田さんと恋人ではなくなった世界で、それでも僕は諦めきれずにいるのだった。


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