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2、公爵令嬢は祖父母と暮らしている

 有意義な観察し、授業を終えて、馬車に乗り家路につく。帰宅するなり、真っ先に自室へ飛びこんだ。最初にやることは、秘密のノートへ今日の出来事を記すこと。


 大事なことは、何時何分何があったか。


 感情はだめよ。


 あの泥棒猫が殿下に笑いかけて、さらに殿下も微笑み返して、きーなんて記してはいけないわ。

 有利に婚約解消、もしくは、婚約破棄を受け入れるためには、事実関係を示す出来事を無感情で記した証拠を残しておかないとね。


 私に落ち度はありません。あの方が先に浮気をされているのです。証拠はあります、と突き付けるため。時系列の記録は大事。


 学園の中庭という目撃者が多い場を逢引きに選んでくれた殿下。その無防備。私のためにありがとう。そんな感謝を述べたくなるわ。


 今日の記録もきちんと記したら、大切なノートは机の引き出しへとしまっておくの。


 それから、制服からお夕食用の衣装に着替える。


 家族との食事は、気を使い緊張する。それは私が次女であることととても関係が深い。


 



 使用人のメイドが「失礼します、お嬢様」と私を呼びに来る。

 水色のワンピースに着替えた私は、メイドと共に食堂へと向かう。

 

 すでに家族が席についている。学園から帰ってきた私を迎えてくれる養父と養母、もとい、祖父母がにこにこと迎えてくれた。

 

「さあさ、こちらに座ってシェスティン」

「はい、グランマ。失礼します」


 祖母はとても優しい。

 でも、しつけは厳しい。

 言葉遣いから食事のマナーまで、口調は優しくても、厳しい。


 祖父はあまりしゃべらない。

 厳格な人。

 娘のしつけは母親と家庭教師に任せるとし、領地経営と政界でのお仕事でお忙しいのです。


 メイドが前菜を運んでくる。

 家族そろって食事ができるのは、月に数回。

 祖父も仕事だが、祖母も社交で忙しい。

 祖母の社交力という、縁の下の力は見くびることができないのだ。


「シャスティン、その水色のワンピース。とてもよく似合っているわ」

「ありがとうございます」


 前菜が運ばれてくる。季節の野菜彩にオリーブが添えられた白く細長いお皿。その端には小さなグラスが添えられ、赤く照り返す魚卵が乗せられたオイルと酢と塩で味付けた白い貝柱が盛られていた。


 家族がそろう食事時は、一般的なコースメニュー。

 これは私のマナーの練習も兼ねている。

 

 祖母と二人きりの時は量も半分で品数も少ない。


 一人で食べる時は、部屋に運んでもらう。その時は、プレートに二つほどに乗せてもらってくる。


(生まれが生まれだから、どうしても、お片付けが気になってしまうのよね)


 貧乏性はきっと一生ぬけないのではないかと私は諦めている。


 食事は静かに頂く。

 食べ終わり、次の料理が届くまで、祖母の求めるまま、質問に答えていく。


「今日はどんな授業でしたか」

「音楽と歴史、語学に芸術の授業を受けてきました。語学は海を挟んだ隣国の講師が行う臨時特別授業です」

「まあ、隣国のそれは素晴らしいわ」

「はい。我が国と並び、大国の一つです。海産物が豊富で、あたたかい地域は観光地としても有名ですね。今回の特別授業は、一般的な挨拶とともに、隣国特有の文化を学ぶための授業でもあります」


 コーンと豆をすり潰し裏ごしした舌触りの良いスープが運ばれてきた。


 お話はそこで一旦終了。


 問いに答えはないように思うでしょ。違うのよ。

 質問にはちゃんと正解がある。それは祖母特有の正解であり、貴族特有の正解ね。前向きに、丁寧に、お上品に、つつがなく答えができるようになるための、練習?


 本音を言えば、そんな練習いるの? って思うけど、そんなことは言っていられない。


 なにせ、私は即席ご令嬢。

 生まれながらの、バリバリの公爵令嬢ではないのだから。

 



『シャスティン、その水色のワンピース。とてもよく似合っているわ』

 この祖母が示す言葉は、私が母にそっくりだということよ。

 

 公爵家にとって、私の母が長女であり、母の娘が次女。


 駆け落ちした娘の子どもを引き取って、自らの次女にした。

 これが、私の正体。

 半分平民の張りぼて公爵令嬢です


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