第九十六話「秘術の真実」
「お前が発動した『翠緑の風』は、父親から受け継いだものではないな?」
「はい、これは涼風家でも限られた人しか発動し得ない秘術と呼ばれるものです。実際、200年はこの秘術を使えたものは一族に現れていなかったそうです」
結月はゆっくりと語り、またその先が口ごもる。
「どうした?」
「いえ、この秘術の存在と共にもう一つ父に教えられたことがありました」
朔が結月の次の言葉を静かに待つ。
「この『翠緑の風』は一族の子供が先に持って生まれてくるもう一つの”ある秘術”に対抗するべく存在する秘術だと。そしてその”ある秘術”は『凋枯の風』。生きとし生けるものの生命力を奪う力です」
「生命力を奪う……」
「一族は本来その子を忌子として、牢に入れて育て、そしてそこでその子は一生を終えるそうです」
「……」
「しかし、今代は特殊なことが起こりました。一族の中に『翠緑の風』を出すものが現れたのに、『凋枯の風』が発現した者がいなかったのです」
「──っ! まさか……」
朔は合点がいったように結月の目を見て言う。
結月もそれに対し、頷いた。
「今代の『翠緑の風』の発現者は私、そして『凋枯の風』の発現者が朱羅です」
「……知っていたのか、朱羅のことを」
「はい、忘れていました、長年。私自身も会ったことがあったのはほんの二度ほど」
「朱羅はそのことを知っているのか?」
「わかりません。ただ、何かをきっかけに知った可能性はあります」
結月と朔の間に長い沈黙が流れる。
「朔様、あなたはどこまで知っているのですか? 父は朱羅をまさか殺そうと……」
「いや、千里様と俺の父親は朱羅を保護していた。朱羅を殺そうとしたのは涼風家の元老院の者どもだ」
「では……やはり、朱羅は……」
「千里様と俺の父親が朱羅の家族を殺したと思い込んでいるだろうな」
「まさか、それで父と母は殺されたというのですか?!」
結月はこれまでの自分の人生を思い返しながら涙を流した。
幼い自分を見守るような父と母の笑顔。
父に連れられて朱羅と初めて会った日。
侍女と毬で遊ぶ楽しい日々。
そして、一人の少年と交わしたあの言葉──
「──っ!」
「どうした?」
結月は涙を頬に伝わせ、朔を見つめた。
(どうして思い出せなかったのだろう……どうして忘れていたのだろう……そうだ……あれは……)
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