お土産を渡そう-1
セラスさんに『構成力』というものを教えられ、その後もセラスさんに色々と聞いていると、セラスさんに「そろそろ朝だね」と言われて意識が暗転していった。
「……ぅん」
目が覚めても夢の中で教えられたことに興奮が収まらず、いつもなら連絡の確認をしたりするところを直ぐにベッドから出て洗面所に向かう。
「『構成力』かぁ…ん?」
洗面所に立って顔を洗おうとしたところで、まだぼんやりとしていた頭の中が一気に晴れる。
「…戻ってる」
思えばどうして夢でセラスさんに会おうと思っていたのか、目的も忘れてしまっていた。思わず呟いた言葉の通り、鏡の中に写っている僕の姿は『僕の姿』だった。セラスさんの姿ではなく。
改めて自分の姿を確認すると、昨日のような女性ではない同年代からしたら少し大きめの体と、まっさらな胸と…まぁなくなっていた部位も戻ってきていた。よかった、セラスさんはちゃんと戻してくれたみたいだ。
「…ありがとうございます」
『はーい。それとおはよう』
自分の中に向けるようにそうして呟くと、少し眠そうなセラスさんの声が僕の中で帰ってくる。セラスさんのこういう声は珍しいので、なんだか少しおかしくなって笑ってしまう。セラスさん、すごく久しぶりに時間を気にせず眠ったって言ってたもんなぁ。
まぁともかく…早く支度してお母さん達にも戻ったことを伝えないと。変わっちゃった時はもう戻れないんじゃないかって心配したけど、なんだかんだ1日で戻れてよかったなぁ。
『それは本当に申し訳ないと思ってるよ』
いえ、やっぱり直ぐに戻れたしあんまり気にしなくていいですよ。元々僕の体を自由に使って良いって言ったのも僕ですし。…さて、ささっと顔を洗ってお母さん達に会わないと。
セラスさんと他愛のない会話をしながら手早く顔を洗う。着替えのところに置かれているお母さんが置いたであろう女性ものの服に微妙な気分になりながら、いつもの服が仕舞われている箪笥から僕の服を出して着替える。姿見に映った慣れ親しんだ自分の姿になんだか嬉しくなりながら、台所で朝食を作ってくれているであろうお母さんのところに向かう。
いつもならお母さんは食卓に朝食を並べているところだけど、少し早めに起きてしまったこともあり、お父さんが食べた食器を食洗機に並べているところだった。食器を片付けながら少し時間を気にしている様子のお母さんのところにゆっくりと歩み寄る。
「おはよう、お母さん」
「おはよう葵、今日は早いんじゃ…ない?」
僕の方を振り返ったお母さんは、食器を持ったままピシリと固まる。食器を放り捨てるようにしてお母さんは僕の方に駆け寄ってくる。お母さんは少し濡れた手で僕の顔を包むようにして僕を見つめる。
「葵…よね?今度は葵の体のセラスちゃんだったりしない?」
「ははっ…うん。ちゃんと僕、葵だよ?」
「そう…よかったわね…!」
「うん。あとお母さん…ちょっと冷たいかな…」
「あら!ごめんなさいね?」
そんなことを言いながら、お母さんは嬉しそうにパタパタと浮き足立ちながら僕の朝食を準備してくれる。お母さんは「セラスちゃん用のお洋服分けておかないと…」なんて呟きながら食器や調理器具の片付けをしていたが、ふと思い出したように僕に声をかけてくる。
「そういえば葵、今日は早かったけど何か予定でもあるの?」
「え?今日も学校が…あれ?」
お母さんの言葉でカレンダーを確認すると、今日は休日だった。昨日から色々と混乱することが多すぎて気にしていなかったけど、そういえば昨日は金曜日だったらしい。
「ふふ、やっぱり昨日は大変だったものね?今日はゆっくり休むか、気分転換でもしたらどうかしら?」
「…そうみたい、ありがとうお母さん」
そんなことを話しながら、お母さんが作ってくれた朝食を食べつつニュースや連絡のチェックをしておく。そうしていると、以前していたメッセージのやり取りの履歴が目に入る。
「あぁ…まだ行ってなかったっけ」
そのメッセージの履歴を見ながら、僕は自分の部屋に置いたままになっている京都の有名な織物を思い出していた。




