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17/50

17、なんでここに、この人が?

「ありがとうございます。またのおこしをお待ちしてます」

 

 二人連れを見送る私は、シェスティン・エールソンこと、シエル・ノイマン。

 カウンターに残ったどんぶりを父に渡し、ふきんを受け取る。

 入り口の扉が開かれる音が鳴り、父がそちらに視線をなげる。

 私は気にせず、ふきんで厨房に隣接するカウンターを拭き始めた。 


「シーグル、どうした」


 入り口の扉を開け、入れ替わるようにシーグルおじさんがはいってきたようだ。

 まずはカウンターを拭くのが先。私は一通り拭き終えたら、たたまれたふきんを折り返して、キレイな面でもう一度拭きなおす。


「ちょっとそこで、甥っ子と会ってな」

「甥っ子!」


 父の素っ頓狂な声に、私は手をピタリと止めた。

 

(シーグルおじさんに甥っ子いたんだ)


 家族とか、家庭という雰囲気を感じさせない人だけに、親族がいるなんて初耳だ。


「ああ、偶然だな。ここに遊びに来たみたいなんだ。折角だから、美味いものでも奢ってやろうと連れてきた。

 はいれよ」


 入り口からもう一人の足音が響く。誰かが入ってきた。

 私はカウンターを拭きつつカウンターを整える流れ作業をしながら、言った。


「シーグルおじさんに甥っ子なんていたの」

「ああ、俺の兄の長男だ」


 私は顔をあげた。


「ちょうど、カウンターが二席空いたから、ここに座ってね」


 ふりまいた笑顔が引きつりそうになった。慌てて、誤魔化す。相手はきっと気づかない。


 シーグルおじさんの横には、黒髪に朱の瞳の男の子が立っていた。

 王太子殿下そっくり。他人の空似にしては、似すぎている。


 だとしたら、シーグルおじさんは何者?

 いやいやいや。シーグルなんてありふれた名前だわ。

 王太子殿下だってこんなところに来るわけがないのだし。


 内心動揺しながら、それを隠して、私はカウンター席を示した。


「シーグルおじさん。どうぞ、こちらへ」

「ありがとう、シエル」


 シーグルおじさんの甥っ子は、ちょっと驚いた目をした。あまり感情を表に出さない殿下とちょっと違う反応だ。髪色と瞳の色が同じであるだけで、やっぱり勘違いかもしれない。

 男の子を値踏みする。勘違いされない程度に眺めた私は目をしばたかせた。

 営業用笑顔に切り替える。


「初めまして、シーグルおじさんの甥っ子さん。私は、シエル。シエル・ノイマンと申します」


 数歩進み、彼の傍で手を差し出した。

 男の子は、戸惑いながら私の握り返す。

 おどおどとした所作は、まるで殿下とは違う。


(やっぱり、見た目だけ似てる気がしただけよ。他人の空似だわ)


 小さな声で、これまた自信なさげに彼が言う。


「初めまして、ベンと申します」

「よろしくね。ベン」


 私が笑い返すと、ベンが照れたように笑った。


(あっ、可愛い子だ)


「ヤン。悪いけど、もう一杯頼むよ。俺には、エールにつまみでもつけてくれ」

「おう。そら、シエルも仕事に戻って。ベンか、君もこっちへどうぞ」


 父がベンを手招きする。


「どうぞ、座って。父が作る隣国の料理はとても美味しいのよ」


 横にずれて、どうぞと出て示すと、彼ははにかんで目礼した。


「お勘定お願いします」

「はい、今行きます」


 テーブル席から声がかかり、私はベンに笑んで、手を振った。


「くつろいでってね」


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