お洋服
あとがきで告知があります!ぜひ読んでいってもらえると嬉しいです!
今回はセラス視点です。
僕が葵の強引な紹介で双葉家に受け入れられてから数日が経った。
初めのうちは母さんが葵の分とは別に僕のご飯を用意しようとしたりしていたけど、この数日で僕に慣れ始めていた。
「葵〜?お母さん達今から…あら?セラスちゃんだったのね?」
「どうしたの?葵に変わる?どうせ本を読んでただけだし」
こうして葵と入れ替わった僕が居ても特に驚かれることも無くなっていた。
「む、セラスか…。優華、セラスと一緒に行った方が都合がいいんじゃないか?」
2人とも最初は僕をセラスさんと呼んでいたけど、今は「セラスちゃん」「セラス」と呼んでいた。ただ父に関しては、突然出てきた娘(?)の存在にどう接していいのか分からない様子で若干の気まずさがあった。
「そうね!色々と入用でしょうし本人が選ぶ方が確実だものね」
「…なんなの?葵に変わる必要は無いのね?」
僕らの部屋に入ってきた両親は、いまいち何が言いたいのか分からない会話を一方的にして来る。
今は葵も寝ていて僕だけだし、僕に用というなら都合は良いだろうけど…。
「そうそう!今お父さんとセラスちゃんに必要なものを買いに行こうと思ってたんだけど、せっかくだし一緒に行きましょう?」
僕への用というのはどうやら買い物に付き合って欲しいというものだった様だ。
確かにいくら僕があまり出てこないからと言っても、葵が偶に僕を家族と関わらせようとしてくる以上僕用の物も必要になってくるだろう。
「そういうことなら構わないよ。こんな見た目でも力はあるから荷物持ちも任せてもらって構わないよ?」
「良かったわ!それじゃあ行きましょうか」
僕の返事に母さんは心なしかいつもより浮き足立った様子で外出の準備を始める。僕も適当に葵の服の中から着れるものを見繕って着替え始める。髪は…縛るか。
そうして身支度を終えて鏡の前に立つと、葵と同じ服、同じ背丈、同じような髪の長さなのに、しっかりと骨格や顔立ちが女性のものになっていて、中性的な葵と違ってメンズ向けの服を着ている女性とはっきりとわかってしまう。
「はぁ…」
「セラスちゃん、準備できたかしら?」
鏡に映る自分の姿で嫌になっている所に準備を終わらせた母さんが入ってくる。…あ、そういえば直接話すようになってからは母さん、父さんと呼ぶようにしている。流石に面と向かって母、父と呼ぶのは無機質が過ぎるし。
「あぁ…もう何時でも出られるよ」
「良かったわ、それなら行きましょうか」
そうして母さんと揃って家を出て、徒歩で近くの大規模商業施設に向かっていく。
歩いている際も母さんは楽しそうに僕に話しかけてくる。
「セラスちゃんは何か欲しいものはあるのかしら?」
「セラスちゃんは髪も肌も綺麗ね〜?」
「セラスちゃんは好きな食べ物あるの?」
…こんな様子で飽きる気配もなく話しかけてくる。葵達と居る時はもう少し落ち着いていたと思うんだけど…。
「母さん…なんか楽しそうだね?」
「そうかしら?ちょっとはしゃいじゃってたかもしれないわね」
「何か楽しみなことでもあるの?」
「それはもちろん!だって初めての娘とのショッピングよ?葵も凛月もとっても可愛いけど…娘とのお出かけは初めてだもの!」
「ソウダネ」
ぐふぅ…!
くそぅ…凛月もそうだったけど純粋な分否定しづらい。確かに女の体で居た時間は男の体で居た時間の2億5千倍ぐらい長いけど…!こうして精神と時間に余裕がある時に再度向き合うとなかなか辛いものがある。
「せっかくだしお洋服もいっぱい買っちゃいましょうか!」
まずい…今のうちに先手を打っておかないとスカートなんてものを着せられかねん…!
「あ〜…僕、可愛すぎるのはあんまり趣味じゃないんだけど…」
「任せて!しっかり選んであげるわ!」
「あっはい」
……ダメだ、これ着る流れだ。
そうして楽しそうな美女と死んだ目の男装女子という謎の組み合わせの2人は何よりも先に女性物のアパレルショップへと入って行ったのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「やっぱり似合うわ!こっちも着てみてもらえる?」
「ハイ…」
火がついてしまった母さんから開放されたのは、何度目か分からない試着を繰り返して紙袋が6つになった辺りだった。
「ちょっと買いすぎちゃったわね」
「ちょっと…?」
アパレルショップを一通り回り終わった時には、既に僕と母さんの両手は埋まってしまっていた。
流石に他の買い物もして行かないといけないという事で家の車を呼び出す間、フードコートでアイスを食べながら一息ついていた。
「セラスちゃん、ごめんなさいね?私すっかり浮かれちゃってて…着たいものを着てくれたらいいからね?」
「…まぁ、全部似合ってたのは間違いないし機会があれば着るよ」
幸いなことに母さんが選んだ服は僕の最初の希望通りボーイッシュなものが多く選ばれていた。…しっかり3分の1ぐらいはフリフリの可愛いものまで買われていたけど。
母さんはアイスを食べながら思い出したように僕に少し咎めるような目線を送りながら話し始める。
「それにしても…まさかとは思っていたけれど、本当に下着をつけてなかったとは思わなかったわよ?」
「…まぁ必要なかったし」
うん、勝手に最後の砦だと思っていたものは簡単に破られてしまいました。
1番初めに試着をしようとした時にしれっと着替えを見ていた母さんに何よりも最初に気づかれてしまい、服を買う前にしっかり採寸されて下着も買われてしまった。
僕が50億年守ってきた砦が…母は強しとはこの事か…。
「まったくもう…セラスちゃんはもう大きくなり始めてるんだし、ちゃんと着けないとダメよ?」
「ハイ…」
そりゃ人間の感覚で言ったら体は劣化していくものだからそういうの必要かもしれないけどさぁ…僕熾天使なんだけど?必要ないってのも本当なんだよ?
「セラスちゃん?ちゃんと着けるのよ?」
「…わかりました」
こわい、母さんこわい。熾天使に真正面から恐怖感を与えないでください。
そんなこんなでアイスを食べ終わったあたりで車も到着して、今度こそ僕の生活に必要な物を買いに戻るのだった。
Twitterと活動報告でも告知しましたが、新しく『知る、話す、触れる、壊す。』という『熾天使さん』と同じ世界のお話を投稿しました。探偵ものの作品ですので大分印象は変わるかも知れませんが、楽しんでいただけるように書いていきます!
纏まった数ができるまで更新しないスタイルなので『熾天使さん』より更新頻度は落ちますが、『熾天使さん』の更新頻度が落ちない範囲で書いていきますので引き続き楽しんでいただけるように頑張ります!




