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熾天使さんは傍観者  作者: 位名月
戦闘狂の誕生
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会食と異変

今回から葵の視点です。

 はっと意識が現実に戻ってくる。自分のあげた情けない声と叩かれた頭の痛みに混乱していると、呆れた顔の師匠がこちらを覗き込んでいる。


 「おい、仕事の時間だ。いい加減戻ってこい」


 「あー、えっともう会食の時間ですか?」


 回らない頭でなんとか捻り出した僕の言葉に、師匠はため息をつきながらも答えてくれる。


 「あぁそうだ。自分探しなら仕事が終わってからやれ?」


 「はい師匠…」


 我ながら情けない返事をしたものだけど、師匠はとりあえずよしと判断してか護衛対象のいる部屋に向かって歩き出した。僕もまだ思考がはっきりしていない感覚があるけど、師匠の後に続いて歩き始める。


 しっかし、まさか僕の家が暁で二番目ぐらいの名家とはなぁ…。我ながらよく気が付かなかったものだ。…だめだだめだ、仕事に集中しないと。気持ちを切り替えるためにも両頬を張ると、ジンジンと顔が熱を帯びる。


 「よしっやるぞ!」


 「…」


 何やら師匠に奇妙なものを見るような目で見られたけど気にしない。僕が自分で張った頬の赤みも、一条家の方々の部屋に着く頃には引いていた。細かいところだけど、治癒力の高い体に産んでくれたお父さんとお母さんに感謝だ。そんなことを考えているうちに、師匠は僕らの護衛対象の部屋の扉の前に立ってノックをしていた。


 「皆様、会食のお時間です」


 …相変わらずかしこまってる師匠は気持ち悪いな。そんな感想が伝わったのか、師匠がこちらににっこりと笑いかけてくる。ナンデモナイデス。僕が必死に首を振っても師匠の笑みは消えず、なんなら額に青筋が浮かんできたあたりで僕に救いの手が差し伸べられる。


 「お待たせしたね、会食中も頼むよ」


 「いえ、それでは行きましょうか」


 開いた扉から出てきたのは、相変わらず爽やかな笑みの一条家当主の道也様だ。そういえばこの人は僕の苗字や会場で会ったおじいちゃんの反応で気づいていたんだろうか?まぁ気づいていたところで何かあるわけでもないか。


 「みなさんお待たせ致しました、会食中もよろしくお願いします」


 「よろしくお願いします」


 道也様に続いて奥様の真由子様と御息女の由奈様も出てくる。3人とも式典中から服装が上品で高価そうで、華やかなものに変わっている。確か事前に見た資料にも、式典後の会食はちょっとした交流会ぐらいのものだと書いてあったから別に死者を悼んで落ち着いた格好をする必要もないんだろう。


 そんなことを考えていると、お嬢様が僕の方にこそこそと近づいてくる。


 「あの…葵さん、私何かおかしなところはないですか?」


 お嬢様はそう小声で言いながら僕に着替えた衣装を見せつけてくる。…おかしなところ?こういう衣装を見ても可愛くてよく似合ってることぐらいしかわからないんだけど…。


 「特におかしなところはないと思いますけど…大変よくお似合いですよ?」


 「そ、そうですか…なら良いんです!」


 衣装のことはよくわからないから素直に思ったことを言うと、お嬢様は顔を赤らめてそそくさと奥様の元に隠れるように戻っていく。…何か失礼なことしちゃったかな?


