幕間:傍観者達の問答
今回は本編とはそんなに関係のないお話です。
ちょっとした箸休めです。そこまで深く考えて読まなくて大丈夫ですよ。量は多いですけど。
僕は今、どういう訳か転生した世界の外に久しぶりに出てきていた。懐かしい空気と雲海の中、テーブルを囲む二つの椅子のうちの一つに腰掛けていた。
「あのぅ…セラスさんはお飲み物はどうされますかぁ…?」
「頂けるのであれば何でも構いませんよ」
相変わらずオドオドしながら聞いてくるスピリッツ様に答えると、スピリッツ様自ら飲み物を用意していただける様だった。僕がやるように進言しても断られてしまったので大人しく椅子に座っておく。
「お待たせしましたぁ…」
「わざわざありがとうございます。…とても美味しいです」
「お口にあったようならよかったですぅ…」
スピリッツ様が入れてくれた紅茶は、確か12億年前に滅んだ世界で世界一の紅茶と言われていたものだったかな?気に入ってるのかな…。
「…それで、わざわざ僕を呼び出した要件というのは?」
「あぅ…えっとぉ…その、創造神様からセラスさんから時折報告を受けるように仰せつかっていましてぇ…」
「…なるほど」
そんなこと事前に一切聞かされてないんだけどなぁ!あのク◯神がぁ…!ちょうど葵が寝て家族も家にいないから蒼を久々に撫で回そうと思ってたのに…。まぁ仕方ない、スピリッツ様に言っても仕方ないことだし。
「わかりました…とは言っても、スピリッツ様がこちらから見ている通りだと思いますが」
「えっとぉ…創造神様からの指令ですのでぇ…」
「…ええ、わかりました」
「よろしくお願いしますぅ…」
この神はなんでいちいち僕にビクビクしてるのかなぁ?以前に見た時に他の天使と話してるのを見た時は普通だったんだけどな。…まぁ良い。しかし、報告と言っても特に問題らしい問題も起きてないし、特に言うことないんだよなぁ。
「現状、特に問題は起こっていませんよ。滅びの運命の決定的なポイント以外に手を出す気もないので、僕の転生先の子から見ていて目についたところだけ手を出しています」
「はいぃ…こちらからも確認した分でも、それで問題ないと思いますぅ…」
「転生先の子も、ようやく若葉ぐらいの成長具合ですし…転換期に臨むには力不足かもしれないので、僕が手を出す必要もあるかもしれませんね。今後の成長に期待です」
「なるほどぉ…今は滅びの運命からそこまで大きく外れていないので、その影響もあるかもしれませんねぇ…」
まぁ、そうだろうな。たかだかあの世界で一番強いわけでもない子供一人程度で運命が大きく変わると言うのもおかしな話だ。今の葵に世界の運命を変えられる力は、僕以外には備わっていない。
「後は…これは僕の個人的な趣味なので恐縮なのですが」
「何でしょうかぁ…?」
「僕は本来辿る予定だった運命と、滅びの運命以外をできるだけ見ないようにしているんですよ」
僕のその言葉に、スピリッツ様は目を見開いて驚く。まぁそうだろう。わざわざできることをやらないで動く理由なんてスピリッツ様や普通の天使には何兆年かかったところで理解できないだろうし。
「えっとぉ…それはまた、どうしてなんですかぁ…?」
「つまらないからです」
「ほぇ…?」
呆気に取られて情けない声を出すスピリッツ様に繰り返し同じことを答える。
「つまらないからです。だって、たった一つ世界を救えば良い仕事なんて簡単すぎますから」
「…簡単、ですかぁ?」
「はい、簡単です」
スピリッツ様は、僕の言葉が理解できない様子だった。…多分、あの創造神は僕にこれの説明をさせるためにこの報告会をするように言ったんだろうなぁ。面倒くさくて敵わないよ。
「…お役目の難易度なんて、考えたこともありませんでしたぁ」
「そうでしょうね。皆さんは、そうなるように創られたモノですから」
「…セラスさんはぁ、そうではないのですかぁ?」
「えぇ、元はただの人間ですから」
人間と神、人間と天使、人間と悪魔、どれを挙げてもそもそもの製造する際のコンセプトが人間だけ他とは違う。人間は世界の中で発展することもあれば衰退…挙句自分たちの手で滅亡もする。自分や周りの環境に対してより良く、もしくはより悪く成長する力が始めから設計されている。
「…でもぉ、セラスさんは熾天使ですよぉ?創造神がお作りになられた天使の中でぇ、もっとも天使らしい天使と言っても良い存在ですよぉ…?そんな、人間的な部分が残っているようには思えないんですけどぉ…」
