夜の街
なんか世界観違う気がするかもしれませんけど、ちゃんと熾天使さんの世界ですよ?
日が暮れて街灯の光とビルの灯りだけが光る街を蒼と歩く。街中は仕事帰りらしい風貌の人や道端で楽器を片手にパフォーマンスする人、これから飲みに行くであろう人たちで溢れかえっていた。
「こんな時間に外を歩くのは久々だなぁ」
昔々のそのまた昔に人間だった頃は、仕事帰りに死んだ目をしながら歩く人の一人だったんだよなぁ。あの頃は何を思って歩いていたっけなんて考えながら人間だった頃とは違った様相の街を眺める。
「わうっ!」
「うん?そろそろ帰らないと危ない?」
僕の顔を見て吠えた蒼の声と表情からなんとなく蒼の思考を読み取ると、そんなことを言われていた。いや、そんなこと言われても…
「僕、帰らないよ?」
「わう?」
僕の答えに蒼は不思議そうな声を出して首を傾げる。そうなのだ。僕は本体のところに帰るつもりがない、というより帰れないのだ。理由は色々あるけど、一番大きな理由としては葵の裏人格のセラスではなく、この世界で一個人として成立するセラスという存在を作るためだ。
「これから色々やっていかないといけないからね。それに、僕がこの世界を思いっきり楽しみたいっていうのもあるけど」
「…」
蒼は僕の言葉に呆れたように項垂れる。ま、とりあえずそろそろ家に蒼を返してあげないとな。…どうせ本体の方には僕の思考は筒抜けだし、ちょっと人目につかない裏路地に入ってやれば…お、来た来た。
「ワウッ?!」
何もない空間にぽっかりと穴が空いて、穴の向こうから僕の家でくつろぐ僕が覗き込んでいた。
「お疲れ僕〜、それじゃあ蒼は回収するね。あとは頑張って」
「はいよ〜、こっちはこっちでなんとかやるから何かあったら呼ぶよ」
穴の向こうの僕に蒼を渡して、すぐに穴は閉じていく。完全に穴が閉じるのを見送ってから、路地裏にあったゴミ箱に腰掛けて一息つく。
「…とりあえず、これからどうしようかな」
僕が人間だった頃の世界とは違って、星が一つも見えない空を見上げながら思考を巡らせる。今日1日で嫌というほど味わったけど、僕のこの体はできないことがかなり多い。あくまでこの世界の人間ベースで作られているから、人間としての生理機能は存在するし、限界もある。ご飯も食べないと生きていけないし、寝ないと意識が朦朧とする。
何より本体と違うのは、今の僕は『破壊』の異能以外の超常的な力はほぼ使えないということだ。人の心も未来も確認できないし、転移もできない。思考能力で未来視に近い予測はできるし、100kmぐらいちょっとジャンプすれば移動できるけどあくまでその程度のことしかできない。
「困ったもんだなぁ…」
現状、今日の寝床にも困ってしまっている。いつもだったらチョチョイと異空間創ってそこを部屋にして寝泊まりすればいいんだけど、今の僕にはそんなことはできない。
「とりあえず、情報収集かな?…ほっ!」
気合いを入れて腰掛けていたゴミ箱から降りてスカートについた汚れを払う。少し周りを見渡して視界の中の一番大きいビルを探す。
「おっ!あれでいいか」
この辺りで一番大きいビルに目星をつけて、とりあえず僕がいた路地裏から行けるビルの屋上まで跳躍する。ビルの屋上から近くのビルのセキュリティの死角を確認してから、ビルの隙間を縫うように跳躍してさっき見つけたビルの屋上まで到達する。
「お〜、こうしてみると結構いい景色じゃん!」
光の集中している場所や逆に薄暗い場所。人が多い場所やほぼ人がいない場所。明かりがまばらについたビルと明るい住宅街。自然はないけど、人の文明が発達した場所だ。
しばらくそうして人の営みに見入っていると、人通りの少ない路地であるものを発見する。
「…あ、そうだ」
そのあるものを見てふと浮かんだアイデアが実現可能か、そうするメリットは何かなど思考を巡らせて…数秒後に思考を放棄する。
「楽しそうだしやっちまうか!」
夜を行き交う人の熱に浮かされたからなのかは知らないけど、今はリスクリターンじゃなくて面白い方を優先してみてもいいかと思ってみることにした。そのままさっき見つけた場所へのルートを計算して、一気に駆け出す。
僕がビルの上を跳び回って向かっている先には、明らかにカタギじゃない人たちに追われている女子高生という奇天烈な状況が広がっている。どうしてそんなことになっているのかはわかんないけど、さっき僕の頭に浮かんできたアイデアはとりあえず人を助けてその人に寝床を提供してもらおう!というなかなか訳のわからないアイデアだった。
「ま、なんとかなるでしょ!」
僕の計算通りのルートなら、次のビルを超えたら…お、いたいた!視界に映った女子高生は、焦りながら追っ手を巻こうとしているからかもうすぐ袋小路に行き着いてしまうところだった。
「はぁっはぁっ!…えっ!?」
案の定逃げ場を失った女子高生の声を僕の割と高性能な耳が拾う。女子高生もなんとか逃げ道がないかと周りを見渡しているけど、そこは完全な袋小路で逃げ道も隠れる場所もない。…そして、そこにスジモンさん達が追いつく。
「ふぅ…手間かけさせやがって、おとなしく捕まって人質になってくれりゃ痛い目には会わせねぇっつってんのにヨォ」
「いや!来ないでください!」
はい、そっちが完全にクロね。これで僕も心置きなくやれるな。近くのビルから飛び降りて、女子高生とにじり寄って来ているスジモンさん達の間に衝撃を殺しながら着地する。
「きゃあっ!」
「!?な、なんだテメェ!」
訳のわからない状況に困惑しながらも僕に向かって怒鳴りつけてくるスジモンさんを無視して女子高生に向き直る。
「ねぇおねえさん、助けてあげようか?」
「ぇ?どういうことなの…?あなたどこから?」
「もしおねえさんが今日僕をお家に泊めてくれるなら、助けてあげるよ?」
「おいガキ!何言ってやがる!」
僕の言葉に混乱している様子のおねえさんはどう答えたらいいのかわからない様子だったけど、僕の後ろのスジモンさんがあげた声に縮こまって悲鳴のように声を上げる。
「わ、わかった!なんだってしてあげるから!だから助けて!」
「おっけ〜」
言質はとった。僕はおねえさんに背を向けてスジモンさん達に向き直り、無造作に近づいて行く。僕が子供の容姿をしていても流石に状況が異質だからなのか、それとも生存本能がなせる技なのか、僕に対して構えをとって不用意に手を出してこないスジモンさん達。
「…おいガキ!今逃げるんならケガはさせないでやってもい…!」
「…」
僕が近くにいたスジモンさんから順番に、半日ぐらい気絶しているように手加減した拳を腹に叩き込んでいき崩れ落ちていく。
「え…?何、なんなの?!」
なんとなく汚れた気がする拳を払いながら、困惑するおねえさんに向き直る。
「それじゃ、約束どおり今度はおねえさんに助けてもらおうかな?」
僕の言葉を聞いても、おねえさんはしばらく固まったままだった。
セラス印の高性能サブボディーにかかれば手加減だってお手のものですよ。
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…




