父とのお出かけ
父と対仮想に向かう予定の当日を迎え、葵は朝から浮き足立っていた。葵はそわそわと落ち着かない様子で両親のそばをついて周り、いつ行くのか、何を準備すればいいのか、と時間があれば聞いてまわっていた。
『ふふふっ、葵ったら待ちきれないみたいですよ?』
『…そうだな』
そんな葵を見て、両親もなんだか嬉しそうにしている。葵が両親を質問攻めしている時に分かったのだけど、今日は母はお留守番らしい。葵が知った時に一瞬テンションが下がって父の表情が曇った時は、正直少し面白かった。
『そろそろ行ってくる』
昼食を食べ終えて、浮き足だった葵と母が一緒に準備していたものを確認していた父がそう言うと、葵が嬉しそうな表情で駆け寄っていく。
『いくの?!』
『ああ、荷物はしっかり持ったか?』
『うん!』
父は、リュックを背負って嬉しそうに頷く葵の頭を撫でて自分も荷物を持つ。玄関まで母がついてきて見送ってくれる。
『夕飯までには帰る。それまで、たまにはゆっくり休んでくれ』
『ええ、そうさせてもらいますね』
そうして両親がやりとりしている間に、母の足の横を通ってしれっと蒼がついてくる。葵も嬉しそうに蒼を撫でまわす。
『葵、蒼、あなた、気をつけていってらっしゃい』
『いってきます!』『いってくる』『グゥ』
母に見送られて家を出て、自動操縦の車に揺られて対仮想へ向かう。車内でも葵は落ちつかない様子で、父も話はしないでも葵を見て嬉しそうにしている。
以前は転移で行ったから見なかった道を葵は車の窓に張り付いてから眺めながら進んで行き、やがて以前も見た大きなビルが見えてくる。
従業員用の駐車場に車を停めて前回同様に受付へ向かう。受付で前回検査をした2階へ行くように言われてエレベーターに乗り込む。
『検査が終わったら一緒に訓練室で運動するぞ』
『うん!』
父と少し話していると、2階に到着したエレベーターの扉が開く。
『おや?』
『グゥ…』
扉が開いた先には、前回会った時同様にボサボサ髪の一条先生が立っていた。相も変わらず風呂には入っていないのか、蒼が顔を顰めている。
『一条先生!今日はよろしくお願いします』
『あぁコンニチハ、ちょうど表まで行って待っていようかと思っていたんだけど、ちょっと出遅れちゃったみたいだネ』
一条先生はボリボリと頭を掻きながら笑うと、屈んで葵と蒼に目線を合わせながら挨拶してくれる。
『葵クンと蒼クンもこんにちは、今日はよろしくネ』
『いちじょうせんせいこんにちは、きょうはよろしくおねがいします』『グルゥ』
僕に対するめんどくさい態度は微塵も見せないでにこやかに対応する一条先生。挨拶を終えると前回同様に診察室のような部屋に連れて行かれて検査の説明を受ける。どうやらこの診察室もどきは、一条先生の研究室らしい。検査の時に入った奥の部屋は、各研究者の共有の設備がおいてある部屋でどこの研究室からも入れるようになっているらしかった。
説明が終わると、前回とは違って一人ずつ奥の部屋に呼ばれることになった。一条先生曰く、
『今日は時間があるからネ、ゆっくり確実にやっていこうカ』
とのことだった。まぁ十中八九僕が出れる環境を作るためなんだろうけど。初めに蒼が奥の部屋に連れて行かれる。蒼の検査を待っている間に、今日が楽しみであまり眠れていなかった葵は父に寄りかかりながら眠ってしまう。
『葵クン、おまたせ〜…おっと寝ちゃったカ』
『すみません、今起こしますので』
蒼を連れて戻ってくる一条先生に気づいた父は、葵を起こそうとするが『いいヨいいヨ』と言ってそのまま葵を抱き上げる一条先生。
『おっとっと…少し見ない間に随分大きくなったネェ』
『すいません…よろしくお願いします』
『ウン、それじゃあ検査が終わるまで預かるネ』
そうして、一条先生に眠ったまま奥の部屋に連れて行かれる葵。扉が閉まると、一条先生は当たり前のように僕に話しかけてくる。
『セラスク〜ン、もう出てきてもいいんだヨ〜?』
…面倒だなぁ。
そう思いながらも葵が起きてしまって聞かれても面倒なのでさっさと精神交換する。
「はい、もう出たのでおろしてもらって大丈夫ですよ」
「エ〜、別にこのままでも良かったのにナ〜」
ぶーぶー言いながらも僕をおろしてくれる一条先生。一条先生は地面におろした僕をニコニコしながらじっと見つめてくる。つられて僕も自分の体を確認すると、以前よりも確実に女の子らしくなってしまっていて心の中の大事なナニカがごっそり削られる感覚を味わう。
「…で?一体何を聞きたいんですか?」
「あぁ、そうだネ。検査しながら聞いていこうかナ」
そうして検査を進めながら、一条先生は色々と質問をしてきた。僕からすれば分かりきっていて答えるのも面倒になるような質問ばかりだったけど、一条先生は僕が質問に答えるたびに興奮を増していった。…正直ちょっと気持ち悪かった。
「…フゥ、検査も終わっちゃったしここまでにしておこうかネ」
「ようやくですか、では葵と変わるのであとはよろしくお願いします」
僕がさっさと精神空間に帰ろうとすると、「ちょっと待っテ!」と一条先生に呼び止められる。
「なんですか…?」
「事前に言っておいた入園祝いだヨ!葵クンの分とは別にセラスクンの分も用意したんだかラ」
あぁ…そういえばそんなものもあったな。しかし葵の分とは別に僕の分まで用意してるとは、よっぽど暇だったのかな。
「それは、わざわざありがとうございます」
「いいんだヨ!それじゃあ持ってくるネ〜」
そう言って一条先生はどこかへ行く。少しして戻って来た一条先生は、僕にラッピングされた箱を差し出しながら
「はい、何が入ってるかはお楽しみだヨ〜!」
…風呂にも入らないズボラのくせに、無駄に凝ってるなぁ。
自分で読んでてつまんな…と思ったけど繋ぎでいるから投稿していきます。
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…。




