小学校最後の年
68話の内容も加筆してあるので、まだ読んでいない方がいたらぜひ読んでおいて頂けると嬉しいです!
久々にセラス視点です!
4月初頭、葵11歳。葵が初めて護衛任務をこなして、初めて本当の敗北を味わってから後半年もせずに二年が経とうとしている。
あの時から葵は以前にも増して師匠の元に通うようになり、師匠との訓練ができない時は対仮想で訓練を積んで実力に磨きをかけて行っていた。
『葵君、おはよう!』
『流奈ちゃん、おはよう。今日も元気だね』
そんな葵も学校にはきちんと通っており、今年でもう小学校最後の年になった。あと一ヶ月ほどで12歳になる葵は早めに二次性徴を迎えていて、中性的で美しい容姿はそのままで身長がすっかり伸びていた。既に暁の平均身長に達したその背丈と、後ろで一つ結びにした艶のある長髪は道を歩いているだけでも目を引いてしまう。
『葵君、確か今日の入学式の在校生代表挨拶するんだよね?』
『うん…先生から頼まれちゃってさ』
基本的に英雄として生を授かった葵は肉体だけではなく頭脳も優秀で、学校でも教師にも生徒にも一目置かれている。必然的に入学式などの学校行事には代表として祭り上げられることもしばしば。
『大変そうだね?』
『うん…でも、せっかく頼ってもらえたからさ。全力で答えたいんだ』
『そっか…頑張ってね!葵君!』
『うん、ありがとう流奈ちゃん』
葵の発言からもわかるように、葵自身が進んで目立ちたいという欲求はないものの、望まれると答えずにはいられない性質のせいで気づけば先頭に立って行動していることが多くなっている。
…まぁ、求められると断れない性格のせいかは微妙だが好意を寄せてくる人が多いと誰か一人に絞りきれず、いまだに恋人の一人もできていないのは問題だけど。
実際、隣の幼稚園に入園する前から一緒にいる西園流奈にすら男女として関係をはっきりさせたことは一度だってない。
『おはようみんな』
『あ、葵君おはよう!』『おはよ〜』
葵は教室に入ってクラスメイトたちに挨拶しながら自分の席に向かう。一度隣の席に誰もいないのを確認してため息をついてから席についた葵は、落ち着いた様子で挨拶の原稿を再確認し始める。…そのまま10分ほど経ち、そろそろ先生が到着するかという時間帯に廊下からドタドタと慌てて走る音が聞こえてくる。
『おはよう!…おっしゃ間に合った!』
勢いよく教室に入ってきた男の子は、そのまま汗を拭いながら空席になっていた葵の隣の席に向かう。
『ケン…いつももうちょっと余裕もって来なって言ってるのに…』
『お!おっすアオ!何それ原稿?』
『…はぁ、そうだよ。入学式の挨拶の原稿。ほらハンカチ使いな?』
『ほ〜、いつもお疲れなこったな。ハンカチサンキュな』
葵にケンと呼ばれた男の子、桂健汰はここ一年で葵と急速に仲良くなり、葵に対して気を使わずに接してくる数少ない友人だった。葵も面倒くさそうにしながらも内心では自分に何も求めて来ない、純粋な友人として関わってくる健汰を好ましく思っていた。
そうしてくだらないやりとりをしている間に先生が到着し、小学校生活最後の一年が始まっていった。
朝礼が終わってすぐに入学式のために体育館に移動し、前日に準備してあった会場で新一年生を迎える。来賓の方の挨拶などが終わり、あっという間に葵の代表挨拶の番が回ってくる。
『今日という日に入学式を…』
入学式でも葵はその中性的な容姿を存分に活かして新入生を何人も一目惚れさせながら代表挨拶をやり切った。壇上から降りて一息つきながら自分の席に戻っていくと、自分の隣の席で寝息を立てているケンを見つけてため息をつきながら席に座る。
『…ケン、起きなよ…!』
『ぅ〜ん…ふがっ!あれ、葵挨拶もう終わったのか?』
『ちょうどさっき終わったよ』
『ありゃ、せっかくのアオの晴れ舞台を見逃しちまったぜ…』
『何言ってるのさ…』
葵はケンとのやりとりに呆れながらも、張っていた気が緩んでいるのを感じながら入学式の残りの時間は過ぎていった。
『…zzz』
『…ちょっとケン?!』
そうして、最近は少なくなっていた葵にとっての平凡な日常は穏やかに過ぎていった。
暁の平均身長=日本の平均身長の大体170cmだと思って頂いて大丈夫です。
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あらかじめ言っておきます。僕がラスボスって展開はないっすよ?
僕はセラスなんかよりよっぽど傍観者ですから。自分をそんな重要な立ち位置になんてしたくないんで。
作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…




