8,とっ散らかる誤解
私は見てしまった。図書室で、殿下と泥棒猫が一緒にいるところを!
(夜会を最初に持ち出してこられたということは、まさに、婚約破棄イベントの前触れ)
教室に戻りながら、私は両手に拳を握ってしまう。
まるで物語さながらの状況が整えられていく。
面白くてならないわ。
なれば、これからあるのは、冤罪のでっちあげ。
毎日、ノートはちゃんと記しておかないといけないわ。
まさか、王妃様主催の茶会で断罪計画?
新しいわね。
親の目の前で、為されるなんて、なんて勇気があるのかしら。
それとも、最初に口を滑らした夜会が本命なのかしら。
どちらにしろ、私がとるべき道は一つ。
自衛のみ。
そして、晴れて婚約破棄が成立したなら、表舞台をおさらばよ。
婚約破棄だもの、誰にも顔向けできなくて、自領に引きこもっても、誰もおかしいとは思わないわ。
私は晴れて、平民然とした、一領主として、有意義な自領経営に着手して、父と母と自領で暮らすのよ。店を手放したくないかもしれないから、店と自領の往復でもいいわ。
養父母の祖父母も、王太子殿下が望んでの婚約解消、もとい婚約破棄なら、絶対になにも言わない。私からじゃないもの。
嬉しい。
嬉しいわ。
ここで、学んだこともきっと役に立つ。
祖父母のところに行った方が、家族が丸く収まると思った。
父や母と離れたくなかったけど、教育を受けることができるのは、祖父母の元でだけ。ある意味、それがチャンスだと父や母が思っているのが分かった。
祖父母のところで生活して、学んで、領地をもらえば済むのだと思った。
いずれは母へ、そして母から私へ、領地が譲られて行く。突然、領地が私の手に渡って、困ったり、人生を狂わせることになったら大変。
大人の間でどんな話が交わされていたか。具体的には覚えていない。
でも、いろんな私の将来について考えていたのことはよく分かるの。
母が自領を受け取るのならまだいい。でも、未来はなにが起こるか分からない。母を飛び越えて私に来たら、やっぱりどうにもならない。
学べば学ぶほど、そういうことが分かってくる。
知らないまま、大人にならなくて良かった。そう思えるから、やっぱり勉強する道を選んでよかったと思っている。
父と母とも完全に縁が切れているわけじゃない。祖父母の元に行ったから、両親とは縁を切りなさい。そんなことは祖父母は言わなかった。
だから安心していた。
このまま勉強して、良い領主になって、父と母と祖父母と、みんなで仲良く暮らすんだ。
そして、私の人生を歩んでいく道すがら、良い人がいたら、ちゃんと想い合って、両親みたいに良い家庭を築くって決めてたのに!!
そこに、祖父母が持ってきた、王太子殿下との婚約。
なんで!! 叫びたかったわよ。
でもね、祖父母を養父母として、母の娘でありながら、公爵家の次女に収まった私に、抵抗は出来なかった。数年前は、まだ私は学園にも通う前。
立場上、断れない。
そんなこんなで、とんとんと呆気にとられているうちにまとまってしまった縁談。
王太子殿下も、丁寧と言えば丁寧だけど、余所余所しい感じだもの。図書室の問いも事務的だった。
貴族たるもの家優先。所詮、私は家同士が決めた相手に過ぎないの。
こんな淡々とした関係なら、どこかの本のように『真実の愛を見つけた』と言われても、さもありなんと納得するしかないわ。
明日から7時と19時投稿になります。