14、飲食街のテーブル席
メイン通りの人混みに私は仰天した。
まさか、こんなに人が集まっているとは思わなかったのだ。舞踏会のホールでひしめき合う数を越えている。物凄い広さに、人数だ。
「壮観だな」
「休日の晴れた日はいつもこのような雰囲気です」
「来たことがあるのか、カール」
「殿下が一度見てみたいとお話しされていたので、事前に何度か一人で下見していました」
馬車を小道の脇にとめて、私たちは三人でメイン通りを下る。
眼下に海を望む。
青い海原に漁船が浮かんでいる。
蜃気楼のような大陸が彼方に霞んで見えた。
メイン通りの太い十字路を曲がる。
しばらく歩くと、たくさんのテーブル席があり、そこここに人々が座る。家族連れ。老夫婦。カップル。友人同士。
道沿いに構える店だけではない。屋台も並んでいる。良い匂いが漂ってくると、私のお腹が鳴る。隣からも聞こえたと思うと、メルタ嬢がお腹を押さえていた。
目があうと恥ずかしそうに笑う。
色々助言はしてくれても、そこは女の子であるのだと私は可笑しみを覚えた。
「カール。なにか食べたい」
「どこかの店に入りますか。それとも、屋台で買いますか」
「そうだなあ。私は、流れてくるこの匂いが気になる」
「これは、味付けた肉に衣をつけて、油で揚げた品ですね。食べてみますか? メルタも食べてみるかい」
私とメルタ嬢がうんうんと頷くと、カールがにっこりと笑った。
「一応、こういう誰もが食べている店なので、毒など考える必要はないと思いますが、私が味見をしてから召し上がってください。あと、どこでもいいので、三人で座れそうな場所を取っておいてください。私が迷っていたら、手をあげてくれると助かります」
カールはすたすたと屋台に向かって歩いていく。
私とメルタ嬢が席を探していると、丁度、四人の家族連れが席を立った。メルタ嬢が「こちら、よろしいでしょうか」と声をかけ、入れ替わるように私たちは座った。
品を手にしたカールがきょろきょろしている姿が目に入る。私は片腕をあげて大きく振る。
すぐに気づき、駆け足で近づいてくる。
「お待たせしました」
手にしていた二皿を置き、カールも座った。
皿には揚げられた肉が乗せられ、レモンが添えられている。カールが、私とメルタ嬢に添えられていた串を渡す。レモンを一皿の上に絞りながら、ふりかけた。
「レモンをかけた方とかけてない方で、少し味が変わります。どちらでもお好きにたべてください」
そう言うとカールは、皿の端に置いてある串を手にして、レモンを振りかけていない一皿に盛られた肉を刺した。
口元に寄せて、数回息を吹きかけて、頬張る。
まだ熱かったようで、はふはふしながら、食べていた。
私とメルタ嬢も、顔を見合わせ、肉に串を刺した。口元に寄せると、スパイスがきいた香りが鼻腔をくすぐり、食欲をそそられた。
「肉を薬味の聞いたたれにつけおいてから、衣をつけてあげているそうです。美味しいですよ」
カールの言葉が後押しとなり、私は一口頬張った。肉汁がじゅわっと溢れる。味付けされた肉汁は噛むほどにあふれるようであった。スパイスの刺激もたまらない。串に刺した一粒を食べ終えて、親指で口元をぬぐう。
「美味いな」
「でしょう。ここは、隣国の料理が入ってきており、珍しい料理も多いんですよ。小麦で作った薄い皮に肉だねを詰めて焼いた品も美味しかったです」
「カール。何度も足を運んだ理由はこれか!」
美味いものが食べれるから、下見を理由に通っていたというわけだろう。確かに、このような品を親しい者と囲んで食べたら、それだけで楽しいはずだ。
カールは図星とばかりに笑っている。
「あれ、ベルンハルド。ベルンハルドじゃないか。こんなところで、どうした」
突然、声をかけられ、私たちは顔をあげた。
そこには私の見知った顔をした人物がいた。
「叔父上こそ、どうしてここに!!」