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27、後ろ髪ひかれる

 ベンが暴漢を退けた喝さいを受け、戸惑う。程なく、自警団が到着し、事のあらましを確認する。目撃者も多いので、風体から、またあいつらかという声があがった。


 私は戸惑うベンに変わって、自警団と話をつけた。

 周囲に集まっていた人々も、それぞれの日常にかえっていく。


 私は、卵を売る店主から四十個の卵を買う。良いものを見せてもらったと、五個おまけしてくれた。

 私は肉を麻袋に入れ、麻袋に入れて持ってきていた麻袋二枚を取り出し、卵を入れてもらった。それはベンが持ってくれた。


「ごめんね、こんな事にまきこんでしまって」

「いや。いい勉強になった」


 ベンは真っ直ぐ前を見ている。引き結んだ口元。ベルンハルドのような愛想のよさは隠れ、気後れしつつも、精悍な横顔に見えた。

 

 私を後ろにかばい、立ち向かう背は、かっこよかった。


「彼らは、有名人なのかな」

「ある一定数、ああいうのが出てくるのよ。元は貧民街の流れを組む地域だからね」

「彼らはちゃんと生きていけるのかな」

「大丈夫よ。ある程度やんちゃしたら、ここには仕事はあるの。どこかで修行して、道を修正していくの。その辺は昔とは違うのよ」

「そうか、それは良かった」


 学園で絡んできた女の子達も、ここで暴れている彼らも、どこか自分に自信がないのだ。威嚇したり、牽制し合ったりしながら、周囲の人間の顔色を見て、外れていないかと確認しながら、疲れていく。そのうち、そのままじゃダメだって気づいて、自分の道を歩いて行くのだろう。


 私がこんなことを分かるのは、二つの世界を見ているからだ。


 市民が手にしている自由と技術とたくましさ。

 貴族が縛られている規則と責任としたたかさ。


 私は両方の生き方を持っている。欲張りにも、両方の良いところを手にしたい、と目論んでいる。

  

 王太子殿下の婚約者になると言うことは、市民として手に入れられる自由を失うことだ。婚約者から王太子妃、王妃になることで、きっと私は失うものも多い。


 市民でいたい。育った場所が好き。ここの活気に触れていたい。父と母、祖父母が携わって、育んできたこの地域が好き。


 ここで、父と母と、祖父母と、私の家族が生きていくの。私が目指しす姿。王の隣に立つ姿じゃない。ベルンハルドの隣に私の成功する姿はないのよ……、ないの。

 

 曾祖父がこの地域に屋敷を構えた。この地に流れ込んでくる隣国の人々と、貧民街と、自領の利益。そのすべてに利を成す道を英断した。

 培われた大切なものを、これからも育むために私はありたい。私は、そのために学んでいるのだから。

 

 王太子妃に私はなりたいわけじゃない。

 幸い、殿下の気持ちは私には向いていない。

 向いていないけど……。


「ねえ、でっ……」

「なんだい、シエル」

「ベン。この街を、地域を、嫌いにならないでね」

「嫌いにならないよ。この地域も、ここで生きている人も、みんな……」

「ありがとう」


 それだけでいい。

 ベン、いや、ベルンハルド王太子殿下の治世においても、この地域が、人を活かす地域であり続ければそれでいい。

 

「ベン。今日はありがとう。助けてくれた時は、本当に、かっこよかったよ」


 王太子殿下が、こんなに、素直で、愛らしい、でも、芯がしっかりした人だなんて知らなかったわ。

 

 こんな方の治世の元なら、きっとこの地域は潰されない。それだけ、分かっただけで、ベンと接点を持てて良かった。ベン、ううん、ベルンハルドのいつもと違う一面を垣間見れて良かった。


 人を嫌うのは力を使う。嫌わないで、この人は良い人だったな、って去れる方がずっと楽だ。

 

 殿下の心は、シェスティンにはむいていないことは分かっている。


 前みたいに、喜びきれない。


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