シン・双葉家
葵の修学旅行が終わった日の夜、双葉家の食卓には全員が揃っていた。普段は帰りが遅い父も早々に仕事を切り上げて帰って来ていた。
それぞれ様子は違うが誰もが一様に落ち着かない様子でソワソワとしている中、1番に口を開いたのは父だった。
『さて…色々と聞きたいことはあるが、一先ず無事に帰って来れて何よりだ』
いつにも増して顔が強ばっている父は、そんなことを言いながらも視線はチラチラと葵の肩の方に動いていた。
『うん、ただいまお父さん。それでこの肩に乗ってる子が連絡しておいた…』
『確かゆず、だったか…それで?』
『改めて最初から説明すると…』
母の作った料理を食べながら葵が神の住居であった事を1から説明していく。葵の説明が進むにつれて、父の表情が複雑そうなものになっていく。
『そうか…神に近しい方々が葵の近くにその子が居る方がいいと言うなら、双葉家としてもわざわざその意に背こうという気は無い』
『じゃあ!』
『あぁ、しっかり面倒を見るんだぞ?』
『ありがとう!』
父の言葉に安心して、嬉しそうに膝に乗っていたゆずちゃんを撫でる葵。やっぱり顔が良い葵と見てくれは可愛いゆずちゃんは絵になるなぁ。
「…!?」
呑気に葵達の会話を聞きながら本を読んでいた僕は、唐突に全身を駆け巡った嫌な予感に本を勢いよく閉じる。
なんだ!?感知範囲には何も居ないし注意していた奴らも動くのは今じゃないはず…。
縛りを破らない範囲で熾天使としての性能をフルに使って外敵の特定をするも、どこをどう判断してもこの状況で葵達の生命を脅かすような存在は確認できない。
…なんなんだ?こんなに嫌な予感がしたのはあのク◯神に新しい仕事を押し付けられる日の朝ぐらいだぞ…!?
『それと…もう一つ、みんなに言うことがあるんだ』
僕の警戒をよそに葵は修学旅行の話でもしようとしているのか、楽しそうな表情で家族に向けて口を開いている。
理屈や理論を無視した直感については僕よりも鋭いかもしれない葵がここまで安心しきっている以上、本当にここにはなんの危険もないのかも知れない…。
もしかしたら、天界であの創造神が何か余計なことでも考えているのかも知れないな…。
『実は、僕の中に家族がもう1人居たみたいなんだ』
『は?』『あら?』『?』『わう…』
「……え?」
久々に思考が完全に停止する。あ〜…こんな時にまともに思考が働かないのは、僕が人間だった時の精神がそのままだからなんだろうなぁ〜。
脳内ではサボりの罰で超新星爆発の衝撃を脳天に叩き込まれた時の様なショックを受けながらも、感情の部分は呑気にそんなことを考えていた。
『こんなこと言っても信じられないだろうし、見てもらった方が早いよね!セラスさん!出てきてもらっても良いですか?』
僕がぼんやりしているうちに、葵は何故かとても楽しそうにそんなことを言ってくる。
「いやいや葵?!何言ってんの!?僕のことは良いって言わなかったっけ!?」
『知っちゃった以上は家族に隠したりしませんよ!それにセラスさんだって家族ですし、隠し事は無しですよ!』
「いや良いから!今からでも冗談でした〜とか言って誤魔化してよ!」
『それこそ無理な話ですよ!そんなこと言ったら僕完全におかしな子じゃないですか!』
そうして脳内論争(葵は口に出して言ってる)を繰り広げている間も、家族は呆気に取られて口を開いたまま葵を眺めている。
あ〜…完全に読めてなかった…。こういうポカするのもなんか久しぶりだな…。
葵以外の者は感情・思考をしっかり演算してから行動予測をしているけど、葵は感情・思考が直接伝わってくる。だからこそ葵の思考や感情を挟まない直感的な行動はたまに予測できないんだ…。
そういえば葵と最初に話した時からこうなる可能性はあったじゃないか…。
『ほら!出てきてみんなと話してくださいよ!』
僕がなぜ葵の行動を予測できなかったかの推測をしているうちにも、葵は楽しそうに僕に変われと言ってくる。
あの嫌な予感はこれだったのか…仕方ない、切り替えるかぁ。
乱暴に閉じていた本を書架に戻して、気持ちを切り替えて葵と替わる。目を開けば口と目を思い切り開いた父と母。そして何故か楽しそうな凛月が映る。
「あ〜…こんばんは、葵が言っていたセラスです」
「「…あ、どうもこんばんは?」」「こんばんは!」
僕を見つめながら呆然としている両親を置いて、凛月は珍しく表情でわかるほどに楽しそうにしながら僕のところに駆け寄ってくる。
「あっ!凛月…」
「にーさんがねーさんになった!」
「うぼぁ…」
ねーさん…そうだよね…どう見ても女だもんね…。
こうして僕は、異世界に転生して初めて膝をつかされたのだった。
次は明日の夜8時ごろに




