仮想体頻出地帯
師匠との通話から少しして車が停車する。車が止まったのは道だけが整備されている森の中だった。車から降りると既に師匠は近くで待っていた。師匠の他にも10人程車の外で護衛の方達が待機していた。
「師匠、お待たせしました」
「来たな、それじゃあ始めるか」
師匠はそう言って一旦近くにいた護衛の人達を集める。護衛の人達が集まると、師匠は全員に見えるように図や資料を表示させて話し始める。
「全員聞け!これから仮想体頻出地帯に入る。配置は事前に決めてあった通りだ。危険度の高い仮想体は滅多に出ない地帯だが、警戒を怠らないように!」
「「「はいっ!」」」
師匠の号令で護衛の人達は周囲に散らばって行く。さっきの通話だと、僕は師匠について行けば良いんだったよな?とりあえず師匠の近くで待っていると、護衛の人達に細かい指示を伝え終えたらしい師匠に手招きされる。
「師匠、僕は師匠について行けば良いんでしたよね?」
「ああ、とりあえず車が動き出しちまう。動きながら説明するから身体強化しておけ」
師匠に言われてとりあえず身体強化しておくと、車が動き出して護衛の人達がその周囲にばらける。師匠が森の中に走り出すのに合わせて僕もついていく。森の中を車が見れる位置を保って車と並走しながら走る師匠が説明を始める。
「確か頻出地帯に来るのは初めてだったよな?どういう場所かは知ってるか?」
「本で読んだことはあります、確か…」
普段暮らしている範囲は仮想体が出現しにくくなる装置があって仮想体が出現するのは稀だけど、仮想体頻出地帯はその装置がなくて多数の仮想体が出現する危険な地帯…
「…でしたっけ?」
「ああ、その認識で合ってるな。ここらへんに出る仮想体は基本的に人間を見ても近寄ってこないようなやつばっかだが、今回は万が一のために周囲の仮想体をあらかじめ追い払ったり撃退して車に近づけないようにする」
「それでこうして車から降りて森の中を走ってるんですね」
僕の言葉に首肯で返した師匠は、こうして話している最中も周囲の警戒をし続けていた。
「それで、もし仮想体が出たら僕も戦って良いんですか?」
「あ〜…基本的にはオレが対処するから葵は見てるだけで良い」
そうなのか…戦ってみたかったんだけどなぁ。今まで対仮想のシミュレーションで戦ったことはあっても実物の仮想体と戦ったことはなかったからなぁ。そんなことを考えていると、師匠が何かを見つけて耳元に指を当てながら進路を逸らす。
「こちら守宮、小型の仮想体を発見。対処にあたる…葵、ちゃんと見とけよ?」
「はいっ!」
師匠の言葉を聞いて進んでいる先を見ると、鹿のような動物がいた。近づいて行くとそのシルエットがはっきりする。鹿のような動物は角のように樹を頭から生やして、体の一部も木のようになっている明らかに仮想体だとわかるものだった。
「下がれ!」
師匠に言われて、師匠の後ろに隠れるようにしながらついていく。僕たちがある程度鹿モドキに近づくと、あちら側も僕たちに気付いたようでこちらに視線を向ける。僕達に気づいた鹿モドキは、慌ててこちらに向かって何かを吐き出して来る。
「…ふっ!」
師匠は何かを大鎌を振るって弾き飛ばし、そのまま鹿モドキに向かって飛び込んで行く。またすぐに何かを吐き出そうとする鹿モドキに一瞬で肉薄した師匠は、大鎌で鹿モドキの首を切りつける。
「ギィッ!」
鳴き声を上げて血を吹き出しながら近くの木に叩きつけられた鹿モドキは、少しビクビクと痙攣した後に動かなくなる。…血は通ってるんだ、木っぽいのに。
師匠は動かなくなった鹿モドキを少し確認して、死んでいる事を確認すると構えを解く。
「こちら守宮、小型の仮想体討伐完了。順路に戻る…葵、戻るぞ」
「はい!」
報告を終えて先ほど通っていた道の方に戻ろうとしていた時、ふと鹿モドキの方を見ると、死体となった鹿モドキは光の粒子になって消えていっていた。…確か、死んだ仮想体は粒子になって自然に還っていって、また新しい仮想体になるって言われてるんだっけな?
「葵?早く行くぞ」
「あ、はい!すいません!」
既に少し離れたところまで進んでいた師匠に声をかけられて慌てて師匠を追いかける。元の道に戻りながら師匠が相変わらず周囲を警戒しながら話しかけてくる。
「葵、実際の仮想体との戦闘を見てどうだった?」
「どう…ですか?正直見ているだけですし、あまりピンとこないですね」
「…そうか」
僕の言葉に、師匠は何かを考え込むようにしてしばらく黙り込むと、珍しく僕の方を見て口を開く。
「葵、危険度の低い仮想体に遭遇したら次はお前が戦ってみるか?」
「えっ、良いんですか!?」
最初は見てるだけって言ってたのに、なんで急に言い出したんだろう?まぁ実際に仮想体と戦える機会なんて滅多にないし、僕としては嬉しいけど…。
「あぁ、これも経験だろう。…ただ!危険だと思ったらすぐに引く事!オレもいざという時は手を出せるように近くで見てるが、自分の身は自分で守る事!いいな?」
「はい!ありがとうございます!」
よくわかんないけどやったぁ!これで初めて実際の仮想体と戦える!どうなんだろうな、やっぱりシミュレーションとは違うのかな?とにかく楽しみだ!
浮き足立っているのを自覚しながらも森の中を飛んだり走ったりしてしばらく進むと、師匠が声を上げる。
「葵、いたぞ!」
イメージは某忍者みたいに森の中を飛んだり走ったりしてます。
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…




