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熾天使さんは傍観者  作者: 位名月
断章:セラス、異世界に立つ
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欲しいもの

今更なんですけど、この断章本編としっかり関わりがあるかと言えばそう言うわけでもないです。

それはそれとして書きたいので、もうちょっと落ち着いたら別の小説として湊の作品を投稿しちゃおうかと考えてます。

 一つ一つが高そうな家具に囲まれて、僕はおねえさんに案内されたテーブルのところで縮こまっていた。


 「湊ちゃ〜ん、もうちょっとでできるからね〜!」


 「あ、はーい」


 キッチンの方から声をかけてくるおねえさんに返事をしてなんとなく部屋を見渡す。部屋の中は清潔にされていて家具も少なめで、最低限必要そうな家具以外はぬいぐるみぐらいしか置いていなかった。そのぬいぐるみもゲーセンで取れるようなぬいぐるみではなく、鑑定に出したらプレミアがついていそうなブランドの柄があしらわれたものが多かった。


 僕がザ・お金持ちの部屋に圧倒されているところにおねえさんが料理を運んでくる。


 「お待たせ湊ちゃん、ハンバーグできたわよ」


 「あ、運ぶの手伝うよ」


 「ほんと?ありがとうね」


 おねえさんと協力して配膳を終わらせて食卓につく。おねえさんはかなり料理が上手らしく、並べられた料理はどれも綺麗に盛り付けられていて美味しそうだった。今更ながらあまり意識していなかった空腹を思い出してお腹が鳴る。


 「あ、おねえさんの料理が美味しそうだからお腹が待ちきれないって言ってるや」


 「ふふ、それじゃあ食べましょうか」


 「「いただきます」」


 おねえさんと一緒に手を合わせていただきますをしてから箸を手にとる。ひとまず味噌汁を一口飲む。


 「…!」


 味噌汁はわかめと豆腐とねぎだけのシンプルなもので、一口飲んだ瞬間に口の中に優しい味が広がる。めんどくさい研究者の相手とか色々あって疲れた(?)体に味噌汁が染み渡っていく。味噌汁を置いてすぐにメインのハンバーグに箸を運ぶ。


 「うん!美味しい!」


 「そう?ならよかったわ」


 一口食べたハンバーグも肉汁が溢れソースとの相性も良くてとても美味しく、箸が止まらなくなる。そんな僕の様子をおねえさんはなんだか微笑ましそうに見ていた。


 それからしばらく夢中になって食べてしまい、気がつくと全ての食器は綺麗に空になっていた。…ちゃんとした体でのまともな食事が久々だったからちょっと感動しちゃったな。


 「ふふふ。湊ちゃんが美味しそうに食べてくれてよかったわ」


 「あ!ごめんねおねえさん、夢中になってた。すごくおいしかったよ!」


 「うん、お粗末さまでした」


 微笑を浮かべるおねえさんと一緒に食器の片付けをするけど、僕の身長が低くて僕は食器をキッチンまで運ぶだけになってしまっていてなんだか落ち着かなかった。


 「さ、それじゃあ一緒にお風呂に入りましょうか」


 「うん…あ、そういえば僕服これしかないな」


 「え!?今までどうしてたの?」


 「え〜っと…どうしてたっていうか、どうもしてなかったというか」


 どうもこうも、この服もこの体も今日初めて汚れたからな。ま、お金は今まで()が株取引で増やしたお金があるから明日にでも買えばいいだろ。そんなことを考えながらおねえさんには適当に誤魔化しながらお風呂に向かう。


 「うわ、お風呂まで広いんだね」


 「そう?別にそんなことないと思うけど…」


 案内されたお風呂も、明らかに二人で入っても余るぐらいの広さだった。おねえさんはあくまでこれが普通とばかりに返してくるけど、父親の意向で普通…よりはちょっと裕福だけど十分普通の範囲の生活をしてた()からするとこんな広さいらないだろと言いたくなってしまう。


 服を脱いでお風呂に入るとおねえさんが僕を洗いたいと言い出して聞かないので黙って洗われておく。頭をおねえさんに洗われながら、そういえばまだ色々と話ができていないことを思い出す。


 「ねぇおねえさん、ちょっと聞いてもいい?」


 「うん?どうしたのかしら?」


 おねえさんの家に来てからずっと気になっていたことがあったんだ。おねえさんの実家も裕福で、住んでいる場所もセキュリティ万全の部屋なのに…。


 「なんでさっきおねえさんが怖い人たちから逃げてる時に、誰も助けに来てなかったの?ボディガードの人とかいないの?」


 ボディガードが常についていなくても助けを呼ぶ手段なんていくらでもあるだろうし…なんて考えていると、おねえさんが僕の後ろで突然笑い声を上げる。


 「あはは!ボディガードの人なんていないわよ、別に政治に関われるような名家でもないし」


 いや葵も別に護衛とかついてないけどね?とは流石に言えないので話を進める。


 「でも通報さえできればすぐに助けが来たんじゃないの?」


 この技術の発展した世の中なら、通報すればすぐに警備用のロボが駆けつけてくれるはずなんだけど。


 「うん、今思えばそうすればよかったんだけど…襲われてパニックになっちゃってて、そんなこと考えてる暇がなかったのよ」


 あ〜、まぁそんなものか?


