名前
(…言葉を覚えるのってこんなに…早いものなの?)
生まれてから2週間、色んな人が声をかけてくれたお陰でこの世界の言語を少し理解できた
私の名前はティアナ
お兄ちゃんはマシュー
お母さんはベアトリス
お父さんはロアン
そしてこの家は貴族らしい
前世では貴族社会がない国で育ったけれど、カーストのようなものと思えば理解できる
前世ではカースト底辺のいじめられっ子だったのに、今世では貴族か…
私の正式な名前はティアナ・フォナードというらしい
フォナード公爵様と執事たちが言っていたのを聞いたのだ
(公爵家って貴族の中ではどうなんだろうなぁ…
……よく分からない、とりあえず放置かな)
お母さん……お母様は私を産んでから体調が良くならなくてまだ療養中で(産んですぐなので当たり前ではあるが)代わりに乳母が私のお世話をしている
私は感情表現が苦手なので、空腹や排泄を伝えるときは声を出して伝えている
泣いたり笑ったりすることが無い為、乳母やメイドたちの中には、私のことを少し気味悪く思う人もいる
だけど、少しでも感情を引き出そうと頑張ってくれている
おもちゃのぬいぐるみをくれたり、笛のような楽器を演奏して見せたり、色々なことを語りかけてくれるので、私も感情表現出来ないなりに声を出して反応するようにしている
お父様は仕事の合間なのか、かなり不定期だが1日に2回私を見に来る
乳母の次に私の名前をたくさん呼んでいる人で、部屋に入ってくるときはとてもクールで落ち着いているのに、私の前に来るとデレデレしながら可愛いと連呼する
…二重人格か別人に見えるくらい、愛してくれていると思う
そして、夕方の決まった時間にお兄様が会いに来る
お兄様はその日に起こったこと、学んだことを話しかけてくれる
家庭教師がたくさんいて、礼儀作法や外国語、歴史に体術と様々なことを学んでいるらしい
お兄様の話を聞いていて特に気になったのは剣術や魔法といったファンタジー要素の話だ
生まれてから今まで、と言っても2週間だが、前世で生まれた国『日本』とは違って電気やテクノロジーが部屋の中に見当たらないなと思ってはいたけれど、まさか全く世界観が違う異世界に生まれたとは……
(私でも強くなれるような力がこの世界にはあるかもしれない)
そう考えたら、少しだけ気分が良くなった
前世と違って今は家族に愛されていると思う、思えるから
期待するのは怖い…
怖いけど、もしかしたら、前世とは違う世界なら…
(愛される幸せを望んでもいいのかな…?)
前の人生では――――――――――――――――――