英雄の片鱗
久々にちょっとした戦闘ありです。
祖父母の来訪から何ヶ月か経ち、もうすぐ葵も一才の誕生日を迎えようとしていた。
『ま〜ま、ぶ〜ぶ』
『そうね〜、ぶ〜ぶ〜いっぱいねぇ〜』
今は両親と祖父母と共に、誕生日プレゼントを選びにおもちゃ屋巡りをしていた。葵もだんだんと成長して、最近では短い単語を話し始めるようになり可愛さに磨きがかかっている。
『葵ちゃんは車が好きなのかしらね?』
『…ふむ。康太、そろそろ車の買い替えの時期ではなかったか?』
『…そうですが、まさか車を買うとは言わないですよね?』
母親の腕に抱かれている葵を祖母はニコニコと見守ってくれているが、祖父は表情を変えずにとんでもない誕生日プレゼントを買ってこようとしている。
…分かりずらいけど、葵に激甘なんだよなぁ。
『じ〜じ、ぶ〜ぶ?』
『…!よし、いくぞ康太』
まずい…!葵のかいしんのいちげきでおじいちゃんは混乱している…!葵…恐ろしい子…!
そうして祖父をメロメロにしていく葵と、振り回されている父親。そしてそれを見守っている母親と祖母という平和な構図。…さらにそれを眺めている僕。
しかし、平和な時間は長続きしないもの。僕の輪が異変を感知し、少し遅れて父親と祖父が反応する。
『っ!康太、構えろ!』『はい!母さんと優華は葵を!』
道の先にいた人たちが悲鳴をあげながら僕らがいる方に逃げてくる。逃げている人たちの視線の先を確認すれば、黒い炎を体に纏った大型犬のような怪物が暴れている。
『小型の仮想体だが脅威度は不明だ。美香』
『脅威度はBです。纏っている高温の炎は触ると厄介そうですね』
仕事の関係なのか、祖父母も両親も場慣れしている様子で落ち着いて対処している。父親は耳のあたりに手を当ててどこかに連絡を取っている様子で、母親もすぐに異能で結界を展開している。
う〜ん、驚異度Bがどれぐらいかはわからないけど、ちょっと相性が悪いんじゃないかな?輪で感知した感じ、こちらがパワータイプ多めなのに対して、向こうはスピードタイプみたいだし…。
両親と祖父母が警戒を強める中、炎を纏った仮想体も逃げないでいるこちらに目をつけたようだ。…ん?あの仮想体、何かに取り憑かれてる?
少し調べてみれば、もとはどこかの伝説で崇められている神聖な獣だったが、ナニカに取り憑かれて理性を失っているらしい。…どうにかしてやりたい気持ちはあるけど、今のメンツだと対処で精一杯だろうし、僕が出て万が一祖母の看破を使われると面倒なんだよな。
こちらが様子見をしていると、仮想体は地面を抉りながら踏み込み、一瞬で距離を詰めてくる。やはり赤子は悪霊的なモノに狙われやすいのか、前に立っていた父親と祖父を避けて葵を抱えている母親の後ろに回り込んでくる。
『速いっ!』『優華!』
仮想体の燃える爪が母親を切り裂こうとするが、なんとか結界で持ち堪える。しかし結界にはどんどんヒビが入ってきていて、長くは持ちそうにない。
…どうするか、今の葵の力だけだとどうしようもない。多少のリスクを負ってでも僕が出るか…。
そんなことを悩んでいると、葵から場違いな感情が流れ込んでくる。
『わんわん!』
葵は炎を纏う仮想体が襲いかかってきている状況で、初めて見る犬型の生物にはしゃいでいた。なんなら鋭い感覚で取り憑かれているのがわかっているのか、心配するような感情まで流れ込んでくる。
『葵っ!だめっ!』
葵を庇うように母親は腕の中に葵を抱く。そんな中でも葵は心配そうに仮想体の方に手を伸ばしている。
…仕方ない。ここは僕が…
精神体として外に出ようとしたその時、僕は何もしていないのに、僕と葵の回路が繋がる感覚があった。そして…
『わんわん、めっ!』
僕の力が少し葵に引っ張られ、葵から浄化の力が放たれる。それは、仮想体が纏っていた黒い炎を掻き消すように青い炎となって仮想体を覆い尽くす。
『グゥッ!』
仮想体は一瞬苦しんだ様子を見せるが、葵の炎が黒い炎を浄化すると、先ほどまでとは打って変わって神聖な雰囲気を纏い始める。
『わんわん?』
『…グルゥ』
落ち着いた様子の仮想体は、青い炎をうっすらと纏った純白の狼となってゆっくりと近づいてきて、葵が伸ばした手をぺろりと舐める。
『きゃっきゃっ!』
『葵…?』
その瞬間、その場にいた葵と仮想体以外の心が一致していた。…僕を含めて。
……一体何が起こったんだ?
ネタバレ:葵くんは動物好き
一応名前明記しておきます。父:康太 母:優華 祖父:康蔵 祖母:美香
いずれ母方の祖父母も出てくるとは思います。
前回に引き続き閲覧、ブックマークして頂けた方、誠にありがとうございます。
また、評価やいいねをつけて頂いた方も本当にありがとうございます。
なんか気づいたら総合評価Ptが900になっててびっくりしました…。本当にありがとうございます…。
作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…。




