師匠との出会い
遅くなりましたが更新です
葵は今、父と共に大きな和風建築の屋敷の入り口に立っていた。屋敷の周辺には多くの護衛の姿が見える。父は門の前に控える武装をした人に声をかける。
『すまない、守宮様と会う約束があるんだが』
『はッ!双葉様でよろしいですね?守宮様は中でお待ちです!』
そう言って父に敬礼をした門番の方は、号令を出して門を開く。門が開いた先にあったのは、典型的な和風の平屋の屋敷だった。そういえば、転生してからこういう和風建築を一回も見ていなかった。まぁ建築技術も発展して文化を残すという面以外での和風建築はなくなって行ったんだろう。
中に入って玄関で靴を脱ぐと、使用人らしき女性が『こちらです』と先導して歩いて行く。使用人の女性について歩いている途中も、よく手入れされた中庭や高そうな家具が視界に入り、葵も少し緊張した様子で父の後ろをついて歩いていた。
使用人の女性に連れられるうちに母屋を抜け、長い屋外の廊下を通って修練場のような建物が見えてくる。
『守宮様は鍛錬中ですので、お静かにお願いいたします』
使用人の女性はそう言って頭を下げ、そっと修練場の入り口の脇にはける。
入り口を前にして父は一度大きく息を吐き、扉に手をかける。大きな扉を開いて中にはいると、中では一人の美しい女性が舞っていた。
『…きれい』
その女性は、容姿だけではなく動作の一つ一つも美しかった。よく見れば女性は舞を踊っていたのではなく、その手に大鎌を持ってそこにはいない敵と戦っていた。その動作があまりにも洗練されていて、美しかったために舞っているように見えていたのだ。
数秒の間女性の無機質で緻密な動きに見惚れていると、女性が見えない敵の首を切り落として一息吐き、こちらへ向き直る。
こちらに気がついた瞬間、先ほどまでのゾッとするほど無機質な表情は消え去り、快活な笑顔を見せながらこちらへ駆け寄ってくる。
『おう康太!久しぶりじゃねぇか!とりあえず手合わせしようぜ!!』
その女性はそう言いながら豪快に父の背中をバンバンと叩く。父はされるがままに背中を叩かれなが苦い表情をして答える。
『出会い頭に勝負をふっかけてこないでください、守宮様…』
『ツレねぇ事言うんじゃネェよ!一度は命を預けて共に戦った仲じゃねぇか!』
そうして父に武器を取るように薦めていた女性だが、少しすれば父の隣で恐る恐る女性を見つめる葵に気付く。
『ん…?おい康太、こいつが話にあったガキか?』
女性は大股を開いて屈みながら葵と視線を合わせる。父は、勢いの強い女性に若干驚いている葵を前に出すようにする。
『紹介します、息子の葵です』
『双葉葵です!よろしくおねがいします!』
葵も女性の勢いに負けないようにと思ったのか、いつもより気持ち大きな声で挨拶をする。女性もそんな葵を見てニカっと笑って、ここ数年で伸びた葵の美しい髪をぐしゃぐしゃに乱しながら名乗る。
『おう!オレは守宮蓮香だ!』
自己紹介を終えたところで、父が葵に自分から指導を頼むように促す。父に守宮さんの前に押し出された葵は、初め躊躇う様子を見せたが覚悟を決めて口を開く。
『…守宮さま!僕を強くしてください!』
葵の言葉を聞いた守宮さんは、その顔から笑みを消して真剣な表情で葵と向き合う。
『強く…か。葵、お前どうして強くなりてぇんだ?』
『大事な人を守れるようになりたいからです!』
威圧感すら感じる彼女のその問いかけに、葵は迷うそぶりも見せずに答える。守宮さんは、真っ向から答えた葵の頭をまたぐしゃぐしゃに乱して立ち上がる。
『うっし、そんじゃ一回手合わせすっか!葵を強くしてやるかはそっから決める!』
