表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

24/50

24,暴漢に立ちふさがる

 私の横で、ベンがへなへなと手をつないだまま、へたり込んだ。

 ベンはベルンハルド。王太子殿下に、市民の台所を賄う肉屋は生々しすぎた。


「大丈夫、ベン。びっくりした?」

「だっ、大丈夫だよ。ちょっと驚いただけ」


 ショックで軽く青ざめたベンが震えながら笑う。さすがの私も刺激が強すぎたのね、と気の毒になる。一緒にしゃがんで、彼の背を撫でた。


 ショックだった顔がみるみる変な顔になる。気持ち悪くなりすぎて、吐きそうなんてないわよね。道の真ん中で吐く醜態を、殿下に晒させるわけにはいけないわ。


「脇でちょっと休もう。ほら私の肩にてをかけて」

「あっ、ありがとう」

「いいのよ。刺激が強かったのよね。ごめんなさい、気が付かなくて」


 ベンがふっと顔を避けた。とても気持ちが悪いのね。

 よろよろとベンは立ち上がる。肩に手をかけたまま、道の脇へ進む。肉屋の横だと生臭い。より気分が悪くなるかも。

 私は、彼を真向かいにある卵屋のすぐ横に連れて行った。卵屋の横は、さらに細い道が続く。その角に、私はベンを座らせる。


「大丈夫か、そこの兄ちゃん」


 卵屋の店主が話しかけてきた。


「ここでちょっと休ませてもらえるかしら。肉を買ったら、卵を買う予定なの。四十個ほど欲しいけど、用意してもらえる」

「まいどあり。肉を買っている間に、用意しておくよ」


 卵を買うと言っておけば、脇で休んでいても悪い気はしないだろう。その証拠に、卵屋の店主が空の木箱を差し出してくれた。

 ベンに座るように促すと、本当に素直に従う。


 弱っているベンは、いつものスマートさのない素の若者になっていた。


(殿下ってこんなにも繊細な方だったのね。いつもの余所余所しさや、丁重な接し方は、もしかしたら、こういう気の弱さを隠すためだったのかも。だって、貴族社会だもの、弱さや、繊細さも含めた隙なんて誰にも見せれないはずよね。

 特に素っ気ない婚約者になんて、信用が置けなくて、余所行きの顔で誤魔化すしかなかったのかもしれないわ。私、本当に、素っ気なかったものね)


 殿下にも、殿下の大変さある。そんな当たり前のことに、今まで気づかなかった。


「待っててね。肉を買ってきたら、すぐに戻るから」


 私はベンを置いて、肉屋に走った。父に頼まれた品を買い付ける。領収書ももらった。肉屋の親父さんに、礼を伝えた時だった。


 背後から、バンと木が破裂するような音が響く。


 何事かと振り向いた。

 周囲の人達も一斉に音が鳴った方を向く。


 そこには、数人の男たちに囲まれたベンが地べたに座り込んでいる。顔をあげて、呆気にとられていた。

 地面に木片が散っている。さっきの音は、座っていた木箱が壊された音らしい。


「だめ!」


 殿下が傷つけられてはいけない。怪我でもしたら大変なことになる。下手に身なりの良い服を着ていたから、お金を持っていると勘違いされたのかしら。


 私はベンに向かって走っていた。


「あんたたち、その子から離れなさい!!」


 ベンと男たちの間に滑り込む。


「こんな昼間の公道で、何をしているの!」


 ベンを守るように私は踏ん張って立ちはだかった。

 周囲で人がざわめき始める。この調子なら、すぐに自警団がやってくるだろう。


 こいつらは、力を持て余している若い衆だ。それでも王族や貴族から見れば一般人。知らずに貴族や王族に手を出しても罪になる。彼らだけでなく、家族や親族も危ない。


 なにより、殿下にここにいる人たちを嫌ってほしくない。

 折角ここにいるのだから、殿下にも楽しんでもらいたい。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