転生(長期休暇)の提案
また長くなってしまいました。
読みづらかったらすみません。
三対六枚の翼を広げて青い空と雲が一面に広がる空間を飛翔していく。僕を呼び出した創造神レンは、特殊な空間に引きこもっており、転移等の特殊な移動手段は創造神レン自身とその他のごく一部しか行うことができない。
普段であれば長距離移動は転移でさっさとしているのだけれど、わざわざ翼を広げて音速以上の速度で飛んでいるのは呼び出してきたファッ◯ンゴッドが僕に転移を許可していないからだ。
…こっちは休日返上して来てやってるんだからさっさと済ませたいんだけどなぁ。
30分ほど翼を動かしていると、天空に浮かぶ宮殿が見えてくる。仕事で何度も来ているせいか、騎士のように周りを巡回している天使達は軽く会釈をして通してくれる。
僕も面倒な手続きをしたく無いので、頭上の輪で感じ取れる神気が一番強い屋上スペースにそのまま飛んでいく。
「やぁ、急に呼び出してすまないねセラス」
屋上に着地して翼をたたんでいる僕に声をかけて来たのは、少年のような見た目だが老年の賢者のような雰囲気だけ纏っているク◯神、もとい創造神レンだ。
「いえ、今日はスケジュールに余裕があったので僕の休息時間以外は問題ありません」
「そう、ならよかった」
「……はぁ」
◯ソ神が、僕の心を読んだ上でガン無視決めやがって。
本来であれば神に対して心の中でも無礼を働けば、即座に存在を消滅させられるのだが、僕は色々と特殊な状況なので謀反でも起こさない限り許されている。
実際こんなことを考えている僕を前にしても、ク◯神はニヤニヤと楽しそうな表情を浮かべている。
「まぁまぁ、これからする話はセラスにとって嬉しい話だと思うけどね」
「おや、僕に休暇でも頂けるのですか?」
まぁこの◯ソ神が休暇なんてくれるわけがないのだけど。なんてったって部下には生まれた時から労働の喜びを植え付けているブラックホール企業の代表取締役なのだから。
「セラスの私への評価は置いておくとして、今君に任せている全ての仕事の代わりにやってもらいたいことがあるんだ」
「はい?」
僕がしている仕事を全てストップさせてまでさせる仕事だと…?さてはこの神、本気で僕の精神を崩壊させるつもりだな?
「いいんですか?僕が抜ければかなりの業務が滞ってしまうと思われますが…」
「あぁ、そこは問題ないよ。君が抜けたところであくまで効率が3割程度落ちるだけだし、君には及ばないものの君に育ててもらった後続もいることだしね」
「…まぁ、それはそうですが」
そうなのだ。僕はこの約50億年の間に後輩を育てたりもしていて、僕がいなくなっても最低限僕が作ったシステムが運用できるようにはしていたりするのだ。
「それでねセラス、君にやってもらいたい仕事の話なのだけれどね」
「できるだけ楽な仕事がいいですね」
「そんなに大変な仕事じゃないさ、ちょっと転生して世界を救って欲しいだけだよ」
……とうとうイカれたのか?この神。
「相変わらず君の心の声は無礼だね」
「じゃあ心を読まなければ良いのでは無いですか?」
僕の舐め腐った発言にも特に気にした様子は見せずにニヤニヤと笑っているク◯神。本当に腹が立つが、そんなことは置いておいて。
「それで、転生ですか?一体どうして?」
「簡単な話だよ。ある世界の運営を任せていた一柱がミスをして、一つの世界の運命に亀裂が入ってしまった。その世界だけで話が済めばよかったのだけど、亀裂は思ったよりも深いようで、他の世界まで影響を及ぼしそうなんだ。」
「なるほど?こちらから干渉して修復することは出来そうに無いのですか?」
「そうなんだ。外部から亀裂を埋めてしまえば、どうしても運命の流れが滞ってしまうからね」
「そこで転生ですか」
なるほど、大まかな流れはわかった。とりあえずそのミスをした神には小一時間ほどお小言を垂れ流してやりたいところだけど、まぁ良いだろう。
よく考えてみれば、この話は案外悪く無いかもしれない。人間の人生の中で、世界を救うという最低限のタスクをこなすだけで長期間の休暇を手に入れることが出来るかもしれないのだ。
「その通り!その世界を救ってくれさえすれば、残りの人生は好きにしてもらって構わないよ」
「ですから心を読まないで頂けますか?」
「まぁまぁ、悪い話じゃあないでしょ?」
「その判断は詳しい話を聞いてからさせてください」
ク◯神によると、転生先は僕が生前いた世界に似ていて科学技術が発展している世界らしい。僕がいた世界と違う点は、僕がいた世界よりも技術が発達している点と、その世界の住人は、誰もが『異能』と呼ばれる特殊な能力を生まれ持つ点、そして『仮想体』と呼ばれる特殊な生物が存在する点だ。
うん、何度か仕事で関わったことのある世界だな。
僕が転生する先は、その世界の修正力が頑張って用意した英雄の種子で、世界本来の修正力に僕のエネルギーを上乗せすることで正しい運命の流れに戻そうということらしい。
「話はわかりましたが、僕だけのエネルギーで足りますか?僕はただの仕事で一杯一杯な天使ですよ?」
「そこは全く問題ないよ。君はあまり気にしていないようだから教えていなかったけど、君の体は更新を続けてきたことで『熾天使』、つまり天使の中では最高位の存在になっているからね」
「……初耳なんですが」
「言う必要性を感じていなかったからね」
「………まぁ、転生することに関しては了解しました」
まぁ実際聞いても、だからなんだと思ってしまった自分も居るし良いだろう。
しかし、僕の転生はあくまでエネルギー量の確保のためと言うのなら、僕が主体になって世界を救う必要はないんじゃないか?例えば、
「僕が守護霊のように、その英雄の種子に付くのではいけないのですか?」
「うん、悪くはないね。ただそれだと世界との繋がりが薄くなってしまって完全な修正はできなくなってしまうんだよね」
「…なるほど、ではこれではどうでしょうか?」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「なるほどね。それなら問題はないんじゃないかな?」
「そうですか、ならそのようにして頂きたいのですが」
よし、おそらくこれが一番働かなくて済む方法だろう。我ながらいいアイデアだ。
「よし、それじゃあ君の要望通りに転生させるよ?」
「今からですか?僕は問題無いですけど、仕事の引き継ぎなど全くしていませんよ?」
苦労するのは僕の後輩達だから正直どうでもいいっちゃいいけど、流石に可哀想だ。
「あぁ、そこら辺は僕の方から通達しておくから気にしないでいいよ」
「なら問題ないですね」
神の下僕ガチ勢の天使達だから、神から直接仕事を振られでもしたら喜び勇んで仕事に取り掛かることだろう。
「じゃあ、転生を始めようか」
ク◯神がそう言って僕に手をかざすと、僕の周囲から光が溢れ出し、その光で視界が埋め尽くされるのと同時に、睡眠が不要になっていた僕は約50億年ぶりに意識を失う感覚を味わうのだった。
前回に引き続き閲覧、ブックマークして頂けた方、誠にありがとうございます。
また、評価をつけて頂いた方も本当にありがとうございます。
そろそろ転生と言っていましたが、次の話はク○神視点の話を1話投稿したいと思っています。
その1話が終わればようやく転生スタートです。気長にお付き合い頂けると幸いです。