守宮さんはそう言って先ほどまで振るっていた大鎌を手に取って修練場の中央まで歩いて行く。成り行きを見守っていた父は、やはりこうなったかと言わんばかりの表情でため息を吐く。
『武器はあんのか?ねぇなら貸してやるけど』
『大丈夫です!』
守宮さんの言葉に短く返した葵は、その手につけていたブレスレットに異能力を流し込んで使い慣れた大鎌を出現させる。大鎌を構えた葵を見て、ピクリと眉を動かす。そして不敵な笑みを見せて口を開く。
『よし、そんじゃオレはここから一歩も動かねぇし気も使わねぇから好きにかかってこい!』
そう言った守宮さんに、葵だけでなく父も驚いた表情を見せる。かなりのハンデを自分から提案した守宮さんは、不敵な笑みのまま葵を手招きして挑発する。
『…じゃあ、いきます!』
葵はチラリと父の表情を窺ってから、諦めた表情の父を見て覚悟を決める。全身に異能力を巡らせて身体能力を強化すると、余裕の表情の守宮さんに向かって弾けるような勢いで飛び出す。
『…ほぉん』
守宮さんの間合いまであと三歩というところで、そこそこのスピードで走っている葵と守宮先生の目がバッチリと合う。完全に動きを追われていることを悟った葵は、次の一歩でこれ以上間合いを詰めずに背後を取るように進路をずらす。
『…ふっ!』
守宮さんが武器を持っていない側に回り込み、視界から外れた瞬間に踏み込んで飛び掛かり、下から切り上げるように大鎌を振るう葵。完全に視覚外からの攻撃に対して、守宮さんは顔も向けずに迎え入れる。…が、
『ダメだな』
そう短く言葉を発すると、葵に目は向けないまま手元の大鎌を回転させるようにして石突で葵の大鎌の刃を打ち下ろし、すぐに大きな刃が葵の首に迫ってくる。数瞬後、ガァン!と鈍い音が修練場に響き渡る。
『…ありゃ、ちょっとやりすぎた…ん?』
守宮さんが訝しげな表情で自分が大鎌を振り抜いた先を見ると、先ほどの衝撃で吹き飛ばされたはずの葵の姿がどこにもない。ハッする守宮さんの首元に、子供用サイズの大鎌が迫る。
『うおっと!』
『…!』
葵の大鎌の風圧を感じて勢いよく屈み、なんとか攻撃を避ける守宮さん。そうして攻撃が来た方向を見れば、葵が大鎌を振り抜いた姿勢で頭上から落下してくるところだった。
葵は、初めから初撃は防がれる前提で攻撃しており、弾かれた勢いのまま回転させた大鎌で守宮さんの攻撃を防いでいた。そしてそれだけではなく、防ぐ際に守宮さんの力を利用して自分の体を上に弾き上げていた。
『ほっ』
『うぐぅ…!』
守宮さんは、落下してくる葵の首元を掴んで猫のように持って葵と目を合わせる。完全にされるがままになった葵は、諦めたように息を吐き大鎌を消滅させる。
『参りました…』
『おう!オレの勝ちだな!』
勝負が決まり、守宮さんに下ろしてもらった葵は落ち込んだ様子で守宮さんに頭を下げる。
『守宮さま、ありがとうございました…』
手合わせに敗れ、守宮さんに教えてもらえないと思った葵を守宮さんは豪快に笑い飛ばす。
『ハハハ!そんなに落ち込むな!これからオレが教えれば、お前はもっと強くなれんだからな!』
『…え?』
『今から葵はオレの弟子だ。オレのことは師匠と呼んでもいいぜ!』
落ち込んで俯いていた葵の頭に手を置きながらそう言って笑う守宮さんに、葵は笑顔を溢れさせる。
『本当ですか!』
『あぁ、オレが時間のある時ならいつでも見てやっからいつでも来いよ!』
『あ、ありがとうございます!』
こうして、若干複雑な表情の父をおいて葵と守宮さんは師弟関係を結んだのだった。
師匠ができました。
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…




