夜の邂逅
昨日体調不良でダウンした分2話更新しようと思ったんですが、2話分の分量書いてから区切りつかないことに気づいたので2話分の1話更新です。
葵達が和気藹々と自由行動中の出来事を話しながら夕食を食べている中、僕は葵から離れてホテルの裏手にある人気のない竹林に来ていた。ホテルの方から届く灯りと月明かりだけで薄暗い竹林で待っていると、ホテルの方から一匹の猫が歩いてくる。
「…にゃ」
「そんな不機嫌そうにしないでよ。かわいい外見が台無しだよ」
「フシャーッ!」
「はいはい、今戻すよ」
僕に揶揄われて威嚇している猫は、葵がゆずと名前をつけた猫だった。とてつもなく不機嫌そうなゆずに手を振り、元の姿に戻してあげる。一瞬の発光の後に現れた姿は、葵にちょっかいをかけてきやがった神の姿。…ただし猫のおすわりの体勢の。
「くっ…!全く窮屈な、妾が獣の姿をとる必要はあったか?」
「…とりあえず立ったら?」
「…?なっ!?」
僕の指摘にゆずちゃんは顔を真っ赤に染めながら立ち上がってついた汚れを払う。汚れを取り終えたゆずちゃんは先ほどまでのことを無かったように神っぽい存在感を出してふんぞりかえる。
「…それで?妾をこんなところに呼び出して一体何の用だ?」
「あぁそれは…ん、そういえばゆずちゃんって元々名前あるの?」
「貴様なんぞに妾の名は!…はぁ、暁だ」
「暁の国の神だから暁?安直だねぇ。いや逆なのかな?」
「…そうだ、妾の名からとってこの国は暁という名になった。貴様は妾を好きにできる力を持っておいてそんなこともわからんのか?」
「君の名前をわざわざ調べるより、君に直接聞く方が楽だからねぇ」
調べようと思えば1秒もかからずに調べられるけど、そこまで興味なかったし。ゆずの方がかわいいしゆずでいいでしょ。
「それでゆずちゃんを呼び出した訳だけど」
「なんのために名を聞いたのだ!?」
「細かいことを気にしないでよ、話が進まないでしょ?」
「くっ…!」
不満そうなゆずちゃんを黙らせてから話を続ける。
「ゆずちゃんにちょっと聞いておきたいことがあってね。今日猫の姿のゆずちゃんを見て君が神だって気づいた人がいたよね?」
「妾の眷属か?あやつは読心ができるのだから当然だ」
そう言って不貞腐れるゆずちゃんだけど、読心したあの眷属ちゃんがこっちに都合よく根回ししてくれたってことはゆずちゃんは律儀に僕の言いつけを守っていたわけだ。言ったら怒るだろうから言わないけど。
「わかってて言ってるでしょ。そっちじゃなくて土産屋で葵と話していた男性の方」
「あやつか…」
土産屋で葵達にしおりの使い方を教えてくれた老紳士。彼はただの人間だったのにゆずちゃんの正体に気付き、眷属ちゃんと同じように根回しまでしようとしていた。
「ちょっと特殊な異能持ちだったみたいだけど、ゆずちゃんの知り合い?」
パッと見た感じで少し特殊な異能を持っているような雰囲気は感じたけど、敵意や猜疑心のようなものが一切なかった。葵の説明を聞いただけでゆずちゃんが望んで葵といることが分かったようだった。
「知り合いといえば知り合いだな。あやつは妾の世話係のようなものだ」
「世話係?眷属でもない人間を手元に置いてるの?」
「あぁ、あやつは『聖人』だからな」
「へぇ〜…」
あ〜…いたなぁそんな異能持ち。スピリッツ様が接触しようとしていた聖人はあのおじさんだったのか。なんとなく覚えのある雰囲気だとは思ってたけどそういうことか。
「小うるさいやつだがあやつのような人間が近くにいた方が何かと都合が良くてな。あやつがちんちくりんの童の頃から手元においておる」
「ふーん。まぁそういうことならそこまで気を配るようなことでもないか」
「…なんだ?そんなことを聞くためだけに呼び出しおったのか?」
「そうだけど?」
「…まぁ良い」
僕はこの世界に来てから、僕が来たことで変わった未来を見ないと決めているからこれから何が起こるのか予測はできても正確な未来まではわからない。だからこそこうして少しの手間でできることは確認をとっているわけだ。
ゆずちゃんなんて僕の存在を知っているんだから適当に使うのにかなり都合がいい。この世界で僕のことを知っている存在は今のところ蒼と一条先生しかいなかったし。
「ま、そういうことだから引き続きよろしくね」
「待て!貴様の質問に答えたのだ、妾の質問にも答えてもらうぞ!」
「…聞いてあげる義理はないけど、まぁいいや言ってみなよ」
うん、よく考えたら天界の天使達と違って何かお願いしたら対価がいるか。いけないいけない、50億年もブラック職場にいたから思考が黒に染まっていた。反省しなければ。
ゆずちゃんの要望を受け入れると、ゆずちゃんは何を聞こうかと黙り込む。せっかくだし答えられることならなんでも答えちゃおうかな!
