能力の発揮
薬草を栽培して大量に確保した薬草師は、周辺の村に出向いていった、薬草を提供していくために。
魔術や超能力のある世界だが、薬の必要性が消えるわけではない。
こういった能力を持つ者は少ないので、一般的な医療も必要としている。
むしろ一般人が受ける事が出来る医療といったら、薬草くらいしかない。
それを提供していくのだから誰からも喜ばれた。
そうして提供した薬草が人伝てに拡がっていく。
無料で提供されるとあって、誰もが求めた。
自然と流通範囲は拡大していく。
効果が大きいのも評判を呼んだ。
一般的な薬草よりも大きな効果を持つ。
傷は数秒で塞がり、病気は瞬時に快癒する。
毒もほぼ即座に消える。
これだけ便利なものが大量に与えられるのだ。
嫌でも多くの者達が求める。
これに拍車をかけたのが強烈な中毒性だ。
使用者は特に不調がなくても次の投薬を求めるようになった。
使用時の陶酔感や高揚感、安心感や全能感を得られるのも大きい。
こうした快楽を薬草師は付け加えており、もたらされるこの効用を誰もが求めるようになった。
それはもはや麻薬である。
薬を求め仕事すら放棄する者も出てきた。
国の生産性は著しく下がった。
更に効能が大きいという事で薬草は軍隊にも用いられた。
当然兵士も中毒になっていく。
必要もないのに薬を求め、しまいには殺し合いすら発生した。
そこに追い打ちをかけたのが、長期間の使用による体調不良だ。
たとえ傷をふさぎ病気をいやす薬草でも、使い続ければ毒になる。
本来、身体の中にないものを取り入れるのだ。
必要以上に使って身体が良くなるわけがない。
おまけに薬草師の能力で効果が高められたものばかりだ。
中毒性も、身体を損なう毒性も大きくなっている。
短い使用期間の中で大量の廃人を生み出していく。
そうして身体と精神を損なった者達が国内にあふれるようになった。
こうなったら様々な産業が滞る。
軍隊も例外ではない。
兵士はまともに動けず、体調不良をうったえていく。
前線を守る事すらできずに崩壊するところが出てきた。
そういった場所には異世界から呼び込まれた者達が投入されていく。
薬草に頼る必要がなかった者達が多かったので、健康を保ってる者が多いからだ。
しかも、もともと戦闘力の高いものばかりが揃っている。
召喚された地球人達は、起死回生の切り札ともいうべき部隊として編成されていた。
この存在は窮地に陥った国の中で一際輝いていった。
だが、穴の空いた場所は一つではない。
前線の全てに抜けや漏れが発生しており、その全てを転戦する事になるので、疲労は蓄積していく。
超人的な力を持つチート能力持ちといえる地球人達とはいえ、限界はある。
その限界に召喚された者達も近づいていった。
そうでなくても国がボロボロになっていた。
時間と共にひろがる薬草という毒薬のおかげで、国民の多くが衰弱していった。
農業・工業・商業などの各産業が潰滅していく。
労働者になる一般人が損なわれてるのだ。
産業が成り立つわけがない。
前線にもその結果があらわれる。
武器や防具、食糧がなくなっていく。
城塞を保つ工具や材料がなくなっていく。
補充の目処が立たなくなる。
即座に結果が出るわけではない。
だが、着実に国は疲弊していく。
異世界からやってきた者達によってかろうじて崩壊は避けられていてもだ。
彼等の発揮しているチートとしかいえない能力で必死に補ってはいる。
それも死に際をほんの少しだけ延長しているだけではあるが。
そんな国への他国からの侵略は更に勢いを増す。
国が疲弊して防衛が追いつかないだけではない。
他国の兵士の力が以前よりも明らかに高い。
その裏には薬草師の彼の姿があった。
彼は育てた薬草を他国にも流していった。
ただし、毒性や中毒性は一切もたせずに。
たんに傷や病気の治療に使えるものだけではない。
一時的に能力を上昇させる効果のあるものなども提供している。
それらが他国の軍勢を強化していった。
戦場以外にも通常の治療に使える薬草を大量に与えている。
おかげで病気などによる死亡率などが劇的に下がっていった。
怪我や病気からの復帰も早くなる。
この恩恵は労働者などの一般人にも広まり、産業が賑わうようになった。
