入園祝いと検査結果
ニヤニヤとした笑みを貼り付けながらこちらを見てくる一条先生からラッピングされた箱を受け取る。確認しようと思えば開けずとも中身を確認できるけど、わざわざ用意してもらった手前一応しないでおく。
「わざわざすみません、ありがとうございます」
「いいんだヨ〜。サ、開けて開けて?」
一条先生の視線を感じながらラッピングを解いて箱を開けていく。そうして箱を開けると、
「…なんですか?これ」
中には半透明のおそらく樹脂で出来たカードが入っていた。とりあえず表裏を確認してみても特に何も書かれておらず、このカードがなんなのか目視では確認できない。
「それはネ、セラスクンの身分証みたいな物だヨ」
「…それ、必要ですか?」
身分証と言われても、そんなものが必要になるほど動き回るつもりもないし、最悪僕なら無くてもなんとでもなるんだけど…。必要か聞いた僕に、一条先生は笑いながら答える。
「保険だヨ、保険。セラスクンならそんなもの無くてもなんとでもなるだろうけど、何かあった時はソレがあった方が楽だと思うヨ?」
「…そうですか。なら貰っておきます、ありがとうございます」
「ウン、貰っておいテ〜。ある程度の権限も付与してあるかラ、困ったら出してみるといいヨ〜」
そう言って笑う一条先生。とりあえずこれを持ったまま葵に変わるわけには行かないので、僕の空間へ繋がる穴を一瞬開けてそこに放り込む。
「ありがとうございました。それでは葵に戻りますので」
「いえいえ〜、というかさっきの何かナ?ねぇ詳しく聞きたいんだけド?」
詰め寄ってくる一条先生を無視して精神交換で葵に変わる。現実では眠った葵と肩を落とす一条先生だけが取り残された。
「さて、一応ちゃんと確認しておくか」
精神空間に放り込んでいた一条先生のプレゼントを拾い上げ、天使の輪でカードの中の回路に入っている情報を拾い上げる。
◇Serasu Hutaba
性別:Female
生年月日:10221/5/18
付与権限:制限なし
異能:『---』
回路品質:-
異能力量:-
属性:無
身分証のようなものと言われて渡されたカードに入っていた情報は、剣と魔法の世界で言うステータスプレートのようなものだった。…が、あまりにも大雑把じゃないか?
名前と生年月日はまぁいい。性別も…まぁ肉体はそうなんだからいいだろう。ただ異能に関する項目適当すぎないか?ほぼ情報ないじゃないか。しかも付与権限も制限なしって…ある程度の権限って話は一体なんだったんだ?
…まぁいいか。何かに使えそうなタイミングが来たらありがたく使わせてもらおう。
プレゼントの確認が済んで葵の方がどうなっているか確認すると、一条先生が眠った葵を連れて検査をやり直していた。さっきの検査では僕が出ていたから、僕の情報しか確認できなかったみたいだ。
手早く葵の分の検査を済ませた一条先生は、葵を起こして父と蒼が待つ部屋へ戻っていく。
『お待たせしたネ、これで検査は終了だヨ』
『ありがとうございます。結果はどうでしたか?』
父の言葉に一条先生は、以前のようにナノマシンで検査結果を表示させる。葵も蒼も、前回の検査の段階で既に平均値を上回っていたのに、今回はさらに前回よりも上昇している。
『葵クンも蒼クンも特に問題は無かったヨ』
『そうですか…良かったです』
父は一条先生の言葉に安心して息をつく。一条先生はさらに細かいデータを表示させながら詳しく説明していく。
『葵クンの数値が伸びてるのは、単純に子供だから伸びやすいんダ。これからもどんどん伸びていって、普通は成人までに今の3倍ぐらいの数値にはなるヨ』
『まぁあくまで身体機能だから、伸ばそうと思って鍛えればもっと伸びるだろうし、そこは個人差だネ』
ほ〜。今更だけど、天使になってから体を更新されることはあっても成長ってものをしてこなかったから新鮮だな。もしかして僕も成長するのかな?
『蒼クンについてだけど、今数値が伸びてるのは、葵クンが相性の良い異能力を上げ続けているおかげだろうネ』
『なるほど…上限はあるんですか?』
『あぁ、それについてはここを見てほしいんだけどネ?』
そう言いながら、一条先生は空中の半透明のディスプレイを操作してとあるデータをピックアップする。表示されたデータは、蒼の仮想体としての安定性だった。
『これは…安定性が下がっている?』
前回のデータも比較で表示されるが、前回は平均値を上回っていた安定性が明らかに平均値を下回っていた。不安そうな表情をしながら蒼に視線を向ける父に、一条先生は安心させるように笑いかける。
『そうなんダ。でも心配しなくてもいいヨ。こういうケースに限っては悪いことじゃないんだよネ』
『…そうなんですか?』
『ウン、仮想体と最前線で戦っている康太クンなら進化については知っているよネ?今の蒼クンは、元のカタチよりも大きい力を溜め込んでしまっているから、器自体が力に合わせて進化しようとしているんダ』
一条先生は、進化に向けて現在の形から離れようとした結果で不安定になっているだけで、いずれ落ち着くものだと説明した。それを知って安心した父を見て一条先生はまとめて言う。
『まぁ、葵クンも蒼クンも成長しているだけで全く問題ないヨ。これで検査はおしまいだヨ!』
『一条先生、今日はありがとうございました』
一条先生に頭を下げて退出しようとする葵達に、一条先生から声がかかる。
『ちょっと待っテ、この後って葵くんと訓練するんだよネ?』
『えぇ、訓練というほどのものでもないですが』
『それならちょうど良いものがあるんダ。これを葵クンに使ってみて欲しいんだよネ』
そう言って一条先生が取り出したのは、おそらく葵用と父用の大小二つのブレスレットだった。
『これは…ブレスレットですか?』
『フッフッフッ…詳しい説明は訓練室でしようか…』
そう言って怪しく笑う一条先生に、父は不安そうな表情を見せる。…多分、これが葵への入園祝いなんだろうけど、なんなんだろう…?
天界基準でもほぼ最上位の性能のセラスくんちゃんを一つの世界の基準如きで測れるわけが無かった。
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…




