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熾天使さんは傍観者  作者: 位名月
ふたりの異能
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かわるがわる-3

お久しぶりです。ようやく体調が戻ってまいりました。

結局8月はほぼ書けませんでしたね…。

 僕がいつもと違う感覚に気がついたのは、図らずも見学することになって過ごした体育も終わり、普段の授業の時間になってのことだった。


 「それじゃあこの問題がわかるひと〜?」


 「「はい!」」


 いつも元気なクラスメイトが率先して手を挙げている中で、僕は訳のわからない感覚に包まれていた。


 僕が思考を挟む余地もなく、先生が提示した問題の回答が頭の中に浮かび上がってくる。それどころかこの先の授業の内容やまだ予習すらしていない授業の内容が洪水のように頭の中に溢れてくる。


 答えがわかって授業が楽、と言うような感想すら浮かぶ暇もない情報の氾濫に身動きがとれなくなる。記憶力も頭の回転もそこそこに速い自信があったけど、今までの人生で経験したこともない普段なら頭の中が沸騰するような情報量を不思議と処理できてしまっている状況に困惑しかできない。


 これって元の体に戻ったらちゃんと忘れられるのかなぁ…。


 今僕の脳内には教科書そのものが一冊丸ごと手に取って自由にできる状況が出来上がっていて、さらには先生の授業すら動画を視聴するように自由に思い出す…というか理解して再現することすらできている。


 セラスさんの力が桁違いなのを実感するのと同時に、自分の努力で得ていない力で()()をしているような感覚が湧き上がり、罪悪感がある。


 僕は先生に指名された時以外は極力静かに授業を受けて、受け取る前から問題も答えもわかっている小テストのデータに回答を入力していく。よく言えば簡単な、悪く言えばつまらない授業の時間を過ごし、午前中を終える。


 「それじゃあ午後は修学旅行のまとめだからお昼休みが終わったら準備しておいてね〜」


 先生が給食の準備で教室を出ていくのを見送って開いていた教科書のタブを閉じる。


 「…ふぅ」


 「葵君、やっぱり少し元気なさそうだったけど…大丈夫?」


 授業が終わって思わずため息をついたところで、隣の席の流奈ちゃんにそう声をかけられる。僕がこの体に変わってからと言うもの、普段以上に視線を向けられていることには気づいていた。授業中に流奈ちゃんが僕の方に頻りに視線を向けていたこともわかっていたし、多分こんなことになった僕を気にしていてくれたんだろうな…。


 「うん…大丈夫だよ。この体で不便なことはあんまりないしね」


 実際不便なことはあまりない。セラスさんの体の方が明らかに僕の体よりも性能が良いし…不便はなくても困ってはいるけどね。


 「そっか…ならいいんだけど、困ったことがあったらすぐに言ってね?」


 「ありがとうね流奈ちゃん」


 「うっ、うん…友達が困ってたら助けるのは当然だからね!」


 僕がお礼を言うと何故か顔を赤らめてそう言う流奈ちゃん。…?照れ?流奈ちゃんの様子を見ていると何故か流奈ちゃんの反応が恋愛対象に対して照れてから回っているような印象を受けてしまう。なんでだろう?僕と流奈ちゃんが『友達』なのは流奈ちゃん自身がさっき言ったことだし、今の僕は流奈ちゃんからしたら今の僕は同性なのに…。流奈ちゃんってもしかして女の子が好きな人なのかな?…セラスさん、綺麗だしなぁ。


 そこまで考えたところで、『普段ならこんなこと考えないのに』といつもとの違いを感じながらもこれ以上考えるのは流奈ちゃんに失礼かと思考を止める。


 給食の準備を終えて、セラスさんは食事をしなくても大丈夫とか言っていたけど大丈夫かなぁなんて思いながら普通に給食を食べていると…。


 『…ヘルメー、そこはぁ…ZZZ』


 「!?」


 「葵君!?」


 脳内にセラスさんの声が響いて思わず勢いよく立ち上がる。僕の様子が変わったことに驚いたクラスメイトたちに適当に誤魔化しながら教室を離れて多目的トイレに駆け込む。


 「(セラスさん?セラスさん!いますか!?)」


 『…ZZZ』


 心の中で必死にセラスさんに呼びかけて、セラスさんの返事を待っていると今までは意識していなかったから聞こえていなかったのか、セラスさんの眠っているような呼吸音が聞こえてくる。


 「……」


 …セラスさん、さては眠ってるだけだな?


 そのことに気づいた瞬間にどっと今まで無意識に張っていた力が抜けてトイレの便座に座り込む。あ〜良かったぁ…僕がセラスさんに無理やり出てきてもらったりしたせいでセラスさんがいなくなって、体だけ入れ替わっちゃったのかとも思っていたけれど、眠っていて体を戻すのを忘れていただけなら安心だ。


 これならセラスさんを起こせばなんとかなるってことか。よし。


 「(セラスさーん!起きてー!!セラスさーん!!!)」


 『う〜ん…ヘルメー?ぁと200年…』


 「……」


 必死に呼びかけても帰ってくるのはいつもと落ち着いた平坦な声ではなくどこかふやけた寝言のような声だけだった。200年って…ヘルメーって何?人の名前なのかな?


 ともかく呼びかけてもセラスさんが起きる様子はなかった。時間が経てば起きると思いたいけど、寝言でもあと200年とか言っているし、普通の人とは違うセラスさんが普通の人のようなサイクルで睡眠をとっているとは限らない。


 もしかしたらセラスさんは僕が死ぬまで起きないのかもしれない…。


 セラスさんが消えていないのがわかったのは良かったけど、結局別の形になっただけで同じような不安が僕の心の中に渦巻いていくのだった。

調子が戻った証拠なのか、久々に筆が乗りました。やりたいことと書きたいものが溢れてきます。超楽しい。

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