幕間:保護者達の飲酒問答
はい師匠視点の幕間です。
龍災の死者追悼式典が終わってから数日後、オレは自分の屋敷からリモートでとある通話に参加していた。参加しているメンバーは先日の護衛対象の一人でもあった一条家当主の一条道也様に、葵の祖父で先日お会いした双葉康蔵さん。他にも数人が参加している。
「お待たせしました皆さん。守宮です」
「来たね、これで参加予定の人は全員揃ったかな」
「やっとか、待ちくたびれたぞ守宮」
「すみません双葉さん、それじゃあ始めますか」
「そうだね、それじゃあ…」
「「「乾杯!」」」
通話先から複数の缶を開ける音やグラスの音が聞こえてくる。オレも手元のグラスを空中に掲げてから中の酒を呷る。数秒後、グラスや缶を置く音が聞こえると、道也様が話しだす。
「そうだ守宮さん、先日は護衛に参加してもらってありがとうございます」
「いえいえ、私も仕事としてお金もらってますから…とはいえ、あまり役目を果たせたとは言えないですけどね」
「あ、ここは仕事の場じゃないからいつもの砕けた口調でいいよ?」
「そうか?いやぁ、アレ以来ちっと気が休まらなくてな…」
アレ、とはもちろん追悼式典の日に犯罪者に襲撃された件だ。この数日間も捜査されていたが、葵が遭遇してオレが取り逃した黒装束についてはほとんど情報が出ていなかった。
「う〜ん…アレは一体なんだったんだろうねぇ…」
「セキュリティも反応せず、監視カメラも会場前の廊下の死角から急に出現したようにしか映ってねぇんだから侵入経路も掴めず…」
「確保したテロリストの中にも犯行を可能にできる異能を持っている人間がいないんだから、本当によくわからないねぇ」
「護衛が集中してるあそこに襲撃に来るにしちゃあ、あの黒装束以外あまりにも弱すぎたしな」
オレと道也さんが話しながら頭を抱えていると、俺たちの話を酒を呷りながら黙って聞いていた双葉さんのマイクからドンっと大きい音が入る。
「守宮ァ!お前犯罪者を一人取り逃したらしいなぁ?!」
「はいっ!すいません!!」
双葉さんの声に、対仮想にいた時代を思い出して勝手に体が気をつけの姿勢をとる。
「あの会食会場のテロリストへの対応はまぁ及第点だったが…儂の孫が必死に戦ったクズを師匠の守宮が取り逃すとは何事だ!?」
「すみません!返す言葉もございません!」
いやぁ…全くもって双葉さんのおっしゃる通りだ…。うっ、葵はあんなに頑張って格上相手に道也さんの娘さんを守って見せたのにオレってやつは…。
「うぅ…オレは、オレはぁ…」
「はぁ…二人とも酔うと面倒なんだから…」
道也さんが何か言った気がしたがよく聞こえなかった。それから少しの間双葉さんに怒られながらべそべそと泣いていると、しばらく話していなかった参加者が口を開く。
「まぁまぁお二人とも、せっかくの飲み会なんだからもっと明るい話をしましょうよ」
「うぅ…三谷さん…」
「そうっスよ!そうだ、さっき話に出てきた双葉さんのお孫さんの話聞かせてくださいよ!」
「む…四凪の、儂の孫の話を聞きたいとな?」
「うっ…(ちょっとめんどくさくなりそうっスね…)は、はいっス!」
「確かに、少し興味がありますね。守宮さんが取り逃すような犯罪者の相手を、双葉さんのお孫さんがしていたとか…」
三谷さんと四凪さんが葵の話に興味を持ったみたいで、双葉さんに話を聞き始める。確かにあの黒装束、オレが本気で攻撃したのに余裕を持って躱していた。普通の犯罪者であんな実力者が今まで隠れていたという事実が驚きだ。
「そうだ。儂の孫の葵はまだ小さいのに、弟ができた頃から強くなりたいと訓練を初めてな」
「へぇ〜!それならお孫さんて今何歳なんスか?」
「葵は今確か10歳だったな…ぐすっ」
「10歳ですか!そんな小さい子がそんな実力を…」
「自慢の孫だ…」
…双葉さん、この調子でよく葵に家のことバレなかったよな。
「そうっスねぇ、確か守宮さんの弟子なんですよね?」
「あぁ、葵は根性もあるし才能もある。これからもっと強くなるぞ?」
「ほぉ…守宮さんがそこまで言うとは、よほどなんですね?」
「そうなんだよ!葵は本当にいい子でなぁ?」
…そうして話題は完全に葵の話になっていき、葵との訓練の話や生い立ちの話になっていった。
「え?!それじゃあ葵君、つい最近まで自分が双葉家の跡取りだって知らなかったんスか?!」
「あぁ、儂の息子の方針でな」
「ん?と言うことは、葵君のあの丁寧な言葉遣いは?」
「む、別に特別教えたりはしていないが…葵は本が好きだから本で覚えたのかもな」
なぜ葵が双葉家のことを聞かされていなかったのかがわかったり…
「これが葵君ですか…ん?女の子ですか?」
「違うぞ?葵は男だ」
「…これは、将来女の子を泣かせそうですね」
「葵はそんなことせんわ!」
葵の写真を見た三谷さんが葵の性別を勘違いしたり…
「双葉さん、葵君の婚約者にうちの娘はどうです?」
「一条の…そういうのから遠ざけるために家のことを教えていなかったと言っているだろう」
「そうですよねぇ」
道也さんが葵を義息子にしようとしたりで、今回の飲み会はほぼ葵の話で持ちきりになっていた。葵の話からまた葵と戦った黒装束の話になったり、道也さんとこの娘さんの話になったりして飲み会の夜は終わっていった。
「それじゃあ、また来月に」
…なんだ?なんか何書きたかった忘れちった…。
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…




