お土産を渡そう‐5
Xでの予告通り更新です。最近はようやく作業する椅子を新しくできて腰への負担の少なさに感動する日々です。
おじいちゃんとおばあちゃんからのお土産を車に積み込んで家を離れ、現在向かっているのは一条家のお屋敷だ。修学旅行の時にメッセージでやり取りしていた京都の織物を渡しに向かうのだけども、どうやら今日は師匠が一条家に出向いてお嬢様に稽古をつける日らしかった。ちょうどいいので一条家へのお土産と師匠へのお土産を渡すついでに僕も稽古をつけてもらうという話になっていた。
「葵様、あと五分ほどで門に到着します」
「わかりました。ありがとうございます片桐さん」
片桐さんの運転する車はいつの間にか長い塀の続く道を走っており、塀の向こうには何度か見たことのある一条家の屋敷が広がっている。いつも通り正門で警備の人たちに確認をされるはずなので身だしなみを確認しておく。
危険物の持ち込みといえば…僕の指には普段通り一条先生謹製の指輪がはまっている。使用者の異能力で武器を形成する立派な危険物ではあるけれど、あらかじめお嬢様と師匠が話を通しておいてくれているので外しておかなくても大丈夫なはずだ。この指輪も師匠からいつ何時でも戦えるようにしろと言われて肌身離さずつけているけど、セラスさんから構成力の扱いをもっと学べば必要なくなる時が来るのかも知れないな。
『ま、夢の中ならいくらでも付き合ってあげるよ』
…ありがとうございます、セラスさん。
そうこうしているうちに片桐さんの運転する車は門に到着し、師匠たちが話を通しておいてくれたおかげで荷物検査などもすぐに終わった。そうしてまた車に乗り込み数分後…車は立派なお屋敷の前へとゆっくり停車する。車から降りた僕らを出迎えてくれた使用人の人たちに声をかける。
「出迎え頂いてありがとうございます。連絡してあった双葉葵です」
「伺っております。こちらへ」
そう言って先導する使用人に連れられるまま屋敷に入り、おじいちゃん達のお屋敷とはまた違った趣を堪能しながら歩くこと数分…立派な扉の前で使用人の方が足を止める。
「こちらでございます」
「ありがとうございました」
綺麗に一礼して去っていく使用人の方に軽く頭を下げてから扉にノックをする。
「双葉葵です」
『おぉ!もうそんな時間か、入っていいよ』
扉の中から聞こえてくる明るい声色にほんの少ししていた緊張をほぐされながら扉をくぐる。扉の先は執務室のような部屋で、道也様と真由子様が嬉しそうに僕を見ていた。
「お久しぶりです道也様、真由子様。ご連絡させて頂いた通り先日学校で行った京都のお土産を持参しました」
「やあ葵君。今日は護衛の任務でもないんだしそんなに堅苦しくしなくても良い、久しぶりに会えて嬉しいよ」
「そうですよ葵さん。普段からもっと気楽に訪ねて来てくれても良いんだから」
そうにこやかに迎えてくれたお二人だったけど、道也様の傍らには山のような書類が積まれていて真由子様は道也様を監視するような位置に立っていた。…よく見れば真由子様の目が笑っていない気もするし道也様は冷や汗をかいている。
道也様は明らかにこちらに助けを求めるような目線を送ってきているけど、それ以上に真由子様から発せられる静かな圧力が道也様を逃さないようにしていた。…流石にそこから助け出すのは無理ですよ?
「あ~…ありがとうございます。その、お土産はお茶菓子を持ってきたのでよかったら皆さんで召し上がってください」
「そうかそうか!ありがとう葵君!真由子、どうだろう?ここらで葵君のお茶菓子で一息入れるというのは!」
「…はぁ、仕方ないですね。十分だけですよ?葵君、私たちは御覧の通りだから娘と守宮さんのところへ行ってあげて?きっと娘も楽しみにしているわ」
真由子様の言葉で一気に表情が明るくなった道也様が僕に感謝の視線を送ってくるけど、僕からは強まる真由子様の圧でなんの反応も返してあげられない。
「はい、わかりました。お忙しいところにすみません。えっと…お体には気を付けてくださいね?」
「あぁ!お土産もわざわざありがとうね!またいつでも来て良いんだよ!」
「…えぇ、お土産ありがとうね。また時間のある時にゆっくりお話ししましょうね」
「はい。それでは失礼します」
そうして二人に見送られて部屋から出る。…このあとお二人がどうなったかは僕が考えることじゃあないだろう。さて、由奈さんと師匠のところに行くかぁ。
広いお屋敷を使用人の方の案内で歩きながら、さっきの道也様の姿に対仮想の一条先生の姿が重なってやっぱり家族なんだなぁなんておかしくなったりしていると…僕の感知範囲で異能力がぶつかり合っていることに気づく。
…師匠、やりすぎじゃない?
動きで言ったら4年前の僕ぐらい厳しくしてる気がするんだけど。自分で言うのもなんだけど、あの厳しさを普通にやってたらつぶれちゃってもおかしくないと思うんだけど。
そうして内心ハラハラしながら使用人の方の案内で道場らしき場所に入ると、案の定汗だくのお嬢様と冷徹な表情の師匠が立ち会っていた。師匠は肩で息をして足に力が入らなくなっているお嬢様に向かって訓練用の棒を大げさに振りかぶって一足飛びに間合いを詰める…って、あの人止める気無くない?!
「っ!」
最低限の異能力体に回して身体能力を底上げして一息で二人の間に飛び込み、師匠が振り下ろした棒を素手でつかんで止める。…止めた感触からしてもやっぱり止める気なかったじゃないか。それに…はぁ、趣味悪いなぁ。
「…師匠?おふざけにしても、ちょっとやりすぎじゃないですか?」
「あん?久々に会った真面目に仕事をこなしてる師匠に開口一番それかぁ?」
「…?あっ、葵さん!?」
師匠が構えを解いたのを確認してから背中にかばっていたお嬢様に向き直る。呆然と、疲れきったような表情でこちらを見るお嬢様に視線を合わせてから声をかける。
「お久しぶりですお嬢様。お土産を渡しに来ましたよ」




