修学旅行のお知らせ
正装を作るための採寸やら柄選びはかなり長時間かかり、結局その日はそれだけで日が暮れてしまい帰ることになった。
そして次の日、昨日のことでなんとなく気疲れしたまま葵はいつものように母に見送られて家を出る。
『お母さん、行ってきます』
『行ってらっしゃい、気をつけてね』
かれこれ五年間通った慣れ親しんだ通学路を歩いて学校に向かう。いつものように途中で流奈ちゃんに会って一緒に教室まで入り、いつものようにケンが遅刻ギリギリで教室に入ってきて朝礼が始まる。
『はーい、それじゃあ出席とるよ〜』
先生の呼びかけに子供達は元気に返事をして、いつもであれば先生が何か話して解散するところが今日は少し特別だった。
『みなさん、もうすぐ修学旅行なので今日は授業の時間に班決めと下調べの時間をとりま〜す。一緒の班になりたい人と、行きたいところをなんとなく考えておいてくださいね〜』
先生のその言葉で子供達は一斉にはしゃぎだし、そのまま朝礼は終わって解散になる。先生が教室を出てから子供達はそれぞれ仲の良い友人と集まって班を組む約束を交わし始める。
『アオ!どこ行きたい?!』
『うん、一緒の班なのは前提なんだね?まぁ良いけど』
葵の元にもすぐにケンがやってきてどこに行きたいかを話し始める。そうして葵とケンが話しているのを、何人かが遠巻きから眺めていた。葵とケンはそもそも容姿が整っていて、そのうえ二人とも性格は違うものの優しいため学校内では軽率に手を出してはいけないような存在になっていた。
『そういや一班何人なんだろうな?』
『そういえば先生言ってなかったね、5人とか6人じゃないかな?』
『まそんぐらいか、班員どうすっか?』
『どうしようね?』
二人が周囲を見渡せば、先ほどまで二人を眺めていた子達は慌てて目を逸らしてしまう。そうでなくとも全員なんとなく仲のいいメンバーで固まっていて、普段二人で絡んでばかりの葵とケンは誰に声をかけるか迷ってしまう。
『葵は女子で仲良いヤツいなかったっけ?』
『流奈ちゃんのこと?どうなんだろ、もう班組んじゃってるかも…』
『とりあえず声かけて見れば?』
まぁその流奈ちゃんは葵とケンの近くで聞き耳を立てているんだけど。葵は声をかけにくるのを今か今かと待っている流奈ちゃんの元に近寄って声をかける。
『流奈ちゃん、もう班組んじゃった?』
『ううん!組んでないよ!』
『わぁ、いつも元気だねぇ流奈ちゃん…それで、僕とケンで班を組もうと思ってるんだけど流奈ちゃんもどう?』
『…!うん!いいの?!』
『もちろん、他にも一緒がいい人がいたら誘っておいてくれると嬉しいな』
『うん!』
葵は妙に嬉しそうな流奈ちゃんに若干困惑しながらも了承をとってケンの元に帰る。
『流奈ちゃん大丈夫だって、なんかすごい元気だったけどいいことでもあったのかなぁ?』
『…西園、可哀想なヤツ』
『え、何さ?流奈ちゃんがどうしたって言うのさ』
『なんでもね、ハァ〜…モテるやつは羨ましいねぇ』
『…何言ってんの?そんなこと言ったらケンの方こそモテるでしょ』
『何言ってんだ?俺はモテてないだろ』
『『…やめようか(るか)』』
お互い不毛な会話と悟って黙り込む。そうしている間に先生が帰ってきて生徒達を席に座らせる。すぐに班決めが始まり、先生から一班6人と伝えられてまた生徒達が自由に動き出す。
『6人か…西園の方で女子を二人ひっぱってきてもらうとして、こっちでももう一人男子探さねぇとな』
『そうだねぇ、でも皆大体決まっちゃってるよねぇ』
『う〜ん…お!ちょっと待っててな!』
『え?うん』
ケンは周りを見渡して何かを見つけてそのまま教室の隅に向かっていく。取り残された葵が待っていると、ケンが一人の男子生徒を連れて戻ってくる。ケンが連れてきたのは、長い前髪で目元の隠れたいかにも気弱そうな男子だった。
『アオ!一人確保だ!空いてたっぽいから連れてきたぞ!』
『ちょっとケン、強引に連れてきたんじゃないよね?佐々木君、大丈夫?』
『だ、大丈夫…双葉君、ボクの名前覚えてたんだね…』
『え?うん、だって一年の時もクラス一緒だったよね?』
『う、うん…すごいね…』
佐々木君はうっすらと見える目を見開いて葵を見つめる。葵の言った通り、佐々木君は一年の頃に葵と同じクラスになっていた。ただ特に目立った交流もなくクラス替えがあって、この6年になるまで関わりはなかったクラスメイトだった。
驚きながら葵を褒める佐々木君に、葵は首を振って答える。
『そんなことないよ、それで佐々木君も良かったら僕らと一緒の班で行かない?』
『えっと…ぼ、ボクで良いなら』
『やった!それならよろしくね、佐々木君!』
葵はそう言いながら佐々木君に手を差し出す。佐々木君は一瞬葵が何をしたいのか理解できない様子だったが、すぐに気づいて葵の手を取る。…と、その瞬間に握った手から電流のような感覚が流れる。
『『!!』』
その感覚を感じたのは葵だけではなかったようで、佐々木君も弾かれるように驚いて手を離す。
『びっくりしたぁ、佐々木君大丈夫だった?』
『う、うん。こっちこそごめん…』
その場はそれだけで終わったけど、さっきの電流のような感覚を葵越しに僕も感じて一つわかったことがあった。
…佐々木君、彼にはどうやら普通の人とは違うものがあるらしい。
佐々木君、一体何があるんですかねぇ。
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…




