第九十八話「初恋」
「迎えにいったらお前の傍から決して離れない。お前を離さない」
「──っ!」
結月は静かに言葉を紡ぐ。
それに対し、朔は目を見開き驚いた。
「朔様だったのですね……あの少年は……」
「それは思い出さなくていい」
そう言いつつ顔を背けて照れる朔。
「私たちはすでに出会っていたのですね」
「ああ」
結月は涙を拭い取り、朔の顔を自分の顔のほうに向かせる。
「なっ!」
「私はあの時、侍女の方が傍からいなくなり、自分まわりの人はいつかみんないなくなってしまうのではないかと怖かったんです」
「……」
結月の言葉に耳を傾ける朔。
「実際に父も母も、そして屋敷にいたみんないなくなりました。けれど、朔様は違った。本当に迎えに来てくださった。約束を守ってくださった」
(お父様、お母様、私は……私は……)
「私にとって、あの日のあの出会いこそが『初恋』でした。だから──っ!」
結月が言葉を言い終える前に、朔は結月の腕を掴みそのまま口づけする。
(朔様っ……)
そのまま身を任せるように甘い口づけを享受する。
何度も何度も角度を変えて重なる唇。
やっと離れた二人は恍惚とした表情でお互いを見つめていた。
「俺とお前はすでに婚約者だ。反論は許さない」
口づけをしたことに対して結月の反論は認めないという朔の想いがこもっていた。
「朔様……」
「なんだ」
「私はあなたのお傍を離れません。これからもずっと」
「ああ」
結月は朔の胸に自身の頭を寄り添わせると、その頭を優しくなでるように朔の手がすべる。
──金翠の間。
目が覚めた結月は朔が招集した守り人たちに『翠緑の風』について、そして朱羅の出自について語った。
「生命力を奪う力……」
「はい、私の力はその力に対抗するために存在する力です」
「信じられねえ……そんなことあんのかよ……」
蓮人は歯を強く噛み、強大な力の存在に畏怖する。
「一つ、結月さんにはお伝えしていないことがありました」
凛は結月のほうを向き、発言する。
「? なんでしょうか?」
「私たちは朱羅を『涼風家の仇』『一条家の敵』として扱ってきましたが、正式には違います」
凛は少し言うのをためらいながら、真実を告げる。
「先代の守り人は全員、朱羅に殺されたのです」
「──っ!」
「つまり、私たちは全員父親を殺されています」
その言葉に実桜は目を閉じ、瀬那と蓮人は歯を食いしばった。
「あなた一人の敵だと思わないでください。全員で闘います」
結月は凛から告げられた事実を重く受け止め、深く息を吸って吐いた。
「わかりました。私は皆さんと共に闘います」
結月たちは意思を固めた。
──数日後。
宮廷の中は騒がしく、そしてそれは結月たちも同じことであった。
「朔様っ! 裏門の警備を固めてきました」
「全員ぬかるな」
「はい!」
結月と守り人たちの声が重なる。
そう。朔の予言した災厄の日をいよいよ迎えることとなった──
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