 「葵…お前、将来背中に気をつけろよ?」


 「…?なんですか師匠、そんな一昔前の恋愛小説みたいなセリフ使って」


 「いや、無駄な知識ってこういうのの事をいうんだろうなと思ってな」


 「はぁ、そうですか」


 移動する一条家の3人の視界の外でこそこそと話しかけてきてよくわからないことを言ってくる師匠に対応しながら周囲を警戒しておく。…まぁ、こんな最先端の設備がいっぱいのホテルをわざわざ襲いにくる犯罪者なんてそうそういないだろうけど。


 そんなことを考えていると、会食の会場に到着していた。護衛や使用人が扉を開けるというイメージが小説でついていたけど、最近のテクノロジーではそんなこともないらしく勝手に扉は開いていく。


 やっぱり小説は創作物なんだなぁとか思いながら一条家の方々の後に続くように師匠と会場に入って行く。会食の会場にはすでにそこそこの人が居た。会食に招かれている人はみんな追悼式典で貴賓席に居た人たちだった。…祖父も含めて。


 「ゴ自由二ドウゾ〜」


 一条家の方達は近寄ってきた配膳ロボットから飲み物を受け取りながら会場の中心に向かって歩いて行く。すると、一条家の方々に気付いた人達が打ち合わせをしていたかのように次々と挨拶に流れ込んできた。


 「〇〇さん、お久しぶりです…」


 「一条様、先日はお世話に…」


 道也様に挨拶しにきた人達は、列を作っているわけでもないのに挨拶が終わった瞬間次の人が来て、その人が終わったら次の人が来て…を延々と繰り返していった。


 すごいなぁ…もしかして道也様、ここにいる人の顔と名前を全部覚えてるのか?僕も一応式典の時から3人の近くにいた人と、よく視線を向けてきた人の顔は覚えて置いているけど…やっぱり暁一の名家の当主はすごいんだなぁ。なんてことを考えながら周囲の警戒と挨拶に来る人を記憶していると、お嬢様が小さい声で話しかけてくる。


 「あの…葵さん」


 「どうされましたか?」


 挨拶に来る人の対応は主に道也様がしていて、奥様とお嬢様はたまに話を振られた時に返事をしたりする程度だったから暇になってしまったんだろうか?


 「えっと、その…」


 お嬢様は何かを言い淀むようにしてもじもじとしている。…もしかして、アレかな?


 「(あの、師匠)」


 「(ん?どうした)」


 「(お嬢様が…)」


 僕のその短い言葉とお嬢様の様子で師匠は察してくれたらしい。道也様の会話の様子を確認して、まだしばらくかかりそうだと判断したのか僕に小さく耳打ちしてくる。


 「(入ってきた扉を出てすぐ右だ。お前がついていけ)」


 「(ハイ、ありがとうございます)」


 僕だけで師匠の所を離れるのはどうかと思ったけど、まぁ少しだけだし大丈夫だろう。善は急げとお嬢様に案内しながら会場から離れる。師匠が言っていた通り入ってきた扉を出て右に曲がれば、男性と女性のシルエットが表示されたあの部屋があった。


 「お嬢様、では私は少しここで資料の確認をしますので」


 「っ!ありがとうございます…」


 僕が視線を外してそう言うと、お嬢様は足早にその部屋に入っていった。…よかった合ってた。間違えてたらとんだ恥をかかせちゃう所だからな。


 「さて、ちょっと資料でも見直して…ん?」


 僕が資料を表示させようかと思ったところで、異様な光景が目に入る。先ほど僕達が出てきた扉に向かって、明らかに武装した集団が隊列をなして近づいていた。こちらには気づいていない様子だったのでとりあえず物陰に隠れて師匠に通信をかける。


 「〈どうした葵、何か…〉」


 師匠のその声をかき消すように勢いよく扉が開かれ、通話越しと肉声で男の大声が重複して聞こえてくる。


 「「〈お前ら動くな!!!今から少しでも余計な動きをした奴がいたら撃つぞ!!!〉」」


 …こんなことって本当にあるんだなぁ、と僕は場違いにもそんな呑気な感想を抱いていたのだった。


テンプレ(?)鈍感主人公くん視点ですよ〜


閲覧、ブックマーク、評価やいいねして頂けた方、誠にありがとうございます。

感想も励みになっています。誤字報告も助かります。


作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…

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[一言] 毎日新しい章を提供してくれてありがとう
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