おずおずとスピリッツ様はそう言うが、その発言には天使であるなら…創造神が創った存在ならばそうあるべきという考えがあってのものだろう。
「逆ですよ。創造神が僕を完全な天使として創り変えたのであれば、僕は数十億年程度で熾天使にはなっていませんよ」
「逆…ですかぁ…?」
「ええ。だって、僕の他に熾天使になった天使っていないじゃあないですか」
僕の言葉に、スピリッツ様は少し考え込むようにした後ではっとしたような表情を浮かべる。…そう、天界の中で僕が知る約50億年の間に、僕が教育した天使以外に成長した存在はひとつも存在しない。全てが始めに与えられた役割に準じて、全てに全力で与えられた役割をこなす。
「そもそも、成長という概念が設計されていないんですよ」
「…そう、なんですかぁ?」
「だって、何にも疑問を持たないんですから。何も好きにならないし、何も嫌いにならない。あるのは信仰心…奉仕精神だけ」
「……」
僕の言葉を聞いて黙り込むスピリッツ様を横目に、僕は手元のティーカップに入った紅茶を一口飲む。…そういえば、これもそうか。
「…この紅茶もそうですね」
「…え?」
僕の言葉に、スピリッツ様はティーカップに視線を向ける。…12億年前、スピリッツ様が担当していた滅んだ世界の紅茶に。
「スピリッツ様がわざわざ滅んだ世界の紅茶を未だに飲んでいるのは、どうしてですか?」
「…それはぁ」
「もったいなかったから…じゃないですか?」
なぜわかるのか、と言いたげな顔でこちらを見てくるスピリッツ様。熾天使とはいえ、神の心を読むことなんてできやしないのに。
「…どうして、そう思うんですかぁ?」
「だって、あなた達に好みなんてありませんから。与えられた役割によって個体差はあっても、個性なんてものがない以上好みの差なんてものは存在しない」
好きなものもなければ、嫌いなものない。
「そんなあなたが何かにこだわる理由なんて、創造神が創った世界のものが消えてなくなるのがもったいなかった…ぐらいしか考えられませんから」
自覚があったのか、無自覚だったのかは知らないけど。
「…ではぁ、セラスさんが熾天使になったのはぁ、人間としての性質によるものだとぉ?」
スピリッツ様は目を逸らすように、話題を逸らしてそう言った。
「流石にそこまでは言いませんよ。ただ、多少は影響があっただろうという憶測の話です」
だって、ただの人間ごときが50億年も人間の精神を保ったまま天使として成長するなんてあり得ないだろうから。
「創造神が何か調整したんじゃないかと僕は考えています。丁度よく人間を残した、成長する天使になるように」
「…成長する、天使ですかぁ」
「だから、先程スピリッツ様が仰られたもっとも天使らしい天使というのは僕には全く当てはまらないんですよ」
だって、完全な天使であれば成長なんてするはずないのだから。完全な天使であれば…
「完全な天使であれば、創造神に与えられた役割に疑問を持つことなんてしませんから」
「与えられた役割にぃ、疑問ですかぁ…」
「成長すること自体、神に創られた自分の性能を疑うことですからね」
完璧に完成されているものは、それ以上になることはない。製作者によって手を加えられない限りは。
「僕は簡単な仕事はつまらないと思いますし、難しい仕事は面倒だと思います。だから、怠けもすれば工夫もする」
「……怠ける、ですかぁ」
スピリッツ様は、一言だけこぼすと何かを考え込むように黙りこくる。…まぁ、こんなものか。創造神が僕に求めていた役割は、これで果たせたんじゃないのか?そもそもこんなことを求められていたかはあのク創造神にしかわからないけど。
そうやって自分を納得させた僕は、ティーカップに残った紅茶を一気に飲み干して席を立つ。
「それではスピリッツ様、僕はこれで失礼します」
「ぁ…えっと、はいぃ…次の報告もお願いしますぅ…」
僕の言葉にハッとしたようにこちらを見てそう返すスピリッツ様に頭を下げ、葵の元に帰ろうと座標に穴を開ける。…あ、まだ言ってないことがあった。
「あの紅茶、僕も好きですよ。また飲みたいです」
そう言って、穴を渡って葵の元に帰る。…最後にスピリッツ様がどんな表情をしていたのかは、よく見えなかった。
時系列で言えば、今やっている護衛任務が終わった少し後ぐらいです。
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…