一般人は健康で疲れ知らずになり、軍隊には能力強化の効果のある薬草が提供される。
この影響はとてつもなく大きい。
薬草は魔術や超能力ほど強力ではないが、誰もが簡単に用いる事ができるのだから。
軍隊だけで見てもこれは大きな事になる、薬草師の強化薬が軍全体にいきわたっていったのだから。
当然ながら、軍隊全ての能力が底上げされる。
薬草の利点である。
魔術や超能力と違い、作った薬は制作者以外も使える。
大量に作る事ができて、保存も出来る。
効果は魔術や超能力ほどではないが、利便性は非常に大きい。
作るのには才能や能力が必要でも、作ったあとなら誰でも用いる事が出来る。
一部の能力や才能のある者だけに頼る必要がない、誰もが使える。
その恩恵を他国は受ける事になる。
薬草師の特殊能力で量産された薬を大量に手に入れる。
それらが軍隊に行き渡る。
一般社会にも拡がっていく。
効果は国全体に及ぶ。
当然、国力も跳ね上がる。
増大した国力と強化された軍勢。
それを得た他国は、異世界から能力を持つ者達を召喚した国に一気に攻めこむ。
既に崩壊常態の戦線は簡単に突破されていく。
あちこちの村や町が制圧されていく。
召喚された能力者達は懸命に戦う。
彼等は強く、戦場で勝利をおさめつづける。
しかし、それは彼等がいる場所だけの事。
それ以外の全ての場所では敗北が続いた。
まともな兵隊が減少してるのだ、当然だろう。
かくて地球人を召喚した国は滅亡へと向かっていく。
薬草師の支援を受けた他国は、廃人だらけとなった召喚を実施した国をたやすく制圧。
王城の陥落は避けたが、国土の大半を失った。
さすがに侵攻した国もそこまでが限界だった。
召喚された者達が守る王城まで攻略する事はできない。
しかし、それ以外の場所の多くを奪い取る事に成功した。
そんな王城も崩壊の兆しが見える。
不安と恐怖から中毒性の高い薬に逃げる者が大勢発生したからだ。
薬に配合されてる、幸福感や酩酊感、全能感などを求めていった。
誰もが高い中毒性を知りつつ丸ごと薬を飲み込んだ。
同じように付与されてる、精神をも破壊する凶悪さも含めて。
どのみち未来など見えないのだ。
今ここで廃人になるのも、何年か先に国ごと滅亡するのも大差は無い。
残された時間を不安と恐怖と共に過ごすのか。
たとえ幻想でも、幸福のなかで死んでいくのか。
多くの人間が後者を選んでいった。
王城に立て籠もる王侯貴族は特に。
召喚された者達は無力だった。
高い戦闘力で、占領された地域を奪還してはいる。
しかし、出向いた戦場戦う相手は、召喚した国の者達だ。
他国はその場の防衛を占領した地域で生まれ育った者達にさせていった。
もともとは召喚した国の国民だった者達にだ。
召喚された者達は自国民との同士討ちを余儀なくされる。
他国からすれば、自国民の兵士を守るための当然の対処だった。
それに、占領制圧した地域を完全に吸収するのは難しい。
統治に従う者ばかりではない。
たとえ善政を敷いても反発する者は出てくる。
これに加えて、召喚された強力な能力者達がいる。
それらとまともに戦えば必ず負ける。
それだけ隔絶した力を召喚された者達は持っている。
だから、占領した地域の人間を兵士にしていった。
奪還にやってきた召喚された者達と戦わせるために。
こうすれば、占領した場所を奪還されても問題ない。
徴兵した者達が死ねば、それはそのまま地域の産業に大きな影響を及ぼす。
本来ならいずれも労働者だったのだ。
強制的に徴兵したこれらが死ねば、その地域の産業が大きく減退する。
ひいては、国力の低下に繋がる。
地域奪還のために戦えば戦うほど、国力は減退する。
侵攻した国との差がより大きくなる。
召喚した国にとっては大きな痛手になる。もともと国力が小さいから召喚した者達の能力で対抗しようとしていたのだ。
その国力が更に低下すれば、もう国として成り立たなくなる。
しかも、戦えるのは召喚された者だけ。
人数の少ないこの者達が地域を取り戻して別の戦場にいけば、また他国の軍勢がやってきて再占領する。
そして再び強制的に徴兵が行われる。
働き手が地域から失われていく。
何度かこれを繰り返す事で、召喚を行った国の各地域が潰滅していく。
産業が成り立たないほど人が死んだからだ。
特にこれらを担う若手の消滅が著しい。
