聞こえてくる声
眼前に迫っていたダガーを出しておいた大鎌で弾く。そうした時には既に黒装束の男は僕の間合いの内側まで入り込んでいた。
「ほっ…と」
がん、と黒装束のダガーと僕の大鎌がぶつかり合う。黒装束はあくまで余裕そうな態度を崩さない。ダガーと大鎌で打ち合っているとは思えない大きな衝撃が手に伝わってくる。
「くっ…」
「ふぅん、やっぱり子供にしてはやる方だけど…問題にはならないかな」
たった一回打ち合った程度で何がわかるんだ?とは口が裂けても言えない。僕が両手で必死にダガーを弾こうとしているのに、黒装束は片手でダガーを持って僕の大鎌を押し込んできている。これは、久しぶりに使わないといけないか?まだ制御がうまくいってないから、実戦でいきなり使いたくはなかったんだけど…。
使うとしてもタイミング次第だ。確実に有効打になるタイミングをなんとか作らないと、この黒装束ならすぐに対応されておしまいだろう。ひとまず現状打破。大鎌を回転させるようにしてダガーを逸らしながら黒装束を切り付けるが、黒装束は僕の大鎌をすり抜けるようにしてかわしてきた。
「…!」
「考え事をしている余裕はあるのかな?」
すり抜けると言っても実際に物理的にすり抜けたわけではなく、最小限の動作でかわした後に再度間合に侵入してきただけなのだけど。理合はともかく間合いを取るために大振り気味に大鎌を振るったのに、振り抜いた時には黒装束は既に僕の間合いの中に立っていて僕はこの場所で大鎌を振り回しながら黒装束の攻撃に対応することしかできなくなってしまう。
「そうだよね、君はそこから動けない。いや動くことは可能だけど、その場合君の後ろのお嬢さんは…」
「うる…っさい…!」
くそっ…!一々僕が嫌なことをピンポイントでやってくる人だな…!黒装束の言う通り、僕が黒装束の男と間合いを取るために後ろと左右に逃げることは許されていない。なぜなら…
「あ…あぁ…」
僕の後ろには、腰を抜かして呆然とするお嬢様がいるからだ。黒装束が僕とお嬢様を殺そうとしていて、お嬢様との間に戦える僕と言う障害がなくなって仕舞えば結末はわざわざ言葉にするまでもないだろう。
僕はなんとか黒装束を遠ざけようと体の周りで大鎌を回転させるが、黒装束はダガーで弾いたりステップで避けながら常に僕との間合いを一定に保ってくる。
ーとりあえず、使うしかないんじゃないの?
あぁ、わかってる。今の僕の力じゃあ殺されるのも時間の問題だ。だからこそ、ここで一気に打開する!
「〈過剰出力〉!」
「!!」
身体強化に異能を重ねがけして、渾身の力で大鎌を振り抜く。流石の黒装束も、僕の力がここから上がるのは予想外だったのか先ほどまでよりも大きく距離をとってくる。今度は先ほどまでとは逆で僕の方から一気に間合いを詰めにいく。
「なるほど…!これは流石に分が悪いかな?」
「だったら…!引いてっ…くれませんかね…っ!」
異能を使った身体強化なら流石に黒装束が片手で扱うダガーよりも力で勝るようで、黒装束が防御に使うダガーを弾きながら退がっていくのを追うように間合いを詰めていく。押しているのは僕のはずなのに全く優位に立てている感覚がない…が、少なくともこれで僕と黒装束がお嬢様からある程度離れたことになる。
「絶炎結界!」
お母さんの異能から借りた名前を叫べば、ごうっと僕の背後で青い炎が燃え上がる。その炎の壁は中庭を僕と黒装束のいる側と、動けないお嬢様のいる側とで分けるように熱く、厚く燃え上がる。黒装束は炎の壁を見て流石に驚いた様子で話し始める。
「…まさか、まだ上があるとは思わなかった。素直に驚いたよ、まさか君が身体強化以外もここまで使えるとは思わなかった」
「これでも、僕は体外の異能力操作の方が得意なんですよ」
「なるほど、ますます君はここで消しておいたほうがよさそうだね」
…最悪の中ではマシな状況かなぁ、これは。お嬢様を隔離できて僕は黒装束に集中できるけど、黒装束も僕を殺すことに全神経を集中させることができる。
正直分断できたのも運任せな方法だった。黒装束がまだ僕を甘く見てくれていることに賭けた方法、つまり黒装束に本気で警戒されていたら通用しなかった訳だ。僕の異能を使った戦力と、僕が身体強化以外を実戦レベルで使えないものだと思い込んでくれたからこそ分断に成功したということだ。
ーうしろ
「…っ!」
「おや?、防がれるとは思わなかったな」
がきん、と首の薄皮一枚まで到達していたダガーをなんとか弾き返す。危なかった…!分断できたことに安心して気が緩んだ一瞬を突かれた…!それにしてもさっきの動き、気が緩んでいたとは言えども全く目で追えなかった。あれで常に命を狙われたら数秒ももたないかもしれない…。
ーやっぱり、ここらへんが限界か
「…え?」
ここでようやくさっきから聞こえていた声に意識が向いた。…が、僕が困惑して隙を晒した瞬間を黒装束が見逃すはずもなく、目の前から黒装束の姿が消える。まずい…!と思い後ろを振り向くが既に遅く、一色の黒とその中に鈍く光る刃物を見たのを最後に、僕の意識は消えていった。
初の対人戦闘、意識を失った葵くんちゃんはどうなっちゃうの!?次回、葵…。〇〇〇〇スタンバイ!
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…