「…質問は一つだけか?」
「それが質問?」
「違うわ!」
あ〜、ゆずちゃんは反応が良くて面白いなぁ。天界にいた時の神以外の周りの奴らはみんなクソ真面目ちゃんばっかりだから楽しくてついイジり過ぎてしまう。…もしかしてあのク創造神も同じ思考だったのか?いかん今は体ないのに吐き気してきた。
「で?質問は決まった?」
「…あぁ、こればかりは真面目に答えてもらうぞ」
「いいよ、今の僕は慈愛に満ちてるからね。なんでも聞いてよ」
僕が若干のおふざけを入れて答えても、ゆずちゃんは真剣な表情で僕をまっすぐ見つめてくる。
「妾の見ていた未来に貴様のような存在はいなかった。貴様は一体どこから来て、何をするつもりだ?」
「…質問が二つあるような気はするけど、まぁいいや僕は優しいからね。答えてあげるよ」
そう、僕は優しいんだ。あのク◯神とは違うんだ。黙って僕を真剣な表情で見つめてくるゆずちゃんに向き直って答える。
「まず僕がどこから来たかだけど、簡単に言うとこの世界の外だよ」
「世界の外だと…?」
「そう、世界の外。ゆずちゃんが見た未来に僕がいないのなんて当然だよ。だってゆずちゃんはこの世界の神(笑)なんだから、僕みたいなのに力が通用する訳ないじゃない?」
「なぜか侮辱されたような気がするな…?」
「気のせい気のせい」
そうでなくとも僕の方がゆずちゃんより圧倒的に格上なんだから、僕の未来なんて読めるわけないでしょ。
「まぁいい…それで?貴様は世界の外からわざわざ何をしに来たと言うのだ?」
「そんな親の敵のように睨みつけないでも、別にこの世界を壊しに来た訳じゃないよ?」
「…」
僕の言葉を聞いてもまだ疑うような目で見てくるゆずちゃんを無視して話を進める。
「ちょっと僕とは別の部署のヒトのミスでこの世界に亀裂が入っちゃってね、僕は上司からそれを治してこいと命令されただけの哀れな存在だよ」
うん。何一つ嘘はついてない。
「部署…?」
「そこは別に気にしなくてもいいよ。ものの例えだと思ってくれればいいから」
僕の話を聞いて、ゆずちゃんはしばらく考え込むように黙ってしまう。まぁ今までこの小さい箱庭の中で神として君臨していたんだから、急に外の話をされたら困惑もするだろう。
「…到底信じがたい話ではあったが、貴様に妾の力が及ばないのも事実。荒唐無稽な作り話だとしても一旦それで納得しておいてやろう」
「嘘ついてないんだけどな〜」
「しかしまた聞きたいことが出てきたぞ。先程言った世界の亀裂とは…」
そうしてゆずちゃんがまた質問をしようとした時、僕とゆずちゃんはお互い黙って顔を見合わせる。理由は単純…
「ゆず〜?どこに行ったの〜?」
夕食を食べ終えた葵がゆずを探してこちらに近づいていたからだ。
「…貴様が何故あの童に認識されたくないかは知らぬが、ここは聞かないでおいてやろう」
「ありがとう。まぁどうせすぐ話したくても話せなくなるんだから関係ないけどね」
「くっ…!覚えていろよ!」
「はいはいじゃあまたね〜」
短く言葉を交わして僕はゆずちゃんに向かって手を振る。さっきよりも控えめな発光の後、猫の姿に戻ったゆずちゃんが不機嫌そうに僕の方を見ていた。そのあたりで葵の足音がはっきり聞こえてきたので僕も姿を視認できないようにする。
「…あ!ゆず!こんなところにいたんだね」
「…にゃ」
ゆずちゃんを見つけた葵が嬉しそうな表情で駆け寄ってくる。屈んでゆずちゃんを撫で出す葵は、心配そうな表情でゆずちゃんに話しかけている。
「どうしたの?家に帰りたくなったの?」
「にゃ」
「わっ…とと、一緒にいるんだね?それじゃあ戻ろうか?」
ゆずちゃんを肩に乗せてホテルに戻って行く嬉しそうな葵を見ながら、僕も葵の体に戻って行った。
『…?ゆず、今僕の背中に触った?』
『にゃ?』
『…しっぽが当たっただけかな?』
…葵にいつ僕のこと教えようかな。
ゆずちゃんかわいいのじゃ
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…




