15、なんでこんなとろに叔父上が
「叔父上こそ、どうしてここに!!」
言った瞬間、しまったと思った。そばにいた、メルタ嬢とカールが凍り付く。
私の叔父と言えば、一人しかいない。
我が父である国王の弟、王弟シーグル。
仰天して、これ以上の言葉も出ない私たちを面白がるように叔父は口角をあげて、空いていた一席に座った。
「緊張しなくていいよ。俺もどうせ、知り合いの店に来ただけだ」
「知り合いとは。叔父上に、こんな平民街に知り合いがいるのですか」
「うん。俺、ここでは一般市民だもん」
だもん、という軽い言葉に、カールとメルタ嬢はどう答えていいか分からず絶句する。伯爵家の二人は叔父と直に話すのは辛いだろう。この場合、叔父とまともにしゃべれるのは私だけだ。
「叔父上。叔父上がこんな遊びをされているなど知りませんでしたよ」
「時々、来るんだ。一度来たら、面白くて、癖になるだろう」
「気持ちは分かりますが……。父は知っているのですか」
「知っているよ。私のこういう遊びは、昔からだからね。王都のはずれにはある隣国の文化と混ざり合ったこの地域は、異国の食文化や店構えが見られて、散策のし甲斐がある」
「それは同意致しますが、それにしても……」
これ以上は、私も言葉が出なかった。
「ほら、そこの小道を見ろよ。あの紺色の布がかかった店だ」
叔父が示す店を見るとガラッと扉が開き、人が出てきた。三角巾をかけた少女が、三人連れの家族連れを見送り、新しい客を招き、店のなかへと戻って行った。
「あの店は、あっつい魚介のスープに浸した手打ち麺の料理を提供する店だ。俺はあの店の開店当初から常連さんなの。美味いぞ。何なら、連れて行ってやるか」
ちらりと伯爵家の二人を見ると、答えることもできずにいる。それはそうだろう。断れる立場だとは思えないはずだ。
「叔父上、とてもありがたい申し出であるのですが……。カール、メルタ嬢」
困惑する二人に私は目配せした。
「叔父上、では私を連れて行ってください。この二人は、婚約者同士です。せっかくですので、二人きりで散策させてあげる方が、嬉しいのではないかと……」
苦し紛れだった。護衛騎士のカールは、しまったという顔をしている。メルタ嬢もそんなカールに同調するように不安げだ。
叔父はカラカラと笑った。二人が困惑しているのは察していないわけがない。豪胆そうで、気遣いについては繊細と評判の良い叔父だ。お若い頃に婚約解消されて後は、悠々自適に独身貴族を謳歌しているものの、悪いうわさもなく、むしろ御婦人方の評判は高い方である。
「そうか、それは邪魔をしてはいけないな。俺と行ってみるか、ベルンハルド」
私は胸をなでおろし、カールとメルタ嬢に顔を向ける。
「二人とも、二時間ほど自由な時間にしよう。私も偶然ではあるが、叔父上と会った。この場所に詳しいそうでもあるので、叔父上に色々教えてもらおうと思う。
二時間後に、そうだな。紺の布がかかった布がある店に曲がる道の角で待ち合わせをしよう。いいな」
「大丈夫だ。俺がついているからな、二人は二人で楽しんでおいで」
叔父上と私に言われたら、カールもメルタ嬢も断ることは難しい。
二人は顔を合わせ、メルタ嬢が照れたように笑った。彼女はカールが好きなのだ。ぱっと笑顔が花が咲く。カールが笑みを返す。
カールとメルタ嬢が二人で私たちに頭をたれた。
「お言葉に甘えさせていただきます。二時間後には、必ず小道の角でお待ちしております」
「二人の邪魔はいけないね。ベルンハルド、行こうか」
「はい」
立ち上がった、叔父に続き、私は立つ。
カールとメルタ嬢に軽く会釈し笑いかける。
二人は安堵の表情を見せ、照れくさそうに笑った。