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熾天使さんは傍観者  作者: 位名月
戦闘狂の誕生
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出立の日

 『大丈夫?忘れ物はないわよね?』


 『うん、ちゃんと全部持ってるよ』


 家の玄関先で心配を隠せない様子の母が、葵に何度目かわからない確認をしてくる。葵はキャリーケースを持って準備万端の様子で母に答える。


 『それじゃあお母さん、行ってくるね』


 『…うん、気をつけて行ってらっしゃい!』


 今日は師匠の仕事についていく当日だ。今日に向けて何度も確認をしながら準備してきており、既にすぐ近くで待っている片桐さんと合流すれば良いだけの状態になっている。


 そうして母に見送られて家のそばにある駐車場へ向かう。そこにはいつも師匠の屋敷と自宅を送り迎えしてくれている片桐さんが待っていた。


 『おはようございます、葵様』


 『片桐さん!おはようございます、今日からよろしくお願いします』


 挨拶をした片桐さんは、そっと葵の荷物を受け取って車に詰め込む。


 『あっ…すいません、ありがとうございます!』


 『いえ、仕事ですので』


 いつも通り表面上は事務的な片桐さんと言葉を交わしながら車に乗り込む。片桐さんは今回の仕事にも同行してくれることになっている。


 『それでは、まず準備のために一度屋敷へ行って守宮様と合流しましょう』


 『はい、よろしくお願いします!』


 そうして車は師匠の屋敷に向かって動き始める。自動運転の車の中でも相変わらず片桐さんは無口に運転席に座っている。しかしその様子をしっかりと見れば、車の走行状況と同じぐらい葵の様子を細かく確認していて、葵に飲み物を出したりしてくれる。


 『葵様は朝食はもう済んでおられますか?』


 『はい、しっかり食べてきました!』


 葵の返答を聞いて、片桐さんは収納に伸ばしかけていた手をハンドルに戻す。…ちなみに収納の中は冷蔵庫になっていて、軽食が保存されていた。飲み物を出したのもここからだった。


 『…そうですか、何かございましたら申し付け下さい』


 『はい、ありがとうございます』


 そうして快適な移動時間を過ごしていると、あっという間に師匠の屋敷に到着する。車から降りて荷物を下ろし、屋敷に入ると師匠が待っていた。


 『おう葵!体調は大丈夫か?』


 『師匠!おはようございます、昨日しっかり寝たのでバッチリです!』


 『そうか!ひとまず仕事着に着替えてもらわねぇとな、ついてこい』


 師匠はそう言って屋敷の中に向かって歩き出す。ある一室へ連れて行かれ、中に入ると衣装棚が並んでいて、そこに葵にちょうど合うぐらいのサイズの服が置かれていた。


 『それがお前の今日からの仕事着だ、さっさと着替えちまえ』


 『わかりました』


 部屋に置かれた服を広げれば、スーツの中ではラフな感じのある程度のドレスコードを守りつつ動きやすさも確保された服だった。


 葵は今まであまり来てこなかったタイプの服に若干苦戦しながらスーツのようなものを見に纏う。中性的で髪の長い葵が着ることで、いつもの可愛らしさよりも綺麗という印象が際立っていた。


 『これで…大丈夫かな?よし』


 『どうだ!着替えたか!?』


 スパーンと扉が開かれて師匠が入ってくる。ズカズカと入ってきた師匠は、着替え終わった葵を頭からつま先まで眺めて満足そうに頷く。


 『おう!バッチリ決まってんじゃねぇか!』


 『…そうですか?ありがとうございます』


 『えぇ、よくお似合いですよ』


 師匠のそばに控えていた片桐さんも葵を見て珍しくその表情を和らげている。…本当にじっくり見ないとわからないレベルでだが。


 『さて片桐、もう荷物はオレの車に積んであるか?』


 『はい、葵様の荷物も含めて積んであります』


 『うし!そんじゃ行くか!』


 そうして屋敷の車庫へ向かえば、いつの間にか先ほどまで片桐さんが向かえに来てくれた車から師匠のオフロードでも乗り回せそうな車に荷物が載せ替えてあった。車に乗り込み、師匠がハンドルを握って車は動き出す。


 『死にたくなきゃシートベルトはしとけよ〜?』


 『安全運転でお願いしますよ、師匠』


 転生後の世界では珍しく、師匠の車は自動運転ではなく手動の操作でしか動かないタイプらしい。師匠の話では、色々とそっちの方が便利だかららしい。


 『さて、そんじゃ移動しながら詳しい仕事の説明をしとくか。片桐』


 『はい。葵様、こちらをどうぞ』


 意外と丁寧な運転で道を進む車の中で、片桐さんから資料が送られてくる。資料には地図や建物の写真、何人かの顔と名前が記載されている。


 『まず、今回の任務は護衛任務だ。護衛対象は一条家当主とその妻、そしてその娘だ』


 葵は師匠の言葉を聞いて、資料にある3人の名前と顔写真を頭に入れ込む。


 『なるほど…護衛って何をすれば良いんですか?』


 『基本的には、ある程度距離を保ちながら近くで黙っていりゃあ良い。常に周囲は警戒しとかなきゃいけねぇけどな?』


 師匠の話に相槌を打ちながら資料を読み進めていけば、式典会場のような写真と図面が出てくる。葵がそれに気づいたあたりで隣の片桐さんが説明を始める。


 『そちらにあるのが、今回一条家の方々が参加される式典の会場です。流れとしては一条家の館に向かい、一条家の方々と合流した後は式典期間全てを護衛します』


 『一条家の護衛と協力しながらやってく仕事ってことだ。まぁお前は基本オレについてりゃ良い』


 『…なるほど、わかりました』


 資料には移動経路や式典のタイムスケジュールが緻密に記載されていて、葵は一通り全ての資料に目を通して記憶する。そうして読み終えたあたりで、葵は思い出したように師匠と片桐さんに質問を投げかける。


 『そういえばなんですけど、対仮想で僕の検査をしてくれてる先生が一条先生って言うんですけど、もしかして…』


 『あぁ…あの人は現当主の妹さんだな。基本的に研究ばっかで家とはほぼ関わってないらしいぜ?』


 『へぇ〜…一条先生ってすごい家の人だったんですねぇ…』


 意外なところであのウザ天才の素性が明かされつつ、たまに休憩を挟みながら移動していると…


 『おっ、見えてきたぞ』


 そう言って師匠が指差した先を見れば、師匠の屋敷の2倍以上はあるんじゃないかという大きさの館が見えてきた。


 『…おっきいですね』


 『そりゃそうだ、暁で一番の名家の家なんだからな』


 師匠の言葉を聞いて、葵は近づいて来るにつれてその大きさを改めて感じる屋敷に今更ながら緊張感を覚え出すのだった。


男女共に葵くんちゃんに視線を奪われちゃいますよ


閲覧、ブックマーク、評価やいいねして頂けた方、誠にありがとうございます。

感想も励みになっています。誤字報告も助かります。


作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…

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