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熾天使さんは傍観者  作者: 位名月
境界に立つ
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双葉家

 『…様、葵様、到着致しましたよ』


 『…あぁ、片桐さん』


 車の中で母親の弁当を食べて仮眠をとっていた葵は、片桐さんに声をかけられて目を覚ます。車の窓から外を見れば、片桐さんの言葉通り既に双葉家の門の前まで到着していた。


 『それでは葵様、お祖父様がお待ちですし参りましょうか』


 『うん、ありがとう片桐さん』


 葵と片桐さんは、車から降りて祖父の待つ双葉家へ向かう。車はすぐ近くの駐車場に向かって一人でに動き出す。


 双葉家は一条家の屋敷のように他の民家や建造物から離れた陸の孤島のような立地ではなく、複数のビルや住宅のある市街の一角に広大な土地を構えて屋敷が建っていた。


 祖父の康蔵曰く、『本当であれば護衛もいらんと言うのに、わざわざ市街から離れた場所に家があっては不便でならん』とのことだった。祖父は広大な土地も大きい屋敷も不要だと思いつつ、家の資料や代々受け継いだものを保管するために嫌々屋敷に住んでいた。


 葵の父に普通の暮らしを許しているのも、祖父自身過剰に贅沢な暮らしを鬱陶しく思っていることも理由の一つなのだろう。


 『葵様、お疲れ様です』


 『奥出さん、いつもありがとうございます』


 葵と片桐さんは門に立つ馴染みの護衛に頭を下げながら門をくぐる。一条家のような洋館と違い和を全面に押し出した平屋の屋敷の玄関を開けて中に入ると、待ち構えていたように出てきた使用人に荷物を預られて屋敷の奥に案内される。


 『康蔵様と美香様がお待ちです。こちらに…』


 『ありがとう木村さん、お祖父様とお祖母様は今何を?』


 『今はお二人ともお庭で休憩を取られております』


 初老の女性使用人と言葉を交わしながら祖父と祖母の元へ向かう。到着した庭はよく手入れされていて、祖父と祖母はその庭を一望できる縁側にお茶を片手に腰掛けていた。


 『失礼します、葵様が参られました』


 『ん、下がっていいぞ』


 祖父の言葉に使用人は頭を下げてからいなくなる。庭から葵に向き直った二人は、もうすぐ70代とは思えないほど姿勢が良く若々しい様子だった。


 『おじいちゃん、おばあちゃん、こんにちは。』


 『葵、良く来たな。片桐もご苦労だった』


 『いらっしゃい葵ちゃん、今お茶を淹れるからね』


 『ありがとうおばあちゃん』


 二人に挨拶をしていつの間にか片桐さんが祖父の隣に用意していた座布団に座って祖母からお茶を受け取る。葵がお茶を飲んで一息ついたところで祖父が口を開く。


 『…今日は、葵の学校の入学式だったか』


 『え?うん、そうだよ。だから学校が午前中だけでこうして早くこられたんだ』


 『…そうか』


 無愛想ながら葵にそう話しかけた祖父を見て、祖母は笑いながら口を開く。


 『ふふ、何言ってるんですか。予定が決まって康太から葵ちゃんが代表挨拶をするって聞いてから入学式に突入しようとしてたじゃないですか?』


 『み、美香?!それは言うなと言っただろう!』


 『ハハ…おじいちゃん、何しようとしてるのさ?』


 『むぅ…』


 祖父は決まり悪そうに顔を逸らしてお茶を飲む。お茶を濁すとはこのことか…なんちて。


 『んん゛!それで葵、今日呼んだのはな?もうすぐある会食用の衣装を選ぶためでな』


 『前に聞いてたやつだよね、この服じゃダメなのかな?』


 葵はそう言いながら祖父と祖母に最近身長に合わせて新調したスーツもどきを見せつける。


 『それもよく似合ってるけど、会食の参加者の服装とは言えないわねぇ』


 『ん、それは護衛としての仕事着だろう。儂が着ていたような和装を用意する』


 『和装かぁ…あ、もしかして最近着付けを習ったのってそのためなの?』


 『ん、そうだ』


 そう、最近双葉家で受ける教育に和装の着付けの項目があったのだ。なぜこんなことをやるのかと僕も影ながら思っていたけど、こう言うことだったのか。


 『さて、ではデザインを選ぶか』


 『ふふふ、葵ちゃんに似合うのを選びましょうね』


 にこにこと笑う祖母に加えて祖父ですら薄く笑みを浮かべていて、葵は心の中でこれは長くなりそうだと冷や汗をかくのだった…。


かわいいおじいちゃんとおばあちゃんです。


閲覧、ブックマーク、評価やいいねして頂けた方、誠にありがとうございます。

感想も励みになっています。誤字報告も助かります。


作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…

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