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41,茶会へ行く

 学園生活に戻ると殿下との接点はほとんどない。学年が違えば、昼時の時間も違えば、登園時間も違う日もある。

 私の出現場所に殿下が現れることもあるが、それもあの日以降ピタリとなくなった。


(これぐらい会わないのは普通じゃない。そもそも、今までだって、公式の場ぐらいでしかまともに会ってないようなものなのだし)


 お忙しいのだと考えるのが妥当である。それ以上の余計なことを考えるのは、以前の私らしくない。ちがうちがうと頭の上に浮かぶ文言をかき消す。


(避けられているなんて、考えるのは厚かましい。もともとたいした接点だってないんだから)


 王妃からの茶会の誘い。

 王家からの夜会の招待状。


 すでに連絡はきている。茶会は祖母と、夜会は祖父母と行くことは決まっている。そこは避けられない。ドレスも用意されている。

 私はいつものように、立場を取り繕って、かりそめの面を被って出席するだけなのだ。


 小忙しい日常をこなしていけば、あっという間に茶会の当日を迎えた。


 


 晴れた陽気に、しげる青葉が映える。

 横と前髪を後頭部でバレッタでとめて、後ろ髪をゆるく流す。茶会なので、夜会ほど着飾りはしない。ベージュに、ほんのりと薄い若葉色のレースがあしらわれ、そのレース上に黄色い花模様が散りばめられている。


 あまり派手な色は身につけない。殿下の横に立つことも多く、金髪碧眼という地の色味も目立つので、衣装が派手だとけばけばしくて、嫌だった。


 祖母と馬車に乗って移動する。

 王城の中庭に会場が用意されている。馬車に乗ったまま、城内に敷かれた道を移動した。中庭に近い白の入り口迎えにある道の端に馬車をとめた。

 

 車窓からは何台も馬車が見えた。続々とご婦人やご令嬢、ご令息が降りてゆく。


 今日は高位の貴族を招いての表向きは王妃様のプライベートな茶会。主たる貴族の女主人たちの会合ともいえ、メインは祖母。あくまで私はおまけ。


(公爵家や侯爵家ばかりで、伯爵家以下はなかなか顔を見せないのよね)


 こういう会でも殿下は参加される。後々の顔つなぎや、以前は婚約者選びも兼ねていたようだ。私と決まった後も、何かと参加されているのは、愛想のよい殿下に会いたいという女主人たちの期待に応えるためだろう。


 令嬢や令息は社交の場に慣れ、身分相応な相手を見つけるためもある。各家の、子息や令嬢を見定める一面もあるのだろう。年齢層も幅広い。学園に通うはるか以前の小さな子から、学園を卒業したぐらいの年の子までいる。


(子どもも多いから茶会というと遊びの集まりに見えて、裏の趣旨が大分違うのよね。思う以上に大事な話をしていたり、子ども同士でも、力関係というのかしら、そういうことを肌感覚で学ぶ場なのよね)


 御者が馬車の扉を開く。祖母が先におりて、私が後に続く。

 馬車で少し待たされた理由は降りるとすぐに分かった。


 御者が横に腰を低くして避けると、殿下がいた。


 黒髪に朱の瞳が映える。

 昼間の茶会のため、衣装は濃いグレーを主色にデザインされ、朱をアクセントに添えている。


 にこにこといつもと同じ笑顔を向けてくる。まずは祖母と挨拶を交わす。その様もそつがない。景色は、どこか遠い。祖母と殿下が私を見た。


 祖母が先に歩いてゆく。殿下が私の方に向かってくる。気持ちは逃げ出したいのに、足は一歩も動かない。まるで意地だけで立っているようだ。


「シェスティン、久しぶり」

「お久しぶりです、殿下。今日はお天気に恵まれましたね」

「本当に、とても清々しい陽気に恵まれて、気持ちがいいね」


 社交辞令を交わしながら、進む。

 いつもと同じ会話をこなし、茶会が始まれば、少しだけ彼の隣にいて、私は気配を外す。殿下は人に囲まれ、私は端に寄って消えるのだ。


 時折、殿下が私に気づき、話しかけても、また誰かが、殿下の傍に寄ってくる。いつもの繰り返しが始まるだけだ。


 人が集まる庭先が見えてきた。会場の入り口に数人の騎士が並ぶ。会場の警備のためだ。

 野外にテーブルと椅子。軽食とドリンクが用意されている。馴染んだ人同士が挨拶を交わしている。その端に、視界が奪われた。


 殿下の護衛騎士と中庭や図書室で一緒だったご令嬢がいる。


 ずんと気持ちが沈む。

 陽気は明るいのに、私だけ、暗がりに取り残された気分。


 身勝手だって分かっているわよ。わかっているからこそ、なお気が重くなるのよ。



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