 「だから、湊ちゃんが助けてくれて本当に助かったわ。改めてありがとうね」


 「いいのいいの、こうしてご飯をくれて泊めてくれるだけで十分だよ」


 「本当?…あ、流すわね」


 「は〜い」


 目を瞑って頭からシャワーをかけられて泡が流れ落ちて行くのを感じる。それからおねえさんはコンディショナーやトリートメントを準備し始める。僕の髪も無駄に長いから、かなり時間がかかりそうだな。


 「…あ、そういえば湊ちゃん。助けてくれた時に言ってたお願いしたいことってなんだったのかしら?」


 「ん〜?あぁ、あれかぁ。大丈夫だよ、さっきも言ったけどこうして泊めてくれるだけで十分」


 「そうは言っても、これじゃあ私が貰いすぎだわ。自分で言うのもなんだけど、私ってお金とコネはあるから大体なんでも叶えてあげられるわよ?」


 「えぇ…」


 う〜ん…どうしよう、ちょっと考えてたことはあるけどお願いしちゃおうかな?別に僕もお金ならいくらでもあるし、年齢的な問題も()に頼んでチョチョイとデータをいじって貰えば済む話だったけど合法的な手段があるならそれに越したことはないのかな?


 「えっと、それじゃあお願いしてもいいかな?」


 「ええ!なんでも言って?」


 「変なお願いになっちゃうんだけど…お金は払うから、僕の代わりに買い物して欲しいんだ」


 「…え?そんなことでいいの?」


 「うん。ちょっと僕にはできない買い物だからさ」


 僕のお願いにおねえさんはきょとんとした顔で聞き返してくる。「そんな簡単なことを?」とでも言いたげだけど、流石に僕の買いたいものを聞いたら面倒で断られるかもしれないな。


 「えっと…お金なら私が出してもいいけど、買いたいものって?」


 「うん、建物を買いたいんだ」


 「…え?」


 あ〜…まぁこうなるよな。


 「建物…?なんでそんなもの買いたいの?」


 髪と体を洗い終えて広い浴槽に浸かりながら、僕の言葉におねえさんは不思議そうな表情で聞いてくる。さてなんて説明したものかな。とりあえず一番の理由は…。


 「えっとねぇ…とりあえずは家になる場所が欲しいって言うのが一つかなぁ」


 「…!」


 相変わらず僕のことを天涯孤独の家なき子だと思っているらしいおねえさんを無視して話を続ける。


 「それに、これからやりたいことのために拠点が欲しいんだよね。これでもお金稼ぎは得意なんだ」


 「そう…なの…?」


 そうなの。実際拠点が手に入ったところで何をしてお金稼ぎをしようかはまだぼんやりとしか決まってないけど、方向性は決まってるから。


 「うん、だから小さめの建物でもいいから事務所に使えるような建物が欲しいんだよね」


 「でも、湊ちゃん…湊ちゃんもまだ小さいんだし、国に頼れば働かなくてもちゃんと生活できるはずよ?」


 「残念だけどそれはできないんだよね。事情は話せないんだけど」


 「…」


 僕の言葉を聞いておねえさんは黙り込む。まぁ普通に考えてそうなるよな。とは言ってもなんて説明すればいいのかもわかんないしなぁ。…ちょっと強引に行くか。


 「確かにちょっと無理なお願いかもしれないけど、おねえさん僕のお願い叶えてくれるんでしょ?」


 「う、まぁ確かにそう言ったわね…」


 おねえさんは困ったようにそう答えて、また黙って考え込み始める。そんなおねえさんに追い討ちをかけるように口を開く。


 「ほら、お金は僕が出すからおねえさんは代わりに買ってくれるだけでいいんだ。ね、お願い?」


 「…わかったわ。お願いを叶えるって言ったのは私だしね、いいわ。どんなのがいいかは決まってるのかしら?」


 渋々ながら了承してくれたおねえさんは、僕の返事を待たずにそのままナノマシンでどこかに連絡し始める。


 「まだちゃんとは決まってないんだけど、二階建ての一階が事務所で二階を僕の家にできるようなところがいいと思ってるんだ」


 「なるほどね…」


 おねえさんは僕の返事を聞いてからそのまま数分画面と睨めっこして、僕の方に画面を見せてくる。見せられた画面には僕の希望に合うような物件が数件表示されていた。


 「とりあえずパッと出てくるのはこれぐらいなのだけど、どうかしら?」


 「わぁ〜、仕事が早いねぇおねえさん」


 おねえさんが選別してくれた物件は値段帯ごとに二件ずつぐらい選出されていて、どれも値段よりも良さそうな物件だった。どれがいいかな、値段的にはどれも問題ないんだけど…あ、これなんか良さそう。


 「おねえさん、これでお願いしてもいいかな?」


 「どれ…あら、湊ちゃん本当に結構お金あるのね。わかったわ、明日には使えるようにしておくわね」


 「うん、ありがとう。お金は今渡せばいいかな?」


 「ん、これぐらいなら私のお小遣いだけで賄えるからプレゼントするわ」


 「え、いやいやちゃんと僕が出すよ?」


 僕が送っていた金銭の受け渡しメッセージを拒否されてしまい、おねえさんはとめる暇も無く物件の購入を手早く済ませてしまう。


 「いいの、これぐらい本当に大丈夫だから!」


 「…うん、ありがとうおねえさん」


 おねえさんはお礼を言った僕に笑いかけてそのまま片手間に手続きを進めていく。そして数分後に手続きが終わったらしいおねえさんは画面を閉じて、浴槽から立ち上がる。


 「さ、今日は寝ましょうか!」


 「うん!」


 お風呂から上がっておねえさんに髪を乾かしてもらってブカブカの寝巻きを借りて寝室へ向かう。おねえさんの寝室は、やっぱりとても大きかった。



一体湊は何がしたいでしょうか?!答えは多分次のお話で!


閲覧、ブックマーク、評価やいいねして頂けた方、誠にありがとうございます。

感想も励みになっています。誤字報告も助かります。


作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…

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