修学旅行1日目:移動
京都までの移動はリニアモーターカーに乗っての移動だった。初めて乗るリニアモーターカーの静かさと流れて行く景色の速さに感動しながら僕とケンと佐々木君で窓に張り付いていると、隣から何かコソコソと何か言っている声が聞こえてそちらを向くと班員の女子3人がこちらを見て話していた。
「(やっぱり男子ってこういうの好きなんだね…)」
「(桂はわかるけど、葵君も佐々木君もああなるのはちょっと意外だよね)」
「(でも3人とも…ちょっとカワイイよね)」
「「(わかる)」」
何を話しているのかは聞き取れなかったけど、3人とも僕が見ているのに気がついて「なんでもないよ!」と言って誤魔化されてしまった。なんだったんだろう?
「二人ともリニアに乗るのは初めて?」
「おう!」「い、いや…何回か乗ったことあるんだ」
元気に答えたケンとは違って佐々木君は前にも乗ったことがあるみたいだった。でも僕らと同じぐらい感動してたってことは…。
「佐々木君はリニア好きなの?」
「う、うん…実はこういうの好きなんだ。…変かな?」
「全然!やっぱりこういうの格好良いよね!僕もちょっと夢中になっちゃてたよ」
「そ、そっか…」
「……?」
僕の答えに佐々木君は安心したように口元が笑みの形を作る。そんな中、窓に張り付いて団子になっていた一番下にいたケンが不思議そうにしながら口を開く。
「なぁ佐々木?お前なんで目元前髪で隠してんの?結構綺麗な顔してんのに」
「え…?み、見えた?」
「おう。普段見えないだけで笑ったら良い顔じゃんか」
「…!」
ケンの言葉に佐々木君は慌てたように自分の座席に戻って俯いてしまう。それを見てケンも気を使ったのか、僕に申し訳なさそうな表情で小さい声で話しかけてくる。
「…なぁ、俺なんかまずいこと言っちまったかな?」
「う〜ん…どうなんだろ?顔見られるのが嫌だったのかもね?」
「やっぱそうかな?…よし!」
何を思ったかはわからないけど、ケンは佐々木君の隣の座席に座って佐々木君に向き直る。
「ごめんな佐々木!なんか変なこと言っちまって!」
「…ううん、良いんだ。桂君は何も悪くないよ…」
「そうか?まぁとにかくごめんな!」
ケンはそれだけ言ってまた外の景色を眺めだす。そんなやりとりを見て、遠巻きに見ていた女子達もなんだか気まずそうな雰囲気になってしまう。う〜ん…佐々木君、顔見られるの嫌だったのかな?と思いながらも空気を変えようと持ち込んでいた荷物からお菓子を取り出す。
「皆お菓子食べる?」
「お!食う食う!ありがとな!」
「いいの?葵君ありがとう!」
先ほどまでの空気を変えるように皆明るくお菓子を分け始める。そんなやりとりをしている中でも、佐々木君はうつむいたまま黙り込んでしまっている。そんな佐々木君に見えるようにお菓子を差し出すと、佐々木君は驚いたように僕の方を見てくる。
「佐々木君もよかったらどう?」
「…双葉君。あ、ありがとう」
「全然いいよ、佐々木君はお菓子なに持ってきたの?」
「あ…僕はそういうの持ってきてないんだ」
何故か申し訳なさそうにそう言う佐々木君に少し驚いてしまう。事前の説明でお菓子は行きのリニアで食べ切れる分だけ買っていいって言われていたから、全員買ってきているものだと思っていた。でも確かに荷物を増やしたくなかったら持ってこないのもアリなのか。
「そうなんだ、お菓子が嫌いなわけじゃないの?」
「う、うん…大丈夫だよ」
「そっか!じゃあみんなで一緒に食べようよ!」
「そうだな!お、西園それうまそうじゃん!これあげるから一個くれよ!」
「良いわよ。ほら、葵君と佐々木君もはい」
ケンからお菓子を一つ受け取った流奈ちゃんはお菓子をケンに渡すついでに僕と佐々木君にもくれる。それから班のみんなでお菓子の分け合いが始まり、お菓子がなかった佐々木君のところにもみんなと同じぐらいのお菓子の山ができる。佐々木君は申し訳なさそうに口を開く。
「み、みんな…僕だけこんなにもらっちゃって悪いよ」
「いいのいいの!こういうのはみんなで食べた方が美味しいんだから!」
僕の言葉にみんなも笑って受け入れて、それからみんなでお菓子を食べる。その後もトランプをやったり小さいボードゲームをやって、2時間ぐらいの移動時間はあっという間に過ぎていった。
…さっきはどうなるかと思ったけど、優しい班員のみんなのおかげで全員楽しく移動時間を過ごせたと思う。
「よっしゃ着いた〜!なんか肩凝ったぜ!」
「ケン?なんかジジ臭いよ?」
「楽しかったけど、やっぱジッとしてんのは性に合わねぇわ!」
「まぁ僕もちょっとお尻が痛いや」
みんなの上の荷台に置いていた荷物を下ろしながらそんな会話をしてリニアから降りる。駅のホームの隅で一度整列して先生がみんなに話をする。
「それじゃあこれから一度、今日泊まるホテルに行きます!みんなちゃんとホテルの人に挨拶しようね!」
「「「はーい」」」
先生の話が終わって駅から出ると、僕らの住んでいた街とは全く違う景色が一面に広がっていた。
そこらじゅうに木造建築の建物があって、建物の高さも僕らの街と比べて低いものが多い。お寺や神社のような建物も多くて僕らの雑多な空気とは違って、なんだか師匠の屋敷のような静謐な空気のある街だった。そして何より…。
「なんか…違う世界みたいだ」
ここは、僕らの街とは何かが決定的に違う。そんな漠然とした感覚が僕の胸の中を渦巻いていた。
「……」
不思議な感覚を覚えていた僕を佐々木君がじっと見ていたような気がしたけど、佐々木君の表情も目線も長い前髪に隠れていてはっきりとはわからなかった。
……
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…




