熾天使さんは傍観者?
何が起こっているのか理解できていない様子の葵がぼーっとしているうちに鎌と窮鼠は消滅していた。さて、いつまでも僕が動いてるのもアレだし部屋に戻るか。
「〈転移〉」
『え』
パッと視界が切り替わってホテルの部屋に戻ってくる。眠っているゆずちゃんを撫でてから布団に入って、意識を僕の空間に戻す。
「ただいま」
「あ…お帰りなさい?」
次々に視点が変わって状況が飲み込めていない様子の葵だったけど、しっかり返事はしてくれる。いやぁ…改めていい子に育ったなぁ。
「とりあえず、これで葵と僕が同じってことはわかったかな?」
「え〜っと…まぁ、なんとなく感覚でわかりました?」
わかったと言いつつ最後に疑問符がついてるけど、あくまで感覚で無理やり理解してもらったんだからしょうがない。理性ではこれから納得してもらえばいい。
「ふふ、詳しくはこれから説明してあげるからね」
「ありがとうございます?」
さて、どこから説明したものかな。葵も聞きたいことは山ほどあるだろうけど、とりあえず基本的なところはこっちで説明してあげないと。
「とりあえず、葵と僕が同じ体を共有してる理由から話すよ?」
「あ、はい。お願いします」
「簡単に言うと、僕らは二重人格なわけ」
実際僕は転生にあたって、あのク創造神に二重人格の裏側にいる方になりたいって希望を出したわけだし。
「はぁ…それじゃあ天使さんは今までずっと僕の中にいたんですか?」
「そうだよ、君がお母さんのお腹の中にいる時からずっと一緒に居たよ」
僕の言葉を複雑そうな表情で必死に噛み砕こうとする葵。実際今までに夢の中で接触した時も、どこか懐かしさを感じていた風だったし理解できないことはないと思うんだけど。
「…寂しく、なかったですか?」
「……へ?」
葵の口から出てきた疑問に、一瞬思考が止まる。自分の中にもう一つ人格があったことを知って初めに出てくる疑問が、寂しくなかったか?
「あはは!寂しくなかったか、考えたこともなかったな!」
「え、何か変なこと言っちゃいましたか?」
突然笑い出した僕に、葵は心配そうな表情でそんなことを言ってくる。いやぁ…今まで思考も感情も流れ込んできていて、葵のことなら誰よりも理解している自覚があった。だけど実際に話してみると違うものだな。
「いやぁ、別に変なことは言ってないよ。質問に答えると、別に寂しくはなかったよ。葵もさっきのでわかったと思うけど僕らはいろんなものを共有してるからね」
「そうなんですね…よかったです」
僕の返事に心から安心したような感情が伝わってきて、改めていい子に育ったなぁと若干感動してしまう。葵は僕の回答で少し落ち着きを取り戻した様子で二重人格について考え始めていた。
「えっと、さっきいろんなものを共有しているって言ってましたけど」
「うん、僕が体を使ってた時にわかったでしょ?五感も思考も感情も僕らは共有してるんだ」
「…でも、僕は今まで天使さんがいることを知らなかったですよ?」
まぁその疑問は出てくるよね。ていうかこういうのが最初に出てくると思ってたんだけど…。
「まぁ、知られないようにしてたからね」
「え、どうしてですか?」
「僕は別に特別何かしたい訳じゃなかったからね。葵の人生の邪魔をするつもりはないし、ずっと陰から見守るつもりだったんだ」
「…それなら、どうして今出て来てくれたんですか?」
あ〜…なんて答えるのが正解だろう?正直に長期休暇がとりたくて葵の裏人格になったなんて言えないし、世界の終わりについて今の葵にはあまり教えたくないし…。
「最近、葵だけじゃあどうしようもないことも増えてきたからね。心当たりあるでしょ?」
「…零君のことですか?」
「それもそうだね。今までも僕が手を出してたことはあったけど、葵が僕に気付き始めてたからそろそろちゃんと教えておこうかなと思ったんだ」
今までは僕が出て周りに記憶処理して誤魔化していたけど、葵の精神が成長してきたことや…葵に僕の力が必要な場面が増えていちいち誤魔化すのも面倒になってきた。
「共有は基本葵から僕に来るものだし、今まで隠しておくのに苦労もしなかったしね」
「なるほど…」
うん、嘘はついてない。葵もとりあえずそれで納得してくれたみたいで、次の疑問に思考が移っていった。
「それじゃあ…なんで天使さんと僕は種族も性別も違うんですか?」
「あ〜…やっぱ気になるよねぇそこ」
僕と葵の違いで一番わかりやすくて、一番聞かれたくないことが種族と性別の違いだ。天使になった理由も性別が女性になったのもあのク◯神のせいだからなぁ…。
「う〜ん…なんて言えばいいんだろう。神の気まぐれ?」
「えぇ…?」
「うん、申し訳ないけどこれに関しては僕からは説明できないなぁ」
「…まぁ、わかりました」
「ごめんね?」
あえて隠さずに僕が本心から困っている感情を葵に共有して、なんとか納得してもらう。もうすぐ夜も明けそうだし、これで葵への説明はなんとかなった。僕が内心で胸を撫で下ろしていると、葵が何かに気づいた様子で口を開く。
「あの、性別で思い出したんですけど…体って戻るんですか?」
「ん?体…?」
葵の言葉と同時に、外で人が動き出す気配を感じた。そして外に意識を向けたことで気付く。
やべぇ…現実の体、僕のままだ。
「ごめん!説明は後で、今すぐ起こすから!」
「え!?後これだけ!て…」
葵が何かを言い切る前に両手を打ち鳴らす。その瞬間に葵の姿は僕の空間から消え去り、いつも通りもう一つの感覚が開く。
『…ぇんしさんの名前!』
『うおっ!?なんだよアオ…?』
『あれ…?あ、体戻ってる』
声を上げながら飛び起きた葵を、今起きたばかりの健太は心配そうな表情で見つめていた。葵はそんなケンにも気づかずに混乱しながら自分の体を見つめて、両手を開閉して感覚を確かめていた。
『おいアオ?ほんとに大丈夫かよ…?』
『あぁ、ケン…大丈夫、だよ?』
『…そんならいいけど』
困惑する葵を見ながら、起きる時に葵が言った言葉を思い出す。はっきりとは聞こえなかったけど、思考と感情から予測することぐらいは簡単にできる。今までは意図して常に閉じておいた回線を繋げる。
「僕はセラス、改めてよろしく」
『…!』
ま、僕はできる限り楽させてもらうけどね。
さて、一応投稿が遅くなった理由について説明しておきますと…余裕がなかったからです。
この度仕事が新しくなることになりまして、その準備等でシングルタスクの極みな僕は完全に更新を忘れていました。
…ちょくちょく書いてはいたんですよ?ただ更新忘れていただけで。…はい、すいませんでした。
ひとまず物語はこれからW主人公感マシマシで突っ走っていきますよ!
正直新しい環境に慣れるまでこのボロボロ間隔の更新は続きそうですが、完走目指して何年でもやってやりますよ!




