はじめての検査結果
頭痛が取れたと思ったら腹痛が…
一条先生に抱えられて扉を抜けると、少し不安そうな顔をした両親と好き勝手に葵を連れ去っていった一条先生に呆れ果てている綾香ちゃんさんが待っていた。
『お待たせしてすまないネ、問題なく終わったヨ』
『そうですか、よかったです』
ニコニコと笑いながらそう言う一条先生に安心した様子の母は、葵を受け取ってしっかりとその腕に抱く。
『葵が何かご迷惑をおかけしませんでしたか?』
『全然!とってもおとなしくていい子だったヨ!』
異能の暴発についても不安だったであろう両親は、一条先生の言葉に安心した様子だった。
『それじゃあ、さっきの部屋に戻って検査結果を伝えようカ』
一条先生はそう言うと、先ほど検査結果を伝えようとした部屋に戻っていく。診察室のような部屋で椅子に腰掛け、両親にも座るように勧めた一条先生は半透明で浮かんでいるディスプレイとキーボードを叩いていく。
これがみんながナノマシンで見ていた光景か、と葵の目を通して映る光景に感動していると、葵と両親の目の前にも半透明のディスプレイが出てくる。
『さて、プライベートな話になってくるから綾香クンは席を外してネ?』
『はい。それでは先輩方、外で待機していますのでお帰りの際はまた声をかけてください』
そうして綾香ちゃんさんが扉から出ていくのを確認した一条先生は、しっかりと僕らに向き直って話し始める。
『さて、それじゃあ検査結果を伝えていくネ』
『『よろしくお願いします』』
そうして頭を下げる両親に笑いかけて、手元のディスプレイを確認し始める一条先生。
『まず結論から言えば、葵クンも蒼クンも現状なんの問題もないヨ』
『本当ですか!』
『うん、詳しいことは送ったデータにあるから確認してみて欲しいんだけどネ』
一条先生のその言葉で手元のディスプレイを確認して見れば、葵と蒼それぞれの評価項目に『問題なし』の言葉が入っている。父がディスプレイをスワイプすると、さらに詳しい検査結果が表示される。
『二枚目以降のデータにもある通り、葵クンも蒼クンもとても素晴らしい能力を持っているヨ』
データに表示されている検査結果の数値は、葵も蒼も平均値を大きく上回っている数値が記載されていた。
『蒼クンはかなり高い知性を持っているようだし、仮想体としての安定性がかなり強い個体だから、これからはよっぽどのことでもないと暴れたりはしないと思うヨ』
『グルゥ!』
一条先生の言葉に、当然だ!と言わんばかりに鳴き声をあげる蒼。…こんな誇り高そうに振る舞ってる蒼が、僕にはお腹を見せてくるんだからたまらないよなぁ。
『…グゥ?』
寒気でもしたのか、蒼はブルリと身を震わせる。それを見た一条先生も両親も不思議そうな表情を見せたけど、特に気にせずに検査結果の続きを話し始める。
『蒼クンがまとっている炎も、蒼クンの意思で温度調節しているみたいだから燃え移りは気にしなくて大丈夫だヨ』
なるほど、触っても熱くないから不思議だったけど、蒼が自分で調整していたのか。
『そうそう、今の蒼クンの炎だけどネ。葵クンの影響をかなり受けているみたいだヨ』
『…葵の?』
不思議そうな表情を浮かべる両親に、一条先生は資料を見せながら説明をしていく。
『これを見て貰えばわかるのだけど、葵クンはかなり純度の高い炎属性の異能力を持っていてネ?純度の高い炎属性の異能力は、炎として具現化させると青い炎になるんダ』
その説明を受けて、両親は青い炎をまとっている蒼に目を向ける。初めて見た暴走していた蒼は、今とは違って黒い炎を撒き散らしていたことを思い出したのだろう。
『今も葵クンが異能力をあげたりしているでショ?蒼クンは元々炎を力の源にしている仮想体のようだからネ、葵クンの異能力と相性が良いみたいだヨ』
『なるほど、ちなみに私たちが異能力を与えるのは問題ないんですか?』
『あぁ、それは別に問題ないヨ〜。単純に葵クンと相性が良いってだけの話だヨ』
一条先生の説明で、両親も蒼が葵についてまわっていることに納得がいった様子だった。
『さて、葵クンについてだけどネ?本当に一歳半なのか疑いたくなるほどの力だヨ』
一条先生のその言葉で、両親の表情に緊張が混ざる。一条先生はあえてそれを無視するように明るく言葉を続ける。
『異能力の純度も量も回路も全て平均値を大幅に上回っているヨ!これは1000年に一人の天才ってヤツだネ!』
『…そうですか』
不安感の拭えない表情をしている両親を見て、一条先生は優しい表情を浮かべて言う。
『これからも葵クンの力は成長していくだろうけド、お二人が真剣に向き合って育てていけば全く問題はないヨ。何か不安があったら私も全力で手を貸すことを約束するヨ』
『一条先生…』
『それに、葵クンが蒼クンに懐かれているのも、葵クンの優しさがあってこそダ。きっと葵クンなら、将来力を間違ったことに使わないサ』
両親は一条先生の言葉に少し安心できたのか、表情が安らぐ。一条先生は、半透明のボードをささっと操作すると両親に向き直る。
『今私の個人的な連絡先も送っておいたから、何かあったらいつでも連絡していいからネ』
『ありがとうございます』
両親が優しい一条先生に感銘を受けている中、僕は少し呆れていた。なぜかといえば、葵の視界にナノマシンを通して映っているディスプレイに「個人メッセージ:一条」と表示され、
『(いつでも連絡してね☆)』
と、わざわざ両親に見えないようにしてメッセージを送ってきていたからだ。
『サァ、とりあえず今日の検査はこれで終わりだヨ。気をつけて帰ってネ〜』
『一条先生、今日はありがとうございました』
深く頭を下げてから部屋を出ていく両親に『イエイエ〜』と笑顔で答える一条先生は、最後におそらく葵の中の僕に向けてだろうウィンクをしていた。
…悪い人ではないけど、ふざけた人だなぁ。…嫌いじゃないけど
そうして検査結果を聞き終わった後は、部屋の外で待っていた綾香ちゃんさんに転移で家まで送ってもらい、いつもの日常へ戻っていくのだった。
Tips:蒼はプライド高め…だったはず…。
前回に引き続き閲覧、ブックマークして頂けた方、誠にありがとうございます。
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作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…。




