男性の終わり、天使の始まり
なんか、1話2話と比べてそこそこ長くなってしまいました。
視線を下げた先にある水面には、白いヴェールを身に纏い、黒のロングヘアーの、可愛さと美しさを両立させた女の子が写っていた。
「嘘でしょ…」
数秒前までと明確に変化した体の感覚を確かめるためにぺたぺたと触って確かめれば、きめ細かい肌の感覚と明らかに細くなった体の線の感覚が帰ってくる。
そして……
「………おぅ」
案の定ではあるが、生前には数回程度しか使っていなかった男性の象徴と言える例の器官はお無くなりになっていた。その代わりと言ってはなんだが、胸部に筋肉とはまた別の、申し訳程度の脂肪が盛られていた。
生前のスペックとは雲泥の差があるけどさぁ…。誰が見たって天使と見間違えるような外見になったけどさぁ…。
そんなことを思いつつ、水面に映る新しくなってしまった自分の体の感覚を確かめていたが…
まぁ…可愛いからいっか!
うん。生前の体に執着があったかと言われればコンプレックスばっかりだったし、可愛い子になれて、しかも地獄で苦しまなくて済むのだから儲け物だな!
そう思えば案外踏ん切りがつくもので、僕の頭はすぐに先ほどのラムエルさんから言われた天界での労役について考え始めた。すると、
「落ち着きましたか?伝達について、細かく説明ををさせて頂きたいのですが」
そう言ってラムエルさんの方から丁度良く声をかけて頂けた。
「待って頂いてすみません。説明をお願いしてもいいですか?」
「はい、もちろん」
ラムエルさんは相変わらず美しい笑顔を崩さずに説明を始める。
「九識さんに行っていただく労役というのは、天界での連絡役のようなものです」
「連絡役ですか?」
「はい、連絡役と申しましても私のように主からお伺いした内容を伝達するようなものではなく、天界内の部署間での業務連絡を伝えてまわって頂く形になります」
ラムエルさんの説明を詳しく聞いていくと、天界内には様々な業務があり、その業務ごとに部署が分かれているらしい。しかし、天界にはメール的な伝達手段はなく連絡については一部のテレパシー的な力を使える方や、紙や口頭での連絡になっているらしい。
「今までは手の空いたものが連絡役をしていたのですが、九識さんを連絡役として置くことで業務の効率化などを計っているわけですね」
「なるほど。ちなみにどのような方法で連絡をすれば良いのでしょうか」
「はい、方法については基本的に口頭での連絡になります」
「……はい?」
「口頭での連絡です。私たち天使は、主より完全記憶能力を与えられていますので、口頭でも一度伝えてさえしまえば忘れることはありませんので」
…なるほど。一瞬なんてローテクな連絡手段なんだと思ってしまったけれど、人間とは基本的なスペックが違いすぎるのか。
「…いや、それだと僕が内容を覚えられそうにないのですけど」
僕が純粋な疑問というか不安を口に出すと、ラムエルさんは一瞬キョトンとした表情を浮かべて、その後小さく笑った。
「ふふ、その点は問題ありませんよ。九識さんも主より天使の体を与えられているのですから」
「え、僕のこの体って天使なんですか?!」
「はい、そうですよ。丁度良いですし、九識さんの新しい体についても説明をしておきましょうか」
ラムエルさんの話では、僕のこの体は、天使の序列でも一番下の『天使』という分類にあたるらしい。
一番下の序列とは言っても神様がその手で創造したものなので人間と比べれば破格のスペックを誇り、先程ラムエルさんが言っていたような完全記憶能力や、疲労や睡眠などとは無縁な体を持ち、挙げ句の果てには飛ぼうと思えば翼が出てきて飛べるらしい。
…ちなみにラムエルさんは上から数えて二つ目の『智天使』という序列らしい。
「…なるほど。一応理解しました」
「それはよかったです」
そう言うとラムエルさんはにっこりと笑みを浮かべる。なるほど、確かに先程までの話を思い出そうとすれば一言一句正確に思い出すことができる。聞いた話に間違いがないなら…。
バサッ!
「おぉ…本当に出た」
試しになんとなく飛ぼうとしてみれば、一対二枚の翼が出てくる。運動神経も極限まで高められているのか、今まで動かしたこともない翼をどのように動かせば飛ぶことができるのか理解することができた。
「機能に問題はないようですね」
「そうみたいです」
「それでは、主から九識さんへの最期の伝令をします。この伝令が終われば、九識さんは完全に天使として認められ、連絡役としての仕事を始めていただきます」
そう言うとラムエルさんは、先程とは別の羊皮紙をどこからか取り出して読み上げる。
「九識湊、君に私から新たな名を与えることで正式に天使とする」
「君の新たな名は、セラスだ」
ラムエルさんが僕の新しい名前を宣言する瞬間、どこからか少年なのか少女なのか判別がつかない不思議な声がラムエルさんの声に重なって聞こえた。
伝令が終わると、ラムエルさんが持っていた羊皮紙は光の粒子となって行き、僕の頭上に集まって来た。光の粒子が視界に収まらなくなったあたりで、明確に変化があった。
「…これは、すごいですね」
先程の光の粒子は、僕の頭上で輪をつくり、僕の新しい感覚器になったようだ。五感とは違った不思議な感覚だが、自分が認識できる範囲や、認識できる『モノ』が確実に変わったことがわかる。
感動している僕にラムエルさんはにっこりと笑みを浮かべて口を開く。
「これであなたも天使となりました。これからお仕事頑張ってくださいね、セラスさん」
前回に引き続き閲覧、ブックマークして頂けた方、誠にありがとうございます。
毎回好きなVtuberの配信を見ながらキリのいいところまで、気が済むまで書いたらすぐ投稿しているので時間も文量もバラバラですが、できる限り続けて行きたいと思っているのでよろしくお願い致します。