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熾天使さんは傍観者  作者: 位名月
英雄の誕生
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新たな出会いの予感

 父との訓練から数年が経ち、葵も5歳になった。あれから葵は、異能力の訓練と武器の訓練をつづけていた。初めのうちは切れなかったダミーも一振りで両断できるようになり、異能力の扱いも感覚を掴み、自分の異能力を体の一部のように使うことができるようになっていた。


 『踏み込みが甘いっ!』


 『はいっ!』


 父との訓練も、素振りだけではなく試合を行うようになっていた。葵は幼いながら、異能力を使わずに身体能力だけで戦う父に対して、異能力と天性の戦闘のセンスで稀に一本を取れるようになっていた。


 『どうした、もっと打ち込んできなさい!』


 『はぁあああ!』


 訓練によってつけた筋肉と異能力で身体能力を補うことで、なんとか父と戦うことができるようにしていた。葵の圧倒的な異能力量によって、大幅な戦闘力の増強に成功したのだ。


 『足元の強化が甘いぞ!』


 とはいえまだ5歳児の体では、たとえ異能力で強化しても父と完全に互角とはいえない。間合いも圧倒的に父の方が広く、父はこうして戦っている間にも葵の強化の甘い部分などを攻め立ててくる。しかし…


 『…っ!』


 一見空振りする間合いから大鎌を振った葵は、大鎌を握った手から異能力を大鎌に流し込み、大鎌の柄を延長することで一気に間合いを伸ばして父の意識の外から切り付ける。


 『ぐっ…!』


 ただでさえ変則的な動作の大鎌に加え、葵の工夫によってさらに先読みのしづらい攻撃に、流石の父も不意を突かれて苦しい表情をするも、なんとか防御を間に合わせる。


 『やぁっ!!』


 『甘いっ!』


 葵は畳み掛けるように大鎌を回転させるようにして、石突で父のガードの反対を突こうとする。しかし素早く反応した父に大鎌の柄を巻き上げられ、葵は武器から手を離してしまい、大鎌は宙を舞う。


 武器を失い呆然とする葵の首元に、大剣がゆっくりと添えられる。


 『…まいりました』


 『よし、今日はここまでにするか』


 降参した葵の首元に添えられていた大剣を下ろし、父は訓練の終わりを告げる。


 『はぁっ…はぁっ…もうちょっとだったんだけどな…』


 『ふぅ…さっきのはいい工夫だったぞ。不意を突けなくても、相手を惑わせて有利に戦うことができるはずだ』


 肩を上下させながら座り込む葵に対して、少し息を整えただけでアドバイスをする余裕もある父に対して、葵は悔しそうな顔を見せる。


 『そんな顔をするな、葵は順調に強くなっている。そんなに焦らなくても良い』


 『…だって、僕もうすぐお兄ちゃんになるんだもん。弟を守れるようにもっと強くなるんだ…!』


 …そう、葵がここまで訓練に精を出すのは、ただ強くなるためではなかった。葵にはもうすぐ弟ができるのだ。


 両親から弟が生まれると聞き、お兄ちゃんとして弟を守ってあげてと言われた葵は、元々素晴らしい才能でかなりのスピードで成長していたところをさらに加速させていた。


 『…そうか。だが、無理だけはしてはいけないぞ。自分自身も守れるようにな?』


 『…うん!』


 焦った様子の葵に、父は頭を撫でながら優しい表情で言葉をかける。父の言葉にしっかりと頷く葵だが、その表情からはまだ少し焦りが抜けない。そんな葵の様子を察してか、父が考えるようなそぶりをしながら口を開く。


 『葵、お父さんの知り合いに大鎌使いがいるんだが、その人に教えてもらえるように頼んでみるか?』


 葵は、一瞬ぽかんとした表情を見せてゆっくりと父の言葉の意味を理解すると、嬉しそうな表情で大きく頷く。


 『ほんと!?いつから教えてくれるの!?』


 『落ち着け…!頼んでみるだけだから、あまり期待はしないでくれ。…あまりあの方は得意ではないんだがな』


 興奮している葵を(なだ)めながら、困ったように頭をかきながらナノマシンを操作してどこかへ連絡をかける。


 『…もしもし、お久しぶりです。双葉康太です。…いえ、違います。…いえ、今日は仕事の連絡ではなくてですね。………』


 それから、父はしばらく苦い顔をしながら誰かと通話していた。そうして苦い表情の父を見守っていると、だんだんと話が片付いてきたようだった。


 『…はい、では三日後に…はい、…はい。ありがとうございます…失礼します。』


 通話を切り上げた父は、なんなら葵との訓練よりも疲れた表情で葵に向き直る。


 『…葵、三日後に少し遠くへ行くぞ』


 『教えてもらえるの!?』


 『…まだわからない。葵を見てから決めるそうだ』


 父の話では、その人はなかなか気難しい人らしい。仕事で関わりのある人で、大鎌の扱いに関しては父の知る中で一番だが、父の知る中で一番関わりたくない人でもあるらしい。


 葵に大鎌の扱いを教えるか、葵を見てから決めたいとのことで三日後にその人の元へ向かうことになった。そうして葵のテンションが上がったままその日の訓練は終了して、父と車で家へ帰る。


 家の玄関を開けると、リビングの方から母が出てくる。ゆっくりとした足取りで歩いてくる母のお腹は、ぽっこりと膨らんでいた。


 『お帰りなさい、あなた、葵』


 『優華!出迎えは良いから安静にしていてくれ…』


 心配する父に、母は『これぐらいなら大丈夫よ』と朗らかに笑う。そんな母の足元には、蒼が寄り添っていた。母のお腹が膨らんできた頃、葵は蒼にお母さんを守るようにと伝えた。それ以来蒼は、葵が母の元を離れる時は母について回るようになっていた。


 『お母さんただいま!蒼もちゃんとお母さんを守ってた?』


 『グルゥ』


 葵は当然だと言わんばかりに鳴く蒼を撫で回す。そんな葵たちを、両親は優しい表情で見守っていた。


 …そうして幼稚園へ行ったり訓練をしたり本を読んだりして、あっという間に三日後の大鎌の扱いを教えてくれるかもしれない人のところへ行く日が来た。


順調に成長していく葵君ちゃん。ちなみに最近髪を伸ばしているみたいです。


閲覧、ブックマーク、評価やいいねして頂けた方、誠にありがとうございます。

感想も励みになっています。誤字報告も助かります。


作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…

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