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29、自滅になげく

「シエルは、その半分のために、寂しいの」


 私の問いに、シエルは頭をふった。

 俯き、沈黙する。


 なんとも言い難い間を開けて、顔をあげた。


「やっぱり家族と離れているのは寂しいものでしょ。一般論。普通のことよ。私が選んだ道だもの、寂しいことも込みなのよ」

「自分で選んだ道でも、寂しい時は寂しいものじゃないか」


 シエルの目がちょっと大きくなる。

 凝視されて、私はちょっとビックリした。

 

「ねえ、ベン。今日はうちに泊まっていくんでしょ」


(うあっ……)


 そうだった。すっかり忘れていた。叔父に仕向けられ、今日はここに泊まらねばならない。シエル……シェスティンと一晩過ごすのだ。しかも、これはベルンハルドとしてではない、ベンとしてである。


 さらにそこには、義理の父母もいるわけである。どうする、私!


「そうだね。シエルとご両親には、ご迷惑をおかけする」

「気にしなくていいのに。むしろ、うちみたいに小さくて雑多な店の二階なんて狭い家、貴族の方には拷問ではないかしら」

「まさか、そんなことはない。良い社会見学になるよ。表の飲食街ならまだしも、シエルと一緒でなければ表を支える裏の市場に行けることもなかっただろう」


 シエルが横でほっと胸をなでおろす。


「良かった。怖い思いさせてしまったから、本当にそう言ってもらえると救われるわ」


 シエルが喜んでくれるなら、私も嬉しいことはない。


 ないのだが、今彼女を喜ばせているのは、ベンであって、ベルンハルドではない。つまり、ベルンハルドは自ら恋敵を支援しているということになる。


 ベルンハルドの行為が、恋敵のアシストにしかならないという、皮肉。

 かと言って、ベンの株を下げるため、シエルに無体なことができるかと言えば、そんなの無理だ。


 私はちらりと彼女を盗み見る。

 こんなにも近く、自然に話せている状況を自ら壊すことなど、できない。そんなもったいないこと、できるわけがない。

 もったいながっているうちに、彼女と親しくなるのはベルンハルドではなくベン

 私の行為、すべて、裏目。

 なんて、ことだ!

 

「そうそう、ベン。父さんと母さん、夜はずっと店にいるの。私は子どもだから、夜の手伝いはないのよ」

「昼はあんなに手伝っていても?」

「そうよ。お酒を飲みにくる男性が多い時間だから、子どもが出るにはふさわしくないのよ」

「では……、その間は……」

「店舗の上にある居住部分で私と二人きり。だから、ご飯食べて、早めに寝ちゃいましょう」


 二人きり、ご飯食べて、一緒に寝る!!

 いや、一緒に、寝るとは言っていない。それは先走りすぎだ。シエルが言ったのは、早めに、寝るだ。


「どうしたの。顔色悪いわよ」

「いや、どうも刺激が強すぎて……」

「大丈夫。ここらへん初めて来るものね。こんな雑踏や雑然とした街並みなんて見ているだけで疲れてしまうでしょ」

「いや、そんなことはないよ……」


 景色は物珍しくて、異国の雰囲気を感じれば、旅行者のような気分を味わえる。

 この気分の浮き沈みからくる動揺は、私の勘違いのせいである。


「そう? 無理しなくていいのよ。帰ったら、二階で休もうね」

「うん」


 シェスティン、いやシエルの優しさが染みる。

 残念なのは私の方なのだ。


 ベルンハルドが自ら、恋敵を育てている皮肉。

 シエルこと、シェスティンと二人きりという状況に動揺し先走ってしまう思考。

 これぞまさに、嘆かわしい自滅。

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