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4,小さいやっかみは吹いて飛ばす

 制服に着替えて、馬車に乗り学園に行く。

 平日のいつもの私。

 貴族の子弟が通うだけあって、皆、馬車登園。しかも各家が自分の馬車をもって走らせるのだから、さすが貴族と当初はぽかんと眺めてしまった。


 通い始めて、数日で慣れるけどね。


 やっぱり、ここでの交流で今後の交友関係も決まるらしくて、社交にも余念がない。勉学はほどほどという子弟から、きっちりかっちり勉強する者までさまざま。

 

 私はというと、ほどほど。そこは半分平民と思ってあきらめる。


 でも、きっとここで勉強したことは何かの役に立つはずと、課題は全部こなすことにしているの。そういう意味では、高位の貴族令嬢のなかでは、頑張っている方だわ。

 

 人生何があるかわからないもの。

 学べるうちは学んでおかないとね。

 小さい頃から、文字と簡単な計算は教えてくれていた母に感謝だわ。


 平民時代の友達は、文字を完全に読めない子も多くて、計算も習わない。日常の金銭のやり取りで、覚える程度の計算ぐらいしか分からない。


 勉強をおろそかにする貴族の子弟は恵まれていることを理解していないのかもしれない。幼少期より、家庭教師や学園に通い、教育を当たり前に受けてきて、勉学のかったるさばかりが目に付くのだろう。

 

(教育が行き届いているわけじゃないご時世で、高度な教育を受けられるありがたさが分からないのは、恵まれているからなのか、視野がせまいからなのか)


 そこまで私は分からない。

 分からないけど、面倒ごとには巻き込まれるのよ。


 図書室へ行く途中、三人組の子女に絡まれた。


「あら、シェスティンさん。今日も図書室へ行かれるの」

「王太子殿下のご婚約者であられる方が、貧欲なこと」

「勉強ばかりで、音楽や芸事はいかがなものかしら」


 はい、来ました。芸事も普通な私に突っ込めるのはそこしかない。

 同じぐらいの身分の、身ぎれいで、化粧も私の数段濃い少女方。

 皆様、公爵家と侯爵家のご令嬢でいらっしゃいます。


 社交による、力関係の確認にお忙しいのは存じておりますわ。


 三人はカツカツと私の前に立ちふさがる。


 こんな勉学ばかりで、地味なあなたが、なぜ王太子殿下の婚約者に選ばれるのかしらとでも言いたげに見下してくる。

 私、そんなに勉強では目立っていません。

 貴族の子弟でもできる方は本当にできるので、平民出身の凡庸な私では真ん中が良いところ。美に余念がない彼女たちは、そんな私よりも下であることは言うまでもない。


「どいてくださらない。廊下を三人で塞がれては進めませんわ」


 いつものことだけど、しれっと言い放つ。


「王太子殿下のご婚約者である公爵家のご令嬢は違いますわね」

「それもご婚約者としての立場を守るためですか」

「髪も化粧も、どれもそんなに地味でいらして、私たちとも交流もおろそかに、今後はいかがなものかしら」


 つまるところ、彼女たちは、私が仲間にならないのが気に入らないのだ。

 毛色が違う癖に、殿下の婚約者。

 似た身分、似た成績、そういう小さな枠からはみ出ないように頑張っているのに、そこを気にもしない私が気に入らないのだろう。


 普段は、失礼と言って横を通るところだけど、最近ちょっとあたりがきつくなってきた。

 王太子殿下が見知らぬ下級生の令嬢と共に居ることを目撃されるようになってきたからかなんなのか。私への殿下の関心が薄れたとでも思い違いをしているのかもしれない。

 殿下の私への関心など、最初からあるわけないのに。


「そうですわね。女性と言うものは、蝶よ花よと男性から愛でられる者。勉学など必ずしも必要ではないはずです。

 しかしながら、隣国では数十年前の戦乱前夜、異変を察知した側妃が子息を連れて、消えたことはご存知? 女と言えども、時世を読む力がないと、巻き込まれて自分も子どもの命もとられてしまいます。その側妃は産後の療養と称して出奔することで、王家の血を隠し、隣国はいまだその側妃と子息を戦火の火種として探しているそうですけど、一向に見つからないのですってよ。


 蝶よ花よでは、命を落すこともあります。現にその側妃以外の王族は皆殺しにされておりますわ」


 時世を読む知性がないと生き残れない。

 これは本当の話だもの。

 臆病者には、死、の臭い。今は平和だからいいですよ、でも、あなたがた、世が世なら生き残れませんのではなくて。劣等感を刺激する相手をこき下ろしても、なにも手に入らないのよ。あなたの空っぽは埋まらないわ。


「失礼」


 私は、三人の子女の横を姿勢よく、歩き去った。

 










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