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熾天使さんは傍観者  作者: 位名月
境界に立つ
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修学旅行2日目:献花

 様々な展示の見学が終わり、展示場の出口に生徒達が集合する。整列した生徒達は、何か話している人もいたけれど皆展示を見て少なくない影響を受けていた様だった。


 僕らの班も映像を見ていない零君と椿さんを含めて全員口数がいつもより確実に減っていた。それぞれが自分の胸の中のモノと向き合っているところに、担任の先生がやってくる。


 「双葉君、この後の予定よろしくね」


 「わかりました。それじゃあ皆、僕いってくるね」


 「ん?なんかあったっけ?」


 「献花。元々の予定にあったよ?」


 「そうか、いってら」


 展示場の見学が終わった後は、龍災で出た死者の追悼のために献花を行う予定があった。先日の入学式の代表挨拶のように先生から頼まれてしまって僕が担当することになっていた。


 「献花してもらうのはあそこの慰霊碑。この後この展示場の人が来てくれることになってるから、その人の挨拶が終わった後に献花してもらって少し話してもらうからね」


 「わかりました。自由に話していいんでしたよね?」


 「うん、この展示場を見た感想とかを話してもらえれば大丈夫だから気楽にね」


 「はい、ありがとうごさいます」


 先生と段取りの確認をしながら待機していると、展示場の中からスーツの男性が少し急ぎながら出てくる。その男性は先生達が集まっている僕がいる場所に来ると、名刺を取り出しながら話しかけてくる。


 「遅くなってしまってすみません!私がここの責任者をしている板式(いたしき)です」


 「いえいえ!お忙しいところをすみません。私が学年主任の…」


 先生と話している板式さんを師匠と同じぐらいの年齢かなぁなんて考えながら見ていると、話がある程度片付いたのか板式さんが僕の方に先生と一緒に向かってくる。


 「こんにちは、君が献花をしてくれる双葉君で良かったか…な…?」


 僕に声をかけてきた板式さんは、僕の顔を見て何か不自然に動きを止めていた。その表情は、今までもよくあった事前に男と聞いていて実際に見た僕の見た目に困惑しているような反応とは少し違った気がした。


 「はい、双葉葵です。今日はありがとうございます。…えっと、何か?」


 「…いや、大丈夫だよ。それより、この展示場はどうだったかな?少しでも勉強になることがあれば良かったんだけど」


 僕がさっき違和感を感じた表情はすぐに笑顔で隠され、板式さんは何もなかったようにそう聞いてきた。なんだろう?…ゆずが乗ったままなのがまずかったかな?


 「とても勉強になりました。なんというか、すごく臨場感があったというか…」


 「…うん。怖いものかもしれないけど、それがあった過去をしっかりと知らないと次に進めないからね。少しでも記憶に留めておいてもらえるなら嬉しいな」


 そう話す板式さんの表情は、先ほどまでの貼り付けたような笑顔ではなかった。過去から学び、少しでも良い未来に繋げようとする誇りを持った大人の表情だった。


 「板式さん!そろそろ初めても良いでしょうか?」


 「そうですね、よろしくお願いします」


 予定の時間も迫っており、先生が生徒達に話し始める。龍災の恐ろしさについて、今を生きる僕らにできること。先生の話は5分も経たずに終わり、板式さんが先生とバトンタッチして出てくる。


 「みなさんこんにちは。私はこの展示場の責任者の板式です」


 ナノマシンの表示が先生から板式さんに変わり、生徒全員に声が届いている状態で板式さんは話しだす。


 「突然ですが、みなさんの率直な感想を聞かせてほしいです。この展示を見て、怖いと思った人はどれぐらい居ますか?」


 板式さんの質問に生徒達は所々で顔を見合わせながら、少しずつ手が上がっていった。最終的に半数以上の生徒が手を上げていた。


 「ありがとうございます。私も怖いと思います」


 「私もみなさんと同じで、龍災があった時は生まれていませんでしたから記録でしか龍災を知りません」


 板式さんの話を聞きながら展示場で見た記録が頭の中を流れていく。炎に包まれていく街や、腐り落ちてボロボロに崩れていく建物。そして戦う人と逃げ惑う人。


 「それでも、過去の記録で龍災の恐ろしさを知っています。当時を生きていた人達の中には、今でも心に傷を負っている人も多くいます。」


 あの恐ろしい光景の中で家族を失った人も山のようにいただろうし、勇敢に戦って散っていった人もいただろうし、理解の追いつかないままただ巻き込まれていた人もいただろう。


 「今を生きる龍災を知らない私達に出来ることは、龍災を忘れないこと。そして龍災で亡くなった方の冥福を祈ることです」


 「ですから、この後代表の方が献花している時にはみなさんも一緒に天国で安らかに眠っていられるように祈ってあげてください」


 では、私からはこれで…と話を切り上げた板式さん。すぐに先生が進行して僕が献花をすることになる。近くで花を持っていた先生から花を渡され、慰霊碑の前に進んでいく。慰霊碑へ向かっている時もゆずは僕の肩から降りてくれなかったので、側から見たら少し場違いに写ってしまっているかもしれない。


 慰霊碑の前に立ち先生達と板式さんと、慰霊碑に向かって三度礼をして慰霊碑の前で膝をつき花束をそっと置く。僕が立ち上がったところで、先生の声が響く。


 「黙祷!」


 慰霊碑の前で目を瞑り、展示場で見た写真やおじいちゃんに昔見せてもらった龍災で失った人の写真を思い浮かべる。


 勇敢に戦った人達も、巻き込まれてしまった人達も、どうかゆっくりと休めていますように。もし同じようなことが起きた時は、僕らも全力で戦います。


 …同じ人間にも負けるような僕が言っても説得力がないかもしれないですけど。


実は結構引きずってる葵君ちゃん


閲覧、ブックマーク、評価やいいねして頂けた方、誠にありがとうございます。

感想も励みになっています。誤字報告も助かります。


作者プロフィールにあるTwitterから次話投稿したタイミングでツイートしているので気が向いたらどうぞ…

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