残ったのが年齢一桁の子供と、余命幾ばくもない老人だけではやっていけない。
生き残りも親戚や知人の伝手を辿って逃げだしていく。
そうでないのは、行く当てもなく途方に暮れる者ばかりになる。
召喚された者達が活躍すればするほど、こうした潰滅した地域が増えていった。
やがて召喚を行った国は占領された地域を放棄する。
取り戻しても得るものがないからだ。
むしろ、維持する手間が多くなるだけ。
それならばとまだ残ってる地域と王城王都を守る方がよい。
そう判断して召喚した者達の戦いを止めた。
守りに徹するために。
放棄した地域には、侵攻した国からの移民が押し寄せた。
労働力を失った地域に新たな人間がやってくる。
いずれも農家や職人、商人に貴族・武家の次男三男以下の者達だ。
部屋住み・冷や飯くらいとして居場所のなかった者達。
それらが新天地として制圧した地域に乗り込んでいく。
領土獲得による国力増大。
それが戦争の目的ならば、移民こそがその最後を飾る。
自国の民を相手国に送り込んで乗っ取る。
わざわざ他の国の人間を取り込む必要は無い。
いつ敵になるか分からない、衝突の種にしかならない他国の人間など不要だ。
それらを排除して自国の人間を入れること、これこそが領土獲得の成功を示すものになる。
今、侵略した国は奪った敵国の領地に移民を送り込んでいる。
それを成功させた他国は、国力増大を成功させた。
なお、元々住んでいた者達は殺されていった。
それが幼い子供だろうと、老い先短い老人だろうと関係がない。
他国からすれば邪魔なだけである。
それらを養う意味や理由が全くない。
必要なのは入植させた移民だけである。
殺される事なく逃げて住処を追い出された者達は、行く当てもなく途方に暮れる。
頼る当ても無かったから居残った者達がほとんどだ。
それが本当に居場所を失った。
追い出され、逃げ出しても行く当てがない。
多くはそこかしこで野垂れ死にする事になった。
もう少したくましい連中は盗賊や山賊、追い剥ぎなどになって食いつないだ。
こういった者達が治安を悪化させていく。
活動範囲は広く、侵略した国に向かう者もいた。
だが、多くは他国の領内だけでなく、自国に戻って悪さする者もいる。
知らない土地よりも、見知った場所の方が活動しやすいからだ。
そのせいか、暴れ回る者達の活動範囲はだいたい自国だった場所に限られる。
このため、侵略してきた隣接する他国にまで足を伸ばすものは少なかった。
何が何処にあるのかすら知らないからだ。
結局、異世界から地球人を召喚した国の中で暴れ回る事になる。
侵略してきた国に占領された地域でも被害が出たが、これらへの取り締まりはさほど強くもない。
そこは侵略した国からすれば国外に等しい。
移民した者達は守るが、それ以外がどうなろうと知った事ではない。
自然と被害にあうのは地球人を召喚した国の者が多くなる。
ほぼ内戦状態だ。
侵略した国からすれば好ましい状況である。
そんな侵略国に向けて召喚された転移者達も攻めこむ。
もっとも、軍勢を率いてではない。
転移者だけによる小数部隊での一点突破。
国王を含めた政治中枢を破壊する事に狙いを絞り、工作活動に従事していく。
それを他の転移者も支える。
生産系などの能力を持つ者達が装備品などを作り出していく。
それらを身にまとい、他国へと攻めこんでいく。
それでも攻めあぐねてしまう。
転移者達が攻めこめば、その分防衛の戦線に穴があく。
そこを狙って侵略国は攻めこむ。
攻めこまれればさすがに放置は出来ない。
やむなく引き返して攻めこんできた他国を撃退する。
補給線を保つためにも、攻めこんでくる敵を無視する事はできなかった。
転移者達がいるので、国を守る事はできる。
失ったものを取り戻す事はできないが。
彼等が求めた生存という目的を達成する事はできた。
ただ、その間に侵略国は更に強くなっていく。
薬草師の力によって怪我や病気を克服する事ができる。
能力強化薬によって軍勢も強くなる。
敵対する国には麻薬のような薬を蔓延させて国力を減退させ、その後に攻めこんでいく。
時間はかかるが着実に侵略を進めていった。
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