解散と帰宅
屋敷に到着して車から降りると、護衛の皆さんたちは片付けや事後処理で忙しなく動き出す。僕はほとんど荷物がないし、他の皆さんの手伝いで色んな人のところを回っていた。
「すいません、これってどこに置けば良いですか?」
「あぁ!ありがとうね!こっちに置いてくれる?」
「わかりました!」
荷物を運ぶ流れで護衛さんたちの事務所?のようなところに入ったけど、今回の護衛中に見なかった人もたくさんいてびっくりしてしまった。
「葵!そっちが片付いたら来てくれ!」
「はーい!すぐ行きます!」
荷物を置いたタイミングで師匠から呼ばれる。ちょうど僕が頼まれていた分もさっきので最後だったし、荷物を預かった護衛さんに一声かけて師匠の声がした方に向かう。
師匠の方に向かうと、師匠は道也様と真由子様と一緒に話しているところだった。片桐さんもすぐ近くに居て今行ったら邪魔になるかと思いながらも近づいていくと、こちらに気付いた師匠が手招きしてくる。
「師匠、どうしましたか?」
「おう、そっちはもう大丈夫なのか?」
「はい。ちょうど終わったタイミングだったので」
「そうか、なら良かった」
僕にそう答えた師匠は、道也様と真由子様の方に向き直って一瞬で真剣な表情を作っていた。
「それでは一条様、私達はこれで業務終了ですので失礼致します」
「あぁ、皆さん二日間もありがとう。娘も挨拶させようかと思ったんだが、やはり疲れていたみたいでね。もう休ませているよ」
「いえ、お二人もお体を大事になさって下さい。それでは…」
師匠は手短に挨拶を済ませて車に向かおうとする。…あ、そうだ。アレを言うなら今しかないのか。
「すみません師匠、少しだけ待っていてもらっても良いですか?」
「ん?まぁいいが、手短にな?」
「はい!」
師匠に断りを入れて、車とは逆方向に走り出す。少し行くと、屋敷に入ろうとしている道也様と真由子様の姿があった。
「すみません!道也様、真由子様、少しだけお時間よろしいでしょうか?」
「おや?葵君、どうしたのかな?」
急に声をかけた僕に、お二人とも足を止めて聞いてくれる。…そう、このお二人には絶対に言っておかなきゃいけないことがあったんだ。
「道也様、真由子様…昨日はお嬢様を危険な目に遭わせてしまって、申し訳ありません!」
「…」
昨日お嬢様を危険な目に遭わせてしまったことを謝ろうと思っていたのに、なかなか機会がなくて謝れていなかった。お嬢様が居る場だとお二人も本音を言いづらいだろうし、今が一番のタイミングだったと思う。
腰を折り曲げて深く頭を下げていた僕にはお二人の表情は見えなかったけど、少しの間黙っていた道也様が沈黙を破る。
「葵君、頭を上げてくれるかな?」
「…はい」
頭を上げて見たお二人の表情は、僕が思っていたものよりもずっと優しい表情をしていた。予想外の反応に僕が少し困惑していると、お二人の方から声をかけて頂けた。
「葵君、私達は君のせいで娘が危険な目に遭ったとは考えていないよ」
「えぇ、そうですよ葵さん」
「…そうでしょうか」
「そうだよ。むしろ君には感謝しているぐらいだよ」
「感謝…ですか?」
僕はお二人の言葉が信じられずに思わず聞き返してしまう。そんな僕にお二人は変わらずに優しい表情で言葉を続ける。
「そうだよ。君は自分ができることを全力でやっていた。それに娘も守られていたようだったしね」
「えぇ、葵さんのおかげであの子少し明るくなったような気もします」
「そうだね。だから葵君、私たちは君に感謝しているんだ」
「葵さんも、あまり気に病まないでしっかり休んでくださいね」
「…はい、ありがとうございます!失礼します!」
お二人にもう一度深く頭を下げて、師匠達の元に向かって走っていく。合流した後も師匠と片桐さんは深くは聞いてこず、そのまま車に乗って家路についた。師匠の屋敷に行かずに直接僕の家に送ってくれることになって師匠の運転で僕の家に向かう。
帰り道は僕も色々と疲れていたのか、すぐに寝てしまって片桐さんの声で目覚めて周りを見るともう家の近くの駐車場についていた。
「葵様、もう到着しましたよ?」
「んぁ…かたぎりさん…ありがとうございます」
なんとか起きて車から降りる。自分の荷物をまとめると、師匠と片桐さんに二日間のお礼をしてから家に向かう。
「師匠、片桐さん、ありがとうございました!」
「おーう、ゆっくり休めよー」
「ゆっくり休んでくださいませ」
師匠と片桐さんの乗る車を見送って家に向かう。思えば、この二日間で色々あったなぁ…。初めての経験がいっぱいあって、お嬢様とも少しは仲良くなれた気もするけど、初めての実戦では負けちゃって。あ、そういえば僕の家のことってお父さんとお母さんに聞いても良いのかな…?流石におじいちゃんから伝わってるのかな?
そんなことを考えている間に、僕は家の玄関の前まで到着していた。色々聞きたいこととか、話したいことはいっぱいあるけど…
「ただいま!」
そうして、僕は家族が待つ家に帰ってきた。
ひとまずこれで護衛編の本編は終了です。次回は少し別の人視点の話を書こうと思います。